コネクテッドTV最前線:Innovid 渡邉統一郎さんに聞く

コネクテッドTV最前線:Innovid 渡邉統一郎さんに聞く

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『プログラマティック広告最前線』連載の趣旨

デジタル広告が総広告費に占める割合はグローバルでみても年々増加しており、このデジタル広告のデファクトスタンダードとなっているのが、広告在庫の自動売買に対応するプログラマティック広告です。5Gに代表される通信システムの発達やIoTの普及も相まって、テレビや屋外/交通広告(以下OOH)といったデジタル広告に分類されない媒体においても、プログラマティック化が進んでいます。

そこで本連載では、マーケティング先進国の欧米の事例を中心にプログラマティック広告の最前線をお伝えするとともに、最前線の少し先の世界を考察しています。また、日本国内の最新事例についても、キーパーソンとの対談を通して紹介していきます。

第五回では、2019年6月24日に東京で開催されたTHE NEW CONTEXT CONFERENCE 2019 TOKYO(以下NCC ’19 TOKYO)に参加した筆者が、本カンファレンスの内容からデータエコシステムの最前線をお伝えしました。

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今回の話し手:Innovidの渡邉統一郎さん

第六回となる今回は、”transform video experience”というビジョンのもと、動画・ディスプレイ広告の第三者配信ツールを提供するInnovidの日本地域ディレクター 渡邉 統一郎さんに、Innovidを活用した動画クリエイティブの最適化はもちろん、特に米国において注目を集めているコネクテッドTVの最前線をお聞きしました。

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話し手:
Innovid
日本地域ディレクター 渡邉 統一郎さん

聞き手:
アタラ合同会社 高瀬優

 

動画クリエイティブに革新を

 

高瀬:まず初めに渡邉さんのご経歴、プロフィールを簡単にご紹介いただければと思います。

 

渡邉:Innovidには日本オフィス立ち上げ時の2019年6月から参画しています。日本のメンバーは私が一人目です。

 

それ以前はGoogleのDoubleClick(現在のGoogle Marketing Platform)チームに6年半在籍していました。私はDoubleClickチームの4人目のメンバーとして入り、DoubleClick Search(現在の検索広告360)ならびにDoubleClick Bid Manager(現在のDisplay & Video 360)の日本ローンチのプロジェクトを推進しました。

 

直近では、Googleアナリティクスのチームと統合され、いわゆるデータ・ドリブン・マーケティングを推進したり、Ads Data Hubのアジアでの導入戦略チームにも少しおりました。

 

その前はアドビ、さらにその前はOmniture(2009年にアドビが買収)におり、さらに遡るとセプテーニにも在籍していました。ですので、デジタル広告の業界にはかれこれ15年ほど身を置いてます。

 

 

高瀬:ありがとうございます。GoogleからInnovidに移られた理由をお伺いできますか?

 

渡邉:まず、動画の市場はこれからも伸長していくだろうということ、次に、Innovidが動画に特化した新しいソリューションを提供していることが理由としてあげられます。Innovidの名前の由来は「Innovation in video」なのですが、特にクリエイティブ領域において名前の由来通り革新的なソリューションを提供していると考えています。
 
※2019年9月にディスプレイの第三者配信・DCOサービスを提供するHerolensを買収したことにより、ディスプレイでも一貫したソリューションを提供可能になりました。

 

デジタルの世界では動画もターゲティングの手法や精度が洗練されていますが、クリエイティブに関しては基本的に15秒から30秒のテレビCMと同じようなつくりになっていると感じることが多いです。Innovidはこの部分を変えることができると思っています。

 

加えて、Innovidが数少ないAds Data Hubのパートナーであることも理由のひとつとしてあげられます。実は、YouTubeの認定外部ベンダーにも選ばれており、こういったパートナー関係を持ちながら革新的なソリューションをグローバルで展開しているInnovidに大きな可能性を感じると同時に、日本での事業展開に使命感を覚えています。

 

高瀬:ちなみに、このタイミングでInnovidが日本オフィスを開設した背景はありますでしょうか?

 

渡邉:大きく2つあります。1つはクライアントの環境が整ってきたことです。実は米国における動画広告配信の約3分の1がInnovidから配信されており、Innovidをすでにご利用いただいているグローバルで事業展開しているクライアントから日本での配信を相談されたり、日本企業でも動画広告のニーズが増えていることがあげられます。

 

次に、我々が提供するプロダクトが、クリエイティブはもちろんのことレポーティングといった観点でもお客様のニーズに応えられるようになってきたことです。これら2つの条件が揃い、日本市場に参入することになりました。

 

ユーザー・メディア毎に動画クリエイティブを最適化

 

高瀬: Innovidの事業内容をご説明いただけますでしょうか?

 

渡邉: Innovidは、一言で言うと動画広告の第三者配信ツール(以下3PAS)です。”transform video experience”というビジョンのもと、広告主、エージェンシー、パブリッシャーにとって最適なクリエイティブを配信して計測することをクロスデバイスで可能にします。

 

また、独立系ベンダーであることで、メディアに依存しない動画配信が可能です。我々は100%オープンプラットフォームと言っているのですが、現状メディアの資本が入っていないので、フラットな立ち位置であらゆるメディアと連携することができています。

 

加えて、アメリカにおいてはコネクテッドTV(以下CTV)にも積極的に投資しており、将来的には我々の事業の1つのコアになるでしょう。

 

高瀬:なるほど。御社の3PASを使うことによって、具体的にはどういったことが実現できるのでしょうか?

 

渡邉:クリエイティブに関して言うと、ダイナミックとインタラクティブの2つのタイプがあります。
ダイナミックでは、動画に使用されている画像やテキストはもちろん、ユーザーのIPアドレスを元に、最寄りの店舗の地図を動的に出し分ける等、複数の動画を用意せずともユーザーと関連性の高いクリエイティブを配信することが可能です。

 

 

高瀬:御社の3PAS上でユーザーの条件に応じてアセットを登録しておくイメージでしょうか?

 

渡邉:はい、そうです。

 

高瀬:そしてプラットフォームをまたいで配信できると。

 

渡邉:そうですね。一方で、メディアごとに入稿条件が異なることがあり、その場合は分けて設定いただく必要があります。例えば、YouTubeの予約型広告ではVAST(Video Ad Serving Template)タグでの配信が可能ですが、Facebookはこれができないため、別で設定する必要がでてきます。

 

繰り返しになりますが、ダイナミックなクリエイティブはユーザーとの関連性を高めることができるので、静的なクリエイティブと比較して視聴完了率は大幅に上がります。ファストフードの広告では、朝はコーヒー、昼はハンバーガーのセット商品と時間帯によってクリエイティブを出し分けたり、期間限定キャンペーンでは残り日数のカウントダウンを表示するなど、複数の動画を用意せずともこういったことが可能です。

 

高瀬:バナーと比較して動画は制作コストがかかり、かつメディアごとに最適なアスペクト比も異なるので、これをワンプラットフォーム、ワンビデオでメディア毎に最適化できるのは画期的ですね。加えて、3PASのメリットでもあるレポートの一元管理や、ダイナミックやインタラクティブといった高度なクリエイティブを生成できる点も魅力的だと思いました。

 

 

CTVへの広告配信とレポーティングを実現

 

高瀬:ここからは、CTVの話しをお伺いできればと思います。日本ではまだサービス提供されていないかと思うのですが、具体的にどういったCTVのソリューションを提供されているのでしょうか?

 

渡邉:CTVも基本的にはこれまでご説明した3PASと同じです。例えば、米国において最もシェアの高いAVOD(Ad-supported Video On Demand)のHuluで考えてみましょう。ユーザーはHulu上のコンテンツをCTVだけでなく、モバイル、タブレット、デスクトップで見ることができますが、これら複数のデバイスに配信する広告をInnovidを使ってダイナミック、あるいはインタラクティブにすることができます。

 

レポーティングに関しても、どのデバイスでどれだけのインプレッションが計測されたか分かります。InnovidはCTV広告の分野でもMRC(Media Rating Council)の数少ない認定ベンダーとなっており、計測の観点でも重宝されています。

 

高瀬:なるほど。そうしますと、メディアをまたいだクリエイティブの最適化と広告計測の大きく2つをCTVも含めたかたちで実現可能にする3PASということですね。

 

渡邉:そうですね。3PASの配信先デバイスのひとつにCTVが加わったイメージですね。一方で、デバイスとしてCTVが増えたといっても、Fire TV StickやChromecast、PlayStation 4やXboxといったゲームコンソール等CTVの中にも様々なデバイスがあり、現時点では25デバイスに対応しています。

 

 

高瀬:CTVの文脈で、パブリッシャー向けのソリューションも提供されているのでしょうか?

 

渡邉:はい。ダイナミックやインタラクティブなクリエイティブをパブリッシャーが広告商品として広告主に提供可能にするイメージですかね。CTRや視聴率が高くなる分、CPMが高くなりマネタイズがしやすくなります。

 

米国人口の55%がCTVでコンテンツを視聴

 

高瀬:すでに米国ではCTVへも御社の3PASから広告配信可能とのことですが、米国のCTVのトレンドをお伺いできますでしょうか?

 

渡邉:やはりトラディショナルなリニアTVのシェアはだいぶ下がってきていて、その分CTVのシェアは上がっています。ユーザーベースでは、2018年時点で米国の人口の55%がCTVでコンテンツを視聴しているというデータがあります。

 

 

実際、Innovidから配信している動画広告のうち27%がCTVに配信されており、デスクトップへの配信をすぐに追い抜く勢いで成長しています。

 

 

この成長の背景として、米国では数多くのOTTプレーヤーがおり、かつ広告在庫も豊富に持っていることがあげられます。InnovidのCTV認定パートナーの数を見ても分かるかと思います。

 

 

高瀬:実際デバイスとしては日本においてもCTVは増えているとは思いますが、CTV上で見れる広告在庫を持ったOTTアプリの規模感がまるで違うのかなぁと。

 

渡邉:そうですね。ですので、日本のOTTプレーヤーがどういったかたちで進化していくのかは気になるところです。

 

東京オリンピックがCTV普及のきっかけに

 

高瀬:米国では2018年時点で、動画広告におけるCTVのインプレッションのシェアがモバイルを超えているというデータもあります。一方で、日本では先ほどお話したOTTアプリ内の在庫の部分がチャレンジングなのかなと感じたのですが、いかがでしょうか。

 

参考:

 

渡邉:大きく2つあると考えています。1つはデバイス。例えば、TVerやAbemaTVを見ているユーザーの80%はモバイル視聴で、15%がデスクトップもしくはラップトップ、残りの5%がCTVとのことです。

 

次に、広告の審査です。Tverがまさにそうですが、日本ではテレビ局主導のOTTアプリが多く、テレビCM同様CM考査に時間を要するため、プログラマティックとはなかなか相容れない環境でチャレンジングだと感じています。

 

しかしながら、Innovidに興味を持っていただいている代理店やテレビ局も一部あり、2020年の東京オリンピックがCTV分野での日本市場進出のきっかけになればと思っています。

 

高瀬:確かに東京オリンピックはチャレンジできるいい機会かもしれませんね。最後に、CTVも含め、プログラマティックTVのグローバルならびに日本における展望をお聞かせいただけますか?

 

渡邉:グローバルでいうと、プログラマティックTVへの動きはだいぶ加速していくと思います。特に米国では、CTVでオンデマンドのプログラムを見るユーザーがさらに増えていくでしょうし、そこにユーザーと関連性の高いクリエイティブを配信できれば、広告主にとってもパブリッシャーにとっても魅力的な商品となるでしょう。

 

日本においては、先ほどお伝えしたOTTプレーヤーの部分でチャレンジがあると思いますが、2020年の東京オリンピックをきっかけに、ユーザー、パブリッシャー、広告主の三方よしになればいいなぁと思っています。このタイミングでテレビを買い替えるユーザーも多くいると思いますが、そのテレビはCTVである可能性が高いので、期待したいところです。

 

高瀬:なるほど。CTVそのものやCTVへのプログラマティック配信が普及していけば、従来のリニアTVも自ずとプログラマティックに少しずつ寄り添うことになるかもしれませんね。本日はどうもありがとうございました!

 

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