プログラマティックOOH:プログラマティック広告最前線 第一回

プログラマティックOOH:プログラマティック広告最前線 第一回

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『プログラマティック広告最前線』連載の趣旨

電通イージス・ネットワークによる「世界の広告費成長率予測(2018~2020)」によれば、2018年の世界の総広告費に占めるデジタル広告費の割合は38.5%となり、初めてテレビ広告費の35.4%を上回り媒体別シェアでトップになると推計されています。2019年には41.4%、2020年には43.8%とさらに伸長していく見通しとのことです。

リンク:

このデジタル広告のデファクトスタンダードとなっているのが、広告在庫の自動売買に対応するプログラマティック広告です。eMarketerによれば、米国においてディスプレイ広告全体の8割以上をプログラマティック広告が占め、2020年には86.3%をプログラマティック広告が占める見込みとのことです。

(画像タップで拡大可能です)Image Source: eMarketer

デジタル広告費が媒体別シェアでトップとなり、ディスプレイ広告の大半をプログラマティック広告が占めるということは、同時に「プログラマティック広告」が「広告」のデファクトスタンダードになりつつあることを意味します。5Gに代表される通信システムの発達やIoTの普及も相まって、テレビや屋外/交通広告(以下OOH)といったデジタル広告に分類されない媒体においても、プログラマティック化が進んでいます。

本連載では、マーケティング先進国の欧米の事例を中心にプログラマティック広告の最前線をお伝えするとともに、最前線の少し先の世界を考察していければと考えています。また、日本国内の最新事例についても、キーパーソンとの対談を通して紹介していきます。

第一回は、OOHのプログラマティック事情です。先に紹介した「世界の広告費成長率予測(2018~2020)」の「媒体別成長率予測(全世界)」によれば、OOHの成長率は、2018年と2019年ともに4%以上とデジタル広告以外の媒体の中では健闘しており、プログラマティック化が進む媒体のひとつでもあります。これにはデジタル対応設備の普及が背景にあるとのことです。

日本でもすでに事例のあるダイナミックDOOH

ある情報をトリガーに、デジタルOOH(以下DOOH)に表示するクリエイティブをダイナミック(動的)に変えるダイナミックDOOHは、欧米の事例はもちろんのこと、日本国内においてもいくつかの事例があります。

まず欧米の例をあげると、2015年にCoca-Colaは、Twitterでハッシュタグ「#CokeMyName」を入れてユーザーの名前をツイートすると、同社が広告配信しているタイムズスクエアのDOOHにユーザーの名前をダイナミックに挿入するキャンペーンを実施しています。(詳細は以下動画を参照ください)

米国のDOOHを推進する協会 Digital Place Based Advertising Association(以下DPAA)によれば、3週間以上にわたって実施された本キャンペーンの結果、タイムズスクエアにおいて540万人のユーザーに対してインプレッションが発生し、関連するSNS上での投稿の総インプレッション数は3.5億にのぼったとのことです。目的は若年層のCoca-Colaに対するエンゲージメント醸成とリアルとデジタルの融合ということで、一定の成果を収めたかたちではないでしょうか。

Image Source: Industry Case Study(DPAA公式サイトより)
(画像タップで拡大可能です)

また、2016年にUnileverはDoveのプロモーションでダイナミックDOOHを活用しました。具体的には、気象データと雨を検知するセンサーを活用して、雨が降ったタイミングでDOOHのクリエイティブを切り替えています。(以下リンク先でプロモーションの詳細を動画でご覧いただけます)

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日本においては、2017年に電通と日本マイクロソフトが日本初となる「人工知能型OOH広告」の提供を開始したことが記憶に新しいのではないでしょうか。具体的には、マイクロソフトのクラウドベースAI「Cognitive Services」を活用し、ユーザーの視線に応じてOOHのクリエイティブを出し分けるもので、資生堂がマキアージュのキャンペーンを展開しました。

参考:

本キャンペーンにおいては、併設されたセンサーによって通行量や実際に広告を見た人の人数、性別などを計測することで、インプレッションやフリークエンシー等の指標で結果を把握できるように設計されており、成果の可視化といった課題に対するソリューションも同時に提供しています。(詳細は以下動画を参照ください)

プログラマティック x ダイナミックDOOHへ

ダイナミックDOOHは日本でも事例がある一方で、プログラマティックOOHという観点では欧米の方が先行しているようです。直近の事例では、トルコにおけるトヨタのハイブリッドカーのプロモーションがあげられます。トヨタはDOOHのSSPであるAwarionとDSPのPlatform161とチームを組み、ダイナミックDOOHのプログラマティック配信を実施したとのことです。

参考:

クリエイティブは、広告が表示されるDOOH付近の交通状況や騒音レベル、また為替レートの情報をトリガーに差し替えられ、これらの情報とともにハイブリッドカーのメリットを訴求するものでした。例えば付近で交通渋滞が発生している場合は、交通状況を表示しながらハイブリッドカーの燃費のよさを訴求したクリエイティブに差し替えられます。

上記のダイナミックDOOHに加えて、トルコで300以上のDOOHスクリーンと接続しているSSPのAwarionと、そのDSPパートナーであるPlatform161を活用することにより、ダイナミックかつプログラマティックな広告配信をDOOHで実現しています。(詳細は以下動画を参照ください)

実際の広告配信を担当したUniversal McCannのTaylan Koru氏は、以下のように述べています。

We’re able to monitor the campaign live on Platform 161 and see how traffic is triggering our campaign spend. The beauty of programmatic DOOH is that your campaign budget only gets used at the moments that you want. We even optimised the campaign after seeing one location had more jams than others. We shifted budget with a few clicks.

Platform 161上で、進行中のキャンペーンのパフォーマンスを確認し、交通状況がキャンペーンの費用にどれほど影響を与えているか見ることができます。プログラマティックDOOHの素晴らしいところは、キャンペーン予算をまさに使いたいときに使えることです。さらに、他の場所と比較してある場所の付近の道路の方が渋滞しているこという情報をもとに、キャンペーンを最適化することも出来ました。私たちは予算を数クリックでシフトできたのです。

本キャンペーンは、2018年10月にイスタンブールの道路沿いの5つのデジタルビルボードで展開されました。AdExchangerが報じるところによれば、その翌月のハイブリッドカーの販売台数は前年同月比で44%増となり、トヨタは2018年11月にトルコで最も売れた車となったとのことです。

参考:

プログラマティックOOHのその先へ

クリエイティブを外部データとの連携によってダイナミックに出し分け、SSPによってネットワーク化された広告在庫をDSP上で買い付ける。このように、プログラマティック広告はOOHの世界でも普及しつつあります。WavemakerのOleg Korenfeld氏は、AdExchangerに寄稿したコラムの中で以下のように述べています。

The DPAA estimates that programmatic DOOH spend was about $75 million in 2018, which is tiny compared to desktop and mobile. But with the buying community clearly looking to automate where possible and defragment tech stacks, while, in parallel, OOH publishers, such as Clear Channel Outdoor, are quickly digitalizing their billboards, I believe it’s safe to assume that scaled adoption is around the corner.

DPAAは、2018年のプログラマティックDOOH広告費を75百万ドルと推計しており、その数字はデスクトップやモバイルと比較すると小さいです。しかし、バイサイドのコミュニティは可能な範囲での自動化と技術スタックのフラグメンテーションの解消をはっきりと期待していると同時に、OOHのパブリッシャー、例えばClear Channel Outdoorは、ビルボードのデジタル化を急速に進めており、プログラマティックDOOHの浸透は目前に迫っているといっていいでしょう。

リンク:

IoT化であらゆるものがネットワークと常時接続し、5Gで通信速度や処理できるデータ量が桁違いとなった時、プログラマティックOOHはその真価を発揮するでしょう。

屋外広告であれば、カメラやセンサーが付近の人の通行量や車の交通量、天気をリアルタイムに検知し、コンテクストにあった広告をオークションで決定することも技術的には可能になるではないでしょうか。電車内のデジタルサイネージの場合、サイネージに視線を向けた個人のデモグラフィック情報をカメラで検知し、それに合った広告を瞬時に出し分けることもできるでしょう。

また、ブランド認知度や売り上げ、店舗来訪のリフトを測定することができれば、ROIベースでの投資も可能になります。すでに米国においては、モバイルデバイスの位置情報データを活用したリフト測定が実施されており、2017年の時点で24時間営業ジムのOOHキャンペーンによる店舗来訪リフト測定の事例も紹介されています。

参考:

キャンペーンの目的に応じて、コンテクストやデモグラフィック、もしくはプレイスメントといったターゲティングメニューを使い分けてDOOHをプログラマティックに買い付け、広告管理画面にリアルタイムに近いかたちで可視化される成果をもとに最適化を進める。広告運用者がDOOHを運用する日も、そう遠くはないかもしれませんね。

次回の連載では、キーパーソンとの対談を通して、日本におけるプログラマティックOOH最前線を紹介します。

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