アナリストは医者、分析は健康診断、データは健康データである:小川卓さんに聞く 前編

アナリストは医者、分析は健康診断、データは健康データである:小川卓さんに聞く 前編

アタラ BIツール導入コンサルティングサービス

『アナリティクス賢者訪問』連載の趣旨

アナリティクスに携わる人は多くいますが、それぞれに分析に対する考え方や思いは異なるもの。同連載は、アタラ合同会社コンサルタントの大友が、アナリティクス業界を牽引する著名な方々のもとを訪れ、それぞれの分析に対する考えや、魅力に感じる部分などをお聞きしています。第6回は、カスタマーアナリティクスやコンセプトダイアグラムを提唱されている清水誠さんにお話を伺いました。

 

今回の賢者:株式会社HAPPY ANALYTICSの小川卓さん

第7回となる今回は小川卓さん(株式会社HAPPY ANALYTICS)にお話を伺います。

話し手
株式会社HAPPY ANALYTICS
代表取締役社長 小川卓さん

聞き手
アタラ合同会社
コンサルタント 大友直人

 

何かを発信し、その成果を感じたときにワクワクする

大友:初めに、小川さんの自己紹介と簡単な経歴を教えてください。

小川:HAPPY ANALYTICS代表の小川です。ウェブコンサルタントとして、さまざまなクライアントさんのウェブサイトの分析やKPI設計などを行っており、並行して勉強会を実施するなどの啓発活動も積極的に行っています。

新卒でマイクロソフトに入社し、その後ウェブマネーという電子マネー関連のベンチャー企業へ、そしてリクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパンを経験しました。私のキャリア全般を通して基本的にはウェブマーケティングや分析分野を掘り下げており、その後独立して今はコンサルタントとしてお仕事をさせていただいています。

大友:今回、小川さんの幼少期までさかのぼって、現在のお仕事や業務に対する姿勢と、どのようにつながっているのかを伺いたいと思っています。もともとはどのような性格で、どういったものに興味がありましたか。

小川:親の仕事の都合上、幼少期から海外に長く住んでいました。カナダとアメリカにそれぞれ3年、イギリスには7年住んでいて、イギリスの高校と大学に進学しました。最初にウェブサイトを作ったのは1998年で、まだイギリスにいたころです。

当時はWindows 95が出て、少しずつインターネットが一般にも普及してきた時代であり、日本人とつながりたいという気持ちがあったと同時に、HTMLの存在に興味を持ったことがウェブサイトを作ろうと思ったきっかけです。

大友:どのようなウェブサイトだったのでしょうか。

小川:当時『スレイヤーズ』というファンタジー小説がはやっていたのですが、大学1年生のころに、まずはそのファンサイトを作りました。いろいろな人がサイトに訪問してくれて、掲示板で交流したことでITに興味を持ちました。ちなみに奥さんとも、このウェブサイトで出会いました。

大学卒業後は日本に帰国し、大学院で化学を専攻していました。実験にはパソコンを使いますし、構造を分析する流れの中でITへの興味を深めました。当時、自分が使っていたパソコンがWindowsだったという理由からマイクロソフト社を受け、入社しました。

大友:もともとITへの興味は深かったとのことですが、小川さんの性格的にも合っていたのでしょうか。

小川:もともと「しっかり自己主張することが大事」という文化のアメリカやイギリスに住んでいたこともあって、何かを発信すること自体は苦手ではありませんでした。

当時はカウンターといって、ウェブサイトへの来訪者の数を表示させる機能があったのですが、どこの国の人が何人見にきているか程度のデータは取得できていたので、カウンターの数字が増えていくのを見ながらワクワクしていたのを覚えています。

大友:新卒入社がマイクロソフトとのことですが、当時すでにアクセス解析に携わっていたのでしょうか。

小川:マイクロソフトでは、MSNというポータルサイトの運用管理をしていました。アクセス解析に携わったのは、2社目からですね。2社目ではニュースレターの配信やウェブサイトのコンテンツ作りをしていました。

その際に「これは効果があるのだろうか」「本当に見られているのだろうか」と思い始め、国産のアクセス解析ツールである「Visionalist」を導入したところ、非常に面白いと感じました。自分が作ったコンテンツの成果がきちんと把握できるからです。

つまり、もともとは作る側だったのですが、それを分析できると知り、本格的に分析の世界に足を踏み入れることになったのです。2社目のウェブマネーは電子マネーのベンチャー企業なのですが、プリペイドカードがコンビニなどで売られていて、ウェブサイトに来なくても利用することができます。

そこで、もっとウェブサイトでの集客に特化したサービスを経験してみたいと思うようになり、当時Visionalistを使っていたリクルートに移動することにしました。

アクセス解析の必要性を啓発することの難しさを感じたリクルート時代

大友:リクルートではどのような業務に就かれていたのでしょうか。

小川:リクルートには6年在籍しましたが、大きく三つの時期に分けられます。最初の2年はいわゆる会社を横串で見る部署にいました。Visionalistはリクルート全社に入っていたので、その運用や管理、サポート、実装など割と何でもやっていましたし、各部署にレクチャーしにいくなど、Visionalistの活用推進を主な業務にしていました。

次の2年間は、SiteCatalyst(現:Adobe Analytics)を導入するプロジェクトに参画しました。リクルートの規模が拡大する中で、Visionalistでは限界が見えてきたのです。150サイトにSiteCatalystを導入して、約600人にひたすら教えていく中で、各サイトでの取得データ設計にも参加しました。今、振り返ると地獄のような2年間でした(笑)。

大友:600人、150サイトを管理するとなると、相当大変ですね。

小川:私ともう一人でひたすらやって、月2回の勉強会も実施しました。教えるばかりではなく、自身でも分析したいと思っていたので、最後の2年間は住宅情報サイト「SUUMO」の部署に行きました。そこでの業務は、ウェブアナリストとしての分析やKPI設計を行いながらコンバージョンを増やしていくというものでした。

大友:リクルート時代に小川さんが最も苦労したことは何ですか。

小川:やはり、各事業に解析ツールの必要性を訴えることが大変でした。「なぜ、これをやらないといけないのか?」という疑問から始まり「VisionalistとSiteCatalystでは数値がずれるけど、どちらが正しいのか?」といった質問を受けることもありました。

いかに納得してもらい、活用してもらうか。いわゆるコミュニケーションの部分も含めて、きちんと活用してもらうことの難しさを実感しました。当時は社内に「サクセスセンター」というポータルサイトを自分で立ち上げて、FAQや動画資料を全てそこにまとめ、問い合わせもサクセスセンター経由でしか受け付けないようにしていました。

皆、同じようなところでつまずくため、FAQ形式にしたほうが効率的だったのです。ちなみに一番よく来る質問は「パスワードを忘れた」という、どうしようもないものでした(笑)。そういったものも含めるとFAQは300問以上になっていきましたね。

大友:必ずしもアクセス解析に関する質問だけではなかったのですね。

小川:当時、利用者が600~1000人近くいたので、いろいろな人がいました。新人でも数字が見たい人もいるし、例えば広告周りなど自身の領域だけ見たい人もいます。かと思えば、経営数字や全体KPIが見たい人もいて、求めているもののレベル感はまちまちでした。

大友:膨大な利用者に対して、同一レベルのアクセス解析ナレッジを提供される際に、小川さんが考えて行っていたことはありますか。

小川:サイトごとに実装設計項目が異なるので、一律に勉強会を開くというのは難しいものがありました。そこで、それぞれの事業ごとに勉強会をカスタマイズして、実際にソースを出しながらレクチャーしていました。

また、いくつかの事業部とは一緒に分析をしてみるといったこともやりました。要は、私も参加してデータを見て議論する形式です。使い方を教えても「では自分たちのサイトの場合は?」と立ち戻ってしまうので、それならば一緒に分析をして、気付きを発見し、改善提案をしてみるということにチャレンジしたのです。

大友:地道に普及させていかれたのですね。

小川:そうですね。完全に裏方仕事ですし目立つものでもないので、はっきり評価されるかというとそうでもないのですが、今でもリクルート全体ではAdobe Analyticsを使っています。そういった意味では、私が導入に携わったものが10年経っても使われているというのは、とても意義深い業務だったと感じています。

ゲームやEC分野でも分析業務を経験

大友:その後、サイバーエージェントに移られます。

小川:はい。リクルートのビジネスモデルはいわゆるBtoBtoCであり、ユーザーから直接お金をいただくビジネスモデルは、いくつかの例外を除いてほとんどありませんでした。つまり、いくらサイトの訪問者が2倍になっても売上が必ずしも2倍になるわけではないので、ウェブサイトの改善と売上の相関が分かりづらいと思うようになったのです。

そこで、ウェブサイト上での集客やサイト内改善がそのまま売上に直結するモデルを体感してみたいと思い、2012年に転職しました。当時はスマートフォンが一気に普及してきたタイミングで、スマートフォン向けサービスを展開している企業という軸で考えて、サイバーエージェントを受けました。

大友:この2社は事業形態も異なるので、業務内容もかなり違いそうですよね。

小川:リクルートの場合はそれぞれのサイトごとに解析ができるアナリストがいたので、そこと連携しながら進めていたのですが、サイバーエージェントの場合はサービスの種類もかなり多いため、一つのサービスごとにアナリストが配置されているという状況ではありませんでした。

サイバーエージェントでも横串の部署に在籍していたものの、自分でもいくつかのサービスの事業を担当しました。各サービスのプロデューサーの隣に席を用意してもらい、基本的にはそこで分析をしながら、いかに日々の売上を伸ばしていくかを考える役割でした。

大友:どちらかというと、少し業務寄りのお仕事という感じでしょうか。

小川:そうですね。メインはソーシャルゲームやコミュニティ系のサービスを担当していましたが、レベルデザインといって、ガチャが当たる確率や、装備の強さのレべリングなどの数字の設計、ゲームデザイン部分も担っていました。

大友:ゲームデザインは分析と似た部分もありそうですね。

小川:ゲームデザインも、結局はユーザーがどういった機能をよく使うか、プレイ時間はどの程度か、課金額の多い人はどういった行動をしているかといったユーザーのログなので、データを見て何か気付きを発見するという活動自体はそれほど変わりません。

大友:その後、アマゾンジャパンに移られますね。

小川:サイバーエージェントに2年間在籍し、次の自分のキャリアを考えたときに、EC分野が面白そうだと思ったためアマゾンジャパンを受けました。Amazonはいわゆるマーケットプレイスといって、Amazonが仕入れて売る以外にもさまざまな人が出品できますよね。そこで、Amazonに出品している出品者の売上をAmazonプラットフォーム上で伸ばすというのが私の仕事でした。

例えば「このままだと在庫が一週間後になくなるので、早めに積み増してください」という自動メールが出品者に送られるといったシステムメールがあるのですが、そのアトリビューション分析などを行っていました。管理画面を使ってどうデータを分析し、どういう戦略で商品を仕入れ、値付けをするのかなどを考え、出品者の売上を伸ばす仕事です。

大友:アマゾンジャパンでの独特な文化はありましたか。

小川:アマゾン・ドット・コムの創業者であるジェフ・ベゾスもインタビューで言っていますが、社内のレポートはWordで作っていました。「6枚ルール」というのがあって、例えば出品者様向けの売上の構成や目標到達度合いなどを6枚以内のWord文章で作成し、打ち合わせの最初の10分間で全員が黙って読み込みます。

表やグラフだと作るのも楽だし、ある程度ごまかせますが、文章にして表現するのは意外と難しいと実感しました。読み込んだ後に議論が始まるのですが、大変だけどすごく価値があるやり方だなと思いました。そういうところが独特でしたね。

後編では、独立後のお話や、小川さんの考える分析の魅力、「Google アナリティクス 4 プロパティ」をどう見るか、今後のアナリティクス業界の未来などについてお聞きしました!

小川さんのご経歴については、以下の動画でも紹介されています。

※参考リンク:

 

※後編はこちらから

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