書籍『Googleアナリティクス プロフェッショナル』:山浦直宏さん著者インタビュー

書籍『Googleアナリティクス プロフェッショナル』:山浦直宏さん著者インタビュー

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Google アナリティクスはどこへ向かうのかを語る

2005年にUrchin Softwareを買収して誕生したGoogle アナリティクスは、現在15年目を迎えています。Google アナリティクスの機能は改善・複雑化し、私たちに求められる役割も変化する中、今回は『Googleアナリティクス プロフェッショナル』の著者であるアユダンテ株式会社の山浦直宏さんに、本書の内容と業界の今後について伺いました。

話し手:アユダンテ株式会社
データソリューション推進統括部 統括部長
チーフ エグゼクティブ コンサルタント
山浦直宏さん

聞き手:アタラ合同会社 コンサルタント
大友 直人

 

大友:初めに、企業概要と山浦さんの自己紹介をお願いします。

山浦:山浦です。私はもともと、インターネットが普及していない時代から総合広告代理店でマス広告も含めた広告全般の業務を14年ほどを経験しました。その後、デジタル化が始まり今に至るまでの業界の変遷とともに広告やマーケティングのデジタル化を支援してきた、というキャリアです。現在はGoogle アナリティクスを中心とした、データを活用したデジタルマーケティングの支援を行っています。

大友:ありがとうございます。早速ですが、先日出版された『Google アナリティクス プロフェッショナル』について伺います。まず表紙をめくると「Google アナリティクスはどこへ向かうのか」という吹き出しがあり、『はじめに』の章でGoogle アナリティクスの方向性について書かれています。あらためて本書を執筆された背景を教えていただけますか。

山浦:Google アナリティクスは今でも「アクセス解析ツール」と捉えられがちだと思いますが、Google アナリティクスのデータの活用範囲は以前と比べてとても広がってきているので、多くの方に最新のGoogle アナリティクスについて知ってもらい、データを活用してもらいたい、というメッセージを伝たく、本書の執筆に至りました。

 

電子書籍を入れると、私が執筆するGoogle アナリティクスの書籍は5冊目です。基本的には「Google アナリティクスの全体理解」のテーマについては、どこまでいっても書きたい気持ちがあります。

また、Google アナリティクスを多くの方が使っていますが、一部分しか活用されていないことがほとんどです。それを見ていて「もったいないな」と思うことがたくさんありました。先ほども申し上げましたが、Google アナリティクスはいろいろなデータが取り扱えるようになってきているので、その活用目的も「ウェブ解析やウェブ改善」だけに留まりません。ですので、リファレンス型にして全体を理解していただいた上で活用の幅をより広げていただきたく、この本を書かせていただきました。

大友:読者はどのような方を想定されていますか。

山浦:読書想定はあえてしていません。例えば初級者向けとか中級者、上級者向けという切り口もありますが、さまざまな業種や職種の方に参考にしていただきたい思いがあります。「プロフェッショナル」というタイトルがあるので上級者向けと捉えられがちですが、機能紹介や設定方法は基本的なものも多く書いているので初級者であっても十分に役立てていただける内容になっています。

今はGoogle アナリティクスの公式ヘルプサイトの内容がよくなっているので、本書もリファレンス型の役割として、Google アナリティクスヘルプのリンクも多く入っています。1冊の本というページ数や価格の制約の中で、優先して伝えるべきことを中心に書いています。そのため、タグの実装方法もタグ管理ツールのGoogle タグマネージャー(以下:GTM)に特化し、「ディメンション」「メトリクス」とは?のような基礎的な解説は割愛しています。それでも、600ページを超える厚さになりましたが、当初の企画段階では800ページに迫る内容構成でした。本当はまだまだ書きたいこともありましたが、ページ数や時間の制約もあり現在の形になっています。

「データの計測」に注力した内容

大友:本書はデータの「計測」から始まり、「収集」「集計」「分析」の流れで構成されています。

書籍P.12のイラストの原本

山浦:私は数年前から「取る」「見る」「使う」といった言葉で、計測と集計・分析、活用の流れを必ず意識してGoogle アナリティクスを使ってほしいと思っていました。

参考:

本書の構成や随所に入っている図解はそれぞれ、「取る」「見る」「使う」のどのステップで存在しているかを意識してもらえるような構成にしています。それぞれのページの端に、今見ているページが「取る」「見る」「使う」のどこに当てはまるか分かるように工夫しました。

大友:Google アナリティクスに初めて触れる人は、先ほどの3つのステップでいうと「見る」から入るのではないかと思います。集計されたデータを見て分析したい、という方も多いと感じます。

山浦:Google アナリティクスは「アナリティクス」という名前が付いているので「分析」を考えてしまいますが、やはり分析ツールではないのですよね。どこまでいっても計測ツールなのです。Googleのプロダクトの中でも、メジャメントツールとして位置付けられています。多くの方は「分析」という言葉が好きだと思っていますが、幸か不幸か、Google アナリティクスも「アナリティクス」と名前が付いているので、すぐ分析に入っていきがちです。

ところが分析って非常に幅が広い言葉で、目的とセットで考えず、特に日本では分析という言葉が独り歩きしがちな部分もあります。海外のカンファレンスでは「アナリティクス」や「アナリシス」の言葉がほとんど出てきません。一方、同じ文脈で「メジャメント」という言葉がよく出てきます。

 

「分析」という言葉は非常に注意して使わないと、特にお客さまに対してコンサルティングをする立場の人間が安易に「分析」という言葉を使うとミスリードを招くな、と日頃から思っています。

大友:おっしゃるとおりです。

山浦:やはりGoogle アナリティクスはあくまで計測ツールなのです。分析は利用者がすることであって、Google アナリティクスの本分はデータの計測・収集装置ですよね。昨年発表された「App+Webプロパティ」になると計測・収集装置であることがより分かります。

参考:

そしてデータがなければ分析は始まりませんよね。目に見えたものをいきなり分析するということではなく、まずはデータ計測と収集に注力する。必要なデータの計測と収集に注力しないと分析も活用もないということも本書の中で伝えたい大きなメッセージの一つです。

本章では、「計測」と「収集」という言葉をあえて明確に分けて使っていますが、Google アナリティクス自体がタグで計測するデータと、外部からデータを収集できる機能もあるため、そのあたりを非常に細かく書いています。

大友:「メジャメントファースト」ですね。

山浦:そうですね。例えば拡張 e コマースの機能がありますが、計測方法は非常に複雑です。本書はあえてそこにチャレンジして、拡張 e コマースのほぼ全ての計測できるデータの内容と目的、それから計測の設定手順がGTM上で分かるよう細かく解説しました。

書籍P.100のイラストの原本

同じように、データインポートという機能があります。これもさまざまなオプションがありますが、一つ一つ解説して、機能として正面から捉え、どのようなことができるか、どういった利用目的を想定しているのかにページを割くようにしました。先ほど申し上げたとおり、ディメンションとメトリクスの解説を省いてでも、データの豊富さを表現できるところはページを割いて大きく注力したところの一つですね。

書籍P.219のイラストの原本

大友:他にも本書で注力された部分はありますか。

山浦:本書の第9章では、Google アナリティクスのレポート画面について解説していて、この章も多くのページ数を割いています。Google アナリティクスのレポートの主なカテゴリは、上から「ユーザー」「集客」「行動」「コンバージョン」の四つですよね。ですが、9章のタイトルは「ユーザー・流入・コンバージョン理解のための集計レポート」となっています。

従来のGoogle アナリティクスの過去数年の進化の中で、唯一進化のないカテゴリは「行動」です。サイト内行動を見る機能やレポート画面でここ数年のアップデートはなく、他はどんどん新しいメニューが増えているんですよね。

大友:過去のアップデートからもGoogleの意図が感じられますね。

「App+Webプロパティ」で求められる役割

大友:昨年発表された「App+Webプロパティ」も計測・収集装置であることがよく分かります。

山浦:本書だと、まだベータ版ということもあり「App+Webプロパティ」の導入部分だけ記載しています。「App+Webプロパティ」は次世代のGoogle アナリティクスともいわれていますが、一言でいうと計測基盤の「マシンラーニング」対応への大きなシフトですね。この一言に尽きると思います。データ活用の今後はマシンラーニングが中心になっていくでしょう。Googleも広告が中心ですから、そちらの方に向かっていく対応ですが、当然ながら自動入札がどんどん発達して、リアルタイムマシンラーニングでの入札管理という方向性になっていきます。

従来のGoogle アナリティクスだとマシンラーニングに対応できていないのが現実です。例えば「スマートリスト」など、マシンラーニングを使った予測・分析の機能はありますが、一番ネックになるのはコンバージョンデータです。Google アナリティクスで今、計測・集計できるコンバージョンは何かというと、「目標設定」と「e コマーストランザクション」しかないのですよ。目標設定は集計されたデータなので、マシンラーニングのデータとしては使用できないですね。

 

本書でも解説していますが、マシンラーニングはヒットデータしか見ないので、Google アナリティクスで皆さんが使っている「目標設定」ではマシンラーニングは不可能です。さらに動的なバリューも付けられないじゃないですか。そして20個しか設定できない。これだと、今後マシンラーニングを中心とした、計測データの施策活用の仕組みを構築していく中では機能しません。

そうすると、残されているものは「e コマーストランザクション」しかありません。e コマーストランザクションは、マシンラーニングは可能ですが1個しかないのです。広告でもさまざまな入札戦略を考えるときに、コンバージョンデータをもって自動入札を最適化しますよね。そのコンバージョンデータのバリエーションが組めない、セグメントが組めないというのも、マシンラーニングを使ったキャンペーンのシナリオは限定的になり機能しません。そこの自由度がまったくないわけです。

 

オフライン コンバージョンをGoogle アナリティクスにインポートする際も、例えばメジャメントプロトコルでインポートすると、通常のe コマーストランザクションと一緒になり区別ができません。するとそのデータは結局、マシンラーニングを使ったキャンペーンシナリオにも使いにくいとなります。

それらを打破するために、全ての計測をイベントヒットに集約し、自由にコンバージョンを取得(定義)できるような仕様に組み換える必要があったのだろうと思います。そこが一番の大きなシフトチェンジだと思います。

それから、キーワードやディスプレイだけではなく、動画も含めてメディアも増えていく中で、大量のデータをマシンラーニングの力を借りて、的確にマイクロモーメントで捉えるというところで、不可欠になっていくわけですね。マシンラーニングで一番重要な点は、目的変数を定義することです。人間が行う最も重要な仕事は、いかに目的変数を定義するか、改善するKPIをどう定義するか、ということに集約されていくと思います。

大友:「App+Webプロパティ」もメジャメント中心ですね。

山浦:そうです。本書の内容と同じように、Google アナリティクスはより「計測」の部分へと集約されていくと思います。「App+Webプロパティ」はレポート画面のメニューが少ないですよね。従来のGoogle アナリティクスとは違い、本当に重要な部分の集計機能だけ残していくと思います。

 

現在のGoogle アナリティクスは標準レポートが150近くもあり、それぞれがノンサンプリングの状態で毎日集計されています。しかし、これだけ多くのレポート画面を日々すべて見ている人はどれだけいるでしょうか?さらに、取り扱うデータ種類も増えたことで集計ロジックの複雑さもかなり増しているはずです。なので、これらのためのバックエンドのストレージと集計負荷は半端ないと思います。きっと、そこからの脱却も目指しているのではないかと思っています。

また、「App+Webプロパティ」という名前もこれから変わっていくのではないでしょうか。名前からだと「アプリとウェブのセッションをシームレスに取る」ための機能のように感じますが、そういうことではないと思っています。モバイルアプリとウェブの行動って、ワンセッションをシームレスに取る必要が分析のニーズ面からどこまであるのかというと、そこは一部分でしかないのではと考えています。

 

今後は、ウェブ計測のみであっても、この「App+Webプロパティ」へ移行されていくことが予想されているので、アプリとウェブの統合計測が必要ない方たちが「自分達には関係ない機能」と誤解をされないようにしていただきたいと思います。繰り返しになりますが、「App+Webプロパティ」とは、決してアプリとウェブの統合計測のためだけの機能ではなく、計測の仕組みをシンプルにし自由度と高めることでマシンラーニングに適合するデータ基盤へ大きく舵を切るための全く新しい基盤(プラットフォーム)である、と考えています。

Google マーケティング プラットフォームの一員として

大友:Googleが2018年にGoogle アナリティクスやその他DoubleClick製品を「Google マーケティング プラットフォーム(以下:GMP)」として統合することを発表してから2年が経ちました。

山浦:Google アナリティクスは今後もデータの収集装置・計測基盤になっていきますが、本来、GMPとセットで語らなければならない領域がGoogle Cloud Platform (以下:GCP)であり、いわゆる1stPartyデータです。企業の持つ1stPartyデータと連携して、資産である自分たちの持っているデータをどうやってマーケティングのテーブルに乗せていくかをもっと考えなければならない、と思っています。

 

Google アナリティクスはマシンラーニングも含めて、どのようにデータを取得してアクションにつなげるかが重要ですが、企業が持っている1stPartyデータとどのように連結するかは最も重要です。資産価値を上げるという表現をしますが、たんす預金のようにデータをただ大事に持って通帳を眺めているだけではなく、活用することでよりマネタイズします。そのデータ活用の絵を積極的に見せることによって、利用する業種や規模の幅はどんどん大きくなっていくので、それこそが今私たちがやるべき一番の仕事ではないかと思っています。

大友:山浦さんからUnyoo.jpの読者にお伝えしたいことはありますか。

山浦:Google アナリティクスはデータの計測・収集装置であり、データの計測に注力しないと分析も活用もないということはあらためてお伝えしたいです。あとは「App+Webプロパティ」の発表からも読み取れるように、マシンラーニングが中心になっていきます。コンバージョンデータなど目的変数の柔軟性が重要だというお話はしましたが、このことを未来に向かって強く発信していきたいという想いはあります。

「App+Webプロパティ」は、従来のGoogle アナリティクスと比べて表面的に見える画面や機能は大きく異なります。だからこそ「計測・収集」と「集計」の部分で本質的な価値を理解していれば、「App+Webプロパティ」も難なく対応できると思います。

 

メジャメントファーストといいますか、目的に従ってどのようなデータが必要なのかという部分に立ち返ってこの本を読んでいただきたい、という想いとともに、本書によってGoogle アナリティクス が取り扱えるデータの多様性を知っていただき、分析や活用の創造力といいますかアイデアの幅を増やしていただけたなら非常に嬉しく思います。

書籍情報

『Googleアナリティクス プロフェッショナル ~分析・施策のアイデアを生む最強リファレンス』
https://gihyo.jp/book/2020/978-4-297-11261-5
発売日:2020年4月17日/執筆者:山浦直宏/出版社:技術評論社/価格:3,278円(単行本)、3,114円(Kindle版)

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