Google 広告とマスメディアの本当の違いとは?電通 2019年 日本の広告費に潜むUXインテリジェンス

Google広告とマスメディアの本当の違いとは?電通 2019年 日本の広告費に潜むUXインテリジェンス

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※本記事は、アタラフェローである有園雄一氏より寄稿いただきました。

先日電通は2019年 日本の広告費を発表した。ネット広告費が初めて2兆円を超え、テレビ広告費を上回った。

業界の反応としては、「予想通り」という声が多い。私自身も特に驚きはないのだが、今回の電通「日本の広告費」では、大きく二つのことが頭に浮かんだ。一つは、まず、両親への感謝と業界の先輩への感慨だ。二つ目は、Googleのボブ(Bob)の予言通りになったと思った。ボブって誰だ? って感じだと思う。ボブの予言については、あとで詳しく書く。

 

プロの魂は受け継がれる

なぜ、両親に感謝したいと思ったのか? 先日、文化放送アナウンサーの松島茂さんが亡くなったからだ。

※参考記事

大学時代の私は、アナウンス研究会というサークルに所属していて、松島アナウンサーとは同期だった。彼とはときどき、関東の観光地にドライブに行ったりしていた。私はアナウンサー志望ではなかったが、『たけし・逸見の平成教育委員会』(フジテレビ)などで司会を務めた逸見政孝さんをゲストに、学園祭で番組をプロデュースしたりした。逸見さんもサークルのOBだった。

その学園祭の翌年、逸見さんは、1993年のクリスマスの日に亡くなった。私は、サークルの代表を務めていたため、逸見さんの葬儀に参列した。

逸見さんも松島さんも、40代後半にガンで逝去した。逸見さんが亡くなったのは1993年、その翌年の1994年、逸見さんからバトンを受け継ぐかのごとく、松島さんはプロのアナウンサーになった。

テレビやラジオで活躍するプロの魂と生命がリレーされた。松島さんのお通夜に参列したとき、そんな気がした。

今回の「日本の広告費」に他のメディアで働く多くの友人の苦戦が透けた。私自身、学生時代に毎日新聞社でアルバイトしていた。新聞社や出版社で活躍する友もいる。

ネットは遅れてやって来た。他の媒体が長い年月をかけて作り上げたビジネスモデルを模倣した。メディア・広告業界の偉大な先輩たちが作った礎を借りて、成長した。事実、1990年代に、私がネットの仕事を始めたとき、他メディアの先輩からアドバイスをもらった。

電通吉田秀雄の魂と「日本の広告費」の数字

私はネットを自分の発射台に選び、電通や博報堂と多くの仕事をしてきた。すべてのメディアを支える意志は、電通・博報堂にしかないと思ったからだ。私にとって、ネットはメディアのひとつでしかない。

『電通を育てた”広告の鬼” 吉田秀雄』など吉田秀雄関連の本や資料は少なからず蒐集してきた。吉田秀雄という男は、戦後の混乱期という逆境にあって、日本経済の復興と広告業界の発展を信じ、ラジオ・テレビ広告市場の礎を築いた。

それは、ゼロから創る仕事だった。鬼十則第一則「仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない」。これは吉田秀雄自身への発破だ。彼は自らを鼓舞する言葉をメモする癖があった。

昭和22(1947)年、のちに第8代電通社長になった木暮剛平氏に、吉田秀雄は語った。

「戦時中の軍需産業中心型の経済から、自由経済に変わり、国民の生活を豊かにするための商品やサービスの生産を中心とする経済社会へと転換する。米国と同じように広告の役割は増大し、広告会社の花咲く時代が訪れる」(『電通を育てた”広告の鬼” 吉田秀雄』p33)

戦時は言論統制があり、メディアも広告も戦争優先。自由に広告を打てない時代。だからこそ、広告会社の花を咲かすのだ。広告のない社会には自由な経済活動がない。メディアと広告で日本を支える。日本を豊かにする。吉田秀雄の魂は、狂ったように猛進した。

偉大な先人がいて、いまがある。その魂と生命のリレー、メディア・広告業界を引き継ぐ強者たちの、御霊が、「日本の広告費」の数字を築いてきた。

メディアと広告業界の魂と生命の去来、去った友を思いながら、そもそも、我が生命を与え賜うた両親、産み落としてくれた母、揺るぎない信念を持って生きる父に、感謝せずにはいられない。そんな気持ちになった。

 

Googleは量子力学的、マスメディアはニュートン力学的だ

次に、Googleのボブ(Bob)の予言の話をしよう。「日本の広告費」を眺めながら、「まるで、ボブの言った通りになったな」と私は考え込んだ。

ボブとは誰か? それは、10年以上前にカリフォルニアのGoogle本社に出張したとき、Googleキャンパスのカフェで偶然出会った人物だ。

ボブは「Googleは量子力学的メディアだ。マスメディアはニュートン力学的だ。量子的なメディアのほうが、圧倒的に儲かる。しかも、そのユーザ体験(User Experience = UX)も良くなっていく」と主張した。

ボブは約30分間に及ぶ量子論(quantum theory)の講義をしてくれた。彼は物理学の博士号を持っているニューヨーク出身のアメリカ人だった。

「ところで、Googleとマスメディアの本当の違いを知ってるかい?」

困惑している私を横目に、ボブは話し続けた。

「テレビや新聞はニュートン力学なんだ。Googleは量子力学的だ。そこが決定的な違いなんだ!」と。

そして、ボブは「近い将来、世界はIoT広告時代に突入する」と予言した。要点は3つだ。

<1>量子論的メディアのほうが儲かる。それがGoogleの優位性だ。
<2>量子論的メディアのUXは圧倒的に良くなる。UXはメモリー(記憶)だ。
<3>世界がIoT化し、放送局は技術的に電波を必要としなくなる。

「世界がIoT化し、静的(static)なマスメディアは徐々に劣勢になる。動的(dynamic)なデジタルメディアとIoT広告の世界がやって来る」と。

静的(static)なメディアとは、マスメディアがその典型であり、ニュートン力学的で20世紀のテクノロジーだ。その一方で、動的(dynamic)なメディアとは、Googleの検索サイトとその広告が典型であり、量子力学的で21世紀のテクノロジーだ。

たとえば、テレビにはタイムテーブルがある。プラニングする(線を引く)ことで、どの放送局のどの枠にCMが掲出されるか事前にわかる。つまり、決定論的世界だ。ニュートン力学では、「時間」「速度」がわかれば「距離」が決定する。数式から演繹的に物体の位置が確定する。

量子力学では、アインシュタインが1905年、光は粒子(光量子)の流れだと主張した(光量子仮説)。19世紀のマクスウェルの方程式では、光は電磁場の波動とされていた。はたして、光は、波なのか粒子なのか?

Google米国本社副社長・日本法人代表取締役社長を務めていた村上憲郎さんとも、昨年の電通総研のインタビューでこの話をした。

※参考

アカデミックな世界では、「コペンハーゲン解釈派」と「多世界解釈派」にわかれるが、村上さんは「で、僕はコペンハーゲンではなく多世界解釈派なんです。この世もあり、パラレルワールドもある。それが無限にある」と話した。そのほうが量子コンピュータの仕組みを解釈しやすい。

いずれにせよ、量子は波と粒子の二面性がある。つまり、量子論的世界観では、観察者問題というのがあって、観察者が定まるまで量子は波として漂っていて、観察者との関係性によって粒子になる。これは、不確定な確率論的世界だ。

Googleの広告は「ヴェニスの商人」だ

Googleの検索サイトは、観察者(検索者)の検索クエリに依存して何を表示するかが変わる。ある確率でどの検索クエリになるかが変動する。しかも、それは、いつどこで誰がどんなクエリを飛ばすのか、さらにその性別や年齢、行動履歴など(多様な変数)で変動する。テレビのようにいつどこに何が表示されるか、単純に決定できない。故に、不確定性があって確率論的で量子論的なのだ。

この多様な変数(軸)をGoogleは操る。多様な軸を操作し複数の価値体系を横断すれば、理論的には利益機会は無限になる。変数の数の変化は価値体系の変容に揚棄する。

ボブ曰く、「ヴェニスの商人みたいなものだ」と。つまり、商人資本主義の時代は、たとえば、価値体系の異なる地域(ヨーロッパとインド)の間で、香辛料を安い地域で仕入れて高い地域で売る取引で儲けた。それをプログラムで高速処理すればいい。Googleの広告は、胴元の利益を理論的に担保した「ヴェニスの商人」だ。

「ホーキングの再来」と評される量子重力理論のカルロ・ロヴェッリは、「量子力学は、物理的な変数が粒状であること(粒状性)と〔ゆらぎや重ね合わせにより〕不確定であること(不確定性)とほかとの関係に依存すること(関係性)、この三つの基本的な発見をもたらした」(『時間は存在しない』)と説く。

変数が多いほど、状況に柔軟に対応できる。2015年、Googleはマイクロモーメントというコンセプトを掲げた。ユーザーのそのときの状況に応じて、広告であろうとコンテンツであろうと、動的(dynamic)に異なるものが提供される。ユーザーの状況に合わせつつ、ユーザーの状況変化を予測し、ユーザーの過去と現在の動き、そして、未来の行動をすべて変数に織り込みながら、常に動的に流動自在に瞬時に判断する。

Google のビジネスモデルは、カルロ・ロヴェッリのいう「粒状性」「不確定性」「関係性」という3つの量子力学の基本に依拠して構築した。それが、ボブの見解だ。

Don NormanのUX理論は、記憶と時間を織り込む

ボブは Don Norman の話をした。Don Norman は1993年「Fellow as a User Experience Architect」としてAppleに加わった。「User Experience」を世界で初めてジョブ・タイトルに使った人だ。

Don Normanは「UX Week 2008」のキーノート・ディスカッションで、UXにおけるメモリー(記憶)の重要性を語った。その動画がネットにアップされている。

「Experience is actually more based upon memory than is upon reality」
※下記リンク動画開始から10分経過した箇所

https://vimeo.com/2963837

Don Norman のUX理論は当時から有名だった。ユーザーの記憶(memory)を変数に組み込む。ユーザーの様々な現実の状況(reality)にあわせて、より良いユーザー体験を提供していく。それは記憶の積み上げになる。次回またGoogleを使うときは、その前回のユーザー体験も変数に追加され、さらに良いユーザー体験を新たに作り、良い記憶が更新・累積する。

たとえば、テレビの場合、ユーザー体験を更新する理論も実践もない。これまでユーザー体験を意識してこなかった。故に、記憶の脆弱性が自爆装置になっている。

先ほどのカルロ・ロヴェッリの本は『時間は存在しない』というタイトルだ。最先端の物理学では「時間」という変数は存在しない。「時間」は、人間の体験という記憶が構築している幻影に過ぎない。「時間」と「空間」は「時空」に織り込まれ、量子重力場で「時間」は雲散霧消する。

老人の時間は脆弱で転倒する。昔のことを昨日のように語り、昨日のことを遠い昔のごとく忘却する。時間は体験の記憶(幻影)に過ぎない。

世界がIoT化するとき、たとえば、テレビに対するユーザーの好意的な記憶がその脆弱性の罠に陥り、「時間」とセットで雲散霧消する。より良いテレビのユーザー体験(記憶)を、新たに積み上げない限り、歴史になる。記憶は脆いのだ。

元TBSでメディア・コンサルタントの氏家夏彦さんは電通総研のインタビューで、「テレビ局の最重要課題は、社会のために『生き残る』こと」と言った。そして、神が降臨したかのごとく、ユーザー体験の重要性を指摘した。

「これからは、視聴者に対しても広告主に対しても『ユーザー体験(UX)』ということを意識して、コンテンツやサービスをつくる必要がある」

『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』の主著者であるビービットの藤井保文さんは、「ユーザーの体験をつなぎ合わせて寄り添っていくようなソリューションにならないと、ユーザーは使い続けてくれません。そのため、UXを考えることそのものが、企業の生存戦略を考えることに直結します」と話した。これも同様に、電通総研インタビューだ。

※参照

ビフォーデジタルは、ニュートン力学的でマス広告的だ。一方で、アフターデジタルは、量子力学的でIoT広告的だ。

2030年「日本の広告費」から「テレビ」は消えている

世代も業界も異なる二人(氏家さんと藤井さん)の脳波がシンクロする。その波束は、「ユーザー体験(UX)」に収束した。藤井さんは続ける。

「重要と考えているのは『UXインテリジェンス』という考え方です。<中略> 行動データをUXに還元していつも使われる魅力的なサービスにすることで、そこからビジネス成果を生み出していく」

そのアフターデジタルの世界で、テレビは生き残れるのか? 慶應義塾大学の中村伊知哉教授は記事「NHK同時配信を認める放送法改正、成立。」の中で「BBCがあと10年で電波を返上するという噂も流れている」と注意を促す。

世界がIoT化し、放送局に電波は要らなくなる。5Gの次の6Gも検討を開始した。AbemaTV をみればわかる。ネットテレビで流せばいい。

ボブの指摘通り、放送局は技術的に電波を使う必要はない。BBCが電波を返上するとNHKも電波を返上する。

自動運転車や遠隔医療、遠隔授業、スマート農業など、新たな電波需要が高まる。国家戦略として、成長見込みのないテレビ局には公共電波を割り振るべきではない。そういう意見が増えた。

10年後、2030年「日本の広告費」。放送テレビの項目はあるのか? 老人の脆弱な記憶の中の昔話になるのか? IoT社会は、放送テレビの存在意義を不確定で確率論的にする。

2030年、国家の成長戦略を優先し、テレビ局が電波を返上する。その確率は高いとボブは語った。いま電通の吉田秀雄が生きていれば、さらなる日本の成長と発展を目的に、テレビ電波の返上に奔走するはずだ。本物の電通人にはわかるはずだ。それが先人の魂を引き継ぎ、発展させることだ。

将来を見据えて、新たなネットテレビのビジネスモデルを、吉田秀雄の魂は渇望する。その精神は崇高で、戦後の逆境を好機に振り替え挑戦した。仕事はゼロから創るのだ。「仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない」。

そういえば、Appleを追随して、GoogleもFacebookもAmazonも、UX重視で成長した。いわゆる「ユーザーファースト」だ。

1990年代、AppleがMicrosoft を追い抜くとは誰も思っていなかった。テレビ局も、UX重視の経営ができれば、逆転の可能性がある。今年から始まる同時配信で、どんなサービス設計をするのかが未来を占う。

2030年の「日本の広告費」。テレビ局自身が積極的に日本の経済成長に貢献する。他の産業に電波を譲るという器の大きな人間たちがいる。失われた平成の30年を取り戻し、先人が作った豊かな日本を維持・発展していく。それが電波返上と重なるとき、もう「マスゴミ」とは呼べない敬意と羨望で社会の信頼を回復する。

テレビ局自身が電波返上の強い意志を持ち、「UXインテリジェンス」を実践できるかどうか。10年後の「日本の広告費」にそれが反映される。意志あるところに道は通ずる。生きるべきか、死ぬべきか。テレビ局社員のやる気次第だ。

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