AIに食わせる側と食われる側の、致命的な思考回路のギャップ

AIに食わせる側と食われる側の、致命的な思考回路のギャップ

アタラ 広告代理店運用強化トレーニング

「AIに食わせる側」の発想

※この記事は、アタラフェロー / 電通総研カウンセル兼フェロー/ 電通デジタル客員エグゼクティブコンサルタント 有園雄一さんからご寄稿いただきました。

ファミリーイナダというマッサージチェアの会社をご存知だろうか。ここが「ZOZOSUIT」を売り出した。いや、失礼。まるで「ZOZOSUIT」のような商品を売っている。

ファミリーイナダの「ZOZOSUIT」は、「LUPINUS SHOULDER」。「マッサージチェアとウェアラブル端末による365日・24時間健康管理システム遂に完成」と謳っている。

私は、「ZOZOSUIT」も「LUPINUS SHOULDER」も、「AIに食わせる側」の発想だな、と思っている。

「ZOZOSUITは、あなたの身体の寸法を瞬時に採寸することのできる伸縮センサー内蔵の採寸ボディースーツです」とウェブサイトに書いてある。「LUPINUS SHOULDER」は、「マッサージチェアとウェアラブルデバイスを使用して身体情報を365日24時間クラウドで監視。その身体情報から未来像を予測後アドバイスを表示し、人工知能システムを搭載したマッサージチェアで施療」と記載されている。

どちらも、個人情報(身体情報)を取得し、システムに解析させる。AIにデータを食わせる。

ファミリーイナダ LUPINUS SHOULDER
※本画像は、LUPINUS SHOULDERのウェブページからキャプチャーして掲載しています

 

トヨタマーケティングジャパンがなくなったのは、広告宣伝が重要ではなくなったからなのか!?

「リゾーム化社会」(「リゾーム化社会」については、こちらを参照)では、企業が消費者と直接つながることができる。そして、それは、広告や宣伝という機能・役割の重要性の低下に帰結する。

株式会社トヨタマーケティングジャパンがなくなった。「2017年12月31日を以ちまして活動を終了いたします」とウェブサイトで閉鎖・統合のお知らせをした。トヨタ国内の広告宣伝機能として、マーケティング及びプロモーション活動を担った会社は、独立している必要はなく、各事業部に吸収されていくらしい。

広告や宣伝の機能は、独立するほどは、重要ではなくなったのだろうか?

2017年10月1日付の組織改編で、ライオン株式会社は「宣伝部」の看板をおろした。部署名を改称して「コミュニケーションデザイン部」として新しく生まれ変わった。記事によれば、「CXプランニング室」を新設し、これまでの宣伝部とデジタルコミュニケーション推進室を一緒に集約してブランド育成機能を持たせ、生活者へ体験価値を提供するコミュニケーション戦略を立案・推進するらしい。

おそらく、かなりの議論の末に、トヨタもライオンも、「広告宣伝機能が独立している必要はない」「宣伝部ではもうダメだ」という結論になり、役員会などで決議され、大きく舵をきったのだろう。

 

広告や宣伝は終わったのか?

「広告や宣伝の何がダメなんだ!」と、そんな叫びが、汐留や赤坂から聞こえてきそうだ。

完全にダメとは言わないが、時代遅れなんだとは思う。「リゾーム化社会」において、消費者と直接つながる選択肢ができた時代において、「宣伝する」「広告する」「広報する」というスタイルは、まったく無意味な手法ではないけれども、でも、企業戦略的にそれほど重要ではないのだと思う。だって、消費者と直接つながって、その各人ごとに直接コミュニケーションできるのであれば、そうした方がいいと、みんな考える。直接やり取りして、直に不満や要望などのニーズを聞いて、それらに対応するために商品やサービスを改善していく。そういうアプローチの方が、直接つながることができないアプローチよりも、企業にとって、戦略的に重要なはずだ。

ファーストリテイリング/ユニクロの柳井正氏は、「情報製造小売業」に変わるという。「今という時代は、インターネットを通じてお客様に豊富な情報が瞬時に伝わり、産業界もデジタル化によって瞬時に集まった情報をAI (人工知能)で分析するという進化を遂げています。」とその理由を書いている。

このような時代の流れの中で、多くの人が「宣伝する」「広告する」「広報する」という消費者へのアプローチでは、ダメだと気づき始めた。その結果、トヨタマーケティングジャパンはなくなったし、ライオンの宣伝部は改称したし、ファーストリテイリングは「情報製造小売業」への転換を決意した。

そして、そのような時代認識の延長線上に浮かびあがったアプローチが、「ZOZOSUIT」や「LUPINUS SHOULDER」だ。消費者と直接つながり、どちらも、個人情報(身体情報)を取得し、システムに解析させる。AIにデータを食わせる。

AIにデータを食わせる。そして、AIを使いこなす。使い倒す。AI集約的な(Artificial Intelligence Intensive)ビジネスへの転換。AI集約的な業務フローへの転換。そうしなければ、あなたの仕事がAIやロボットに食われてなくなるだけではなくて、会社ごと、産業ごと食われてしまう。そんなリスクや危惧が背後にある。

AI ロボット

 

テレビCMの効果測定をしたいと言ったら、笑われた

ひるがえって、広告業界はどうか。AIに食わせる側なのか? 食われる側なのか?

2005年ごろに、総合広告代理店の人から言われた。「テレビCMの効果測定? あははは。測らなくていいんだよ」と。測るなんて、とんでもない。もし効果が悪かったら、どうするんだ。テレビCMが売れなくなったら、お前は責任を取れるのか?そんな態度だった。

2018年のいま、総合広告代理店の人たちの態度も、だいぶ、変わった。私が一緒に効果測定のプロジェクトに関わることも増えた。でも、引き続き、効果測定に後ろ向きの人たちも、まだまだ、多いと思う。

過日、クライアントとの打ち合わせで、広告宣伝活動の効果を数理統計的に分析したいという要望があった。そこで、課題となったのが、認知やディーラー店舗来店者数、ディーラー店舗ごとに独自にやっているイベント開催数など、売上に影響を与えるはずの重要なデータが十分に揃っていないことだった。

そのとき、そのクライアントの現場担当者は、データを揃える手間とコストを考えると、今回の分析は諦めざるを得ないと判断した。だが、その後、1週間ほど経過して、クライアントから連絡が入り、やっぱり実施したいと判断が翻った。次の打ち合わせにいくと、マーケティング担当役員も参加して、こう言った。

「分析に必要なデータを計測したいし、集めていきたい。なぜなら、いま、経営側では、経営判断をデータに基づいて行うために、データを収集していく方向になりました。今後は、人工知能などを利用して、データを投入し解析させて、それに基づく、よりスピーディな経営判断をしていきたい。そのために、ご協力をいただければと思っています。」

私は、現場担当者がデータを揃えることを諦めたときに、この会社は、AIに食われる側だな、と思った。しかし、そうではなかった。経営層は、時代の流れを把握していて、データを集めてAIに食わせる側に回らなければ、リスクがあると判断したのだ。

 

データを揃えて、効果測定をする。「AIに食わせる側」に回るためだ

広告業界は「AIに食わせる側」なのか?「AIに食われる側」なのか?テレビCMの効果測定をしてデータを集めなくていいのか?AIに様々なデータを食わせて、プラニングや提案業務に活かして、AIを使い倒す側に回らなくていいのか?経験と勘に基づくアプローチも引き続き、重要だと思う。であるからこそ、AIを使い倒す側にまわって、業務をより効率的に改善し、かつ、より効果的な提案ができるように、「経験と勘とAI」で提案できるように、変化させなければならないと思うのだ。

テレビCMをはじめとして、マス広告の勢いは弱まってきたと言われて久しい。しかしながら、まだまだ、捨てたものではない。社会的な役割もあるし、広告効果も充分にある。広告効果は、認知率や好意度、好感度、CMイメージ、購買意向などで数値化されることが常だった。だが、これだけではない。

たとえば、「ヴェブレン効果」というものがある。アメリカの経済学者・社会学者、ヴェブレンが論文「有閑階級の理論」(1899)で言及したことに由来する効果だ。これは、黄金狂時代の米国の有閑階級に特徴的だった「見せびらかし」の消費(顕示的消費)について表現している。(Wikipediaより:https://goo.gl/U4wAcm

メルセデス・ベンツやBMW、ポルシェ、あるいは、シャネル、カルティエ、ルイ・ヴィトンなど、世の中の一般の人たちが、高級車、高級ブランドだと認識しているから、価格が高くても購入する価値がある。そういう商品やサービスがある。そのような社会的な集団的な認識や感覚を醸成していく力が、マーケティングや広告の本来の力としてあるはずだ。そこに目を付ければ、「宣伝する」「広告する」「広報する」という機能と役割の意義を再生できると思う。

高級ブランドだけではない。一般の消費財やサービスであっても、社会的にどのくらい信頼されているのか、どのくらい普及しているのか、話題になっているのか、そのような社会的集団的な認識や感覚は、消費者の購買行動に影響を及ぼすはずだ。

たとえば、ソフトバンクの「白戸家」やKDDIの「三太郎」のCM、あるいは、AppleやGoogleですらテレビCMを多用するのは、社会的集団的な認識や感覚、つまり、話題感や普及感、高級感など、社会的なイメージが消費行動に影響するからだ。

このような社会的集団的な影響を数値化する手法、そして、それを織り込んだ分析結果も、いま、最先端で「AIに食わせる側」のクライアントの中では、利用し始めている。説明するまでもないと思うが、このような社会的集団的な効果は、売上にプラスに働くのだ。分析から明らかになってきたことだ。

であれば、積極的に、テレビCMの効果をはじめ、様々な効果を、きちんと調査をして、データを収集していった方がいい。それによって、マーケティングや広告を生業とする我々も、収集したデータをAIに食わせて、より効率的に効果的に稼いでいくことができる。

ダッシュボード

これまでの、広告業界の業務は、労働集約型(Labor Intensive)だった。これからは、AI集約型ビジネスに変わっていくところが生き残るはずだ。AI集約型(Artificial Intelligence Intensive)な思考回路を身に付けられるかどうか。その差は、致命的なギャップになる。

あなたの会社は、AIに食わせる側ですか?それとも、AIに食われる側ですか?あなたの会社は、経営に影響するデータを整えていますか?よりスピーディーで効率的効果的な経営判断を志向していますか?あなたの会社の経営層は、引き続き、労働集約型(Labor Intensive)なスタイルに甘んじていますか?それとも、時代の流れを察知してAI集約型(Artificial Intelligence Intensive)ビジネスに転換しようと努力していますか?

AIに食わせる側に回った方がいいと思う。マーケティングや広告業界もAI集約型(Artificial Intelligence Intensive)ビジネスに変わっていくべき時だ。なぜなら、AIに食われる側にまわったら、あなたの仕事はなくなるのかも知れないのだから。

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