デジタル広告費の質的変化と、広告代理店の報酬体系:Forrester 2017年のレポートから

デジタル広告費の質的変化と、広告代理店の報酬体系:Forrester 2017年のレポートから

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Forrester が提示したデジタルメディアの成長

2017年のはじめに、調査会社の Forrester Research が、アメリカの今後5年間のデジタルメディアの方向性を予測したレポート 「US Digital Marketing Forecast: 2016 To 2021」 を発表しています。

リンク:

このレポートによると、アメリカのデジタルメディアにかける費用は、今後5年間も順調に成長し、年間の平均成長率は約11%で推移、2021年には1,200億ドル(約13兆円!)に達する見込みとのことです。消費の中心がミレニアル世代(2000年以降に成人する世代)に移行することで、彼らにリーチするための手段として、企業は利用するメディアをデジタルに寄せざるを得なくなっていますので、今後もこの傾向は変わらないと考えるのが自然です。ややもすれば、デジタルメディアの成長ではなく、他のメディアがどう変化していくか(どうデジタルと融合していくか)に焦点が集まっていくのかもしれません。

リリースにあたり、Forrester のアナリスト Shar VanBoskirk は、要点を以下のようにコメントしています。

Working budgets will give ground to non-working ones. Overall, digital marketing is pacing at a healthy 11% compound annual growth rate between now and 2021. But this is not the experimental “spend on anything to see what works” investment that we saw between 2008-2012. Marketers are more mature now with capable measurement practices. This means they will spend judiciously on just what works for their goals. And many are dialing back pure digital advertising investment, prioritizing instead non-working investments in data, technology and customer experience.

実行予算は、非実行予算に道を譲ることになる デジタルマーケティングは2021年まで順調に年率11%の成長率になると予想されています。しかしながら、これは2008年からの5年間に行われてきた「何が効くのかを可視化する」ための実験的な投資ではありません。マーケティング担当者は以前よりも計測業務に対して習熟しています。それは、彼らが慎重に「目標のために効くところ」へ投資しはじめることを意味します。多くは、データやテクノロジー、顧客体験の向上を、純粋なデジタルメディア費用よりも優先していくことになるでしょう。

参考:

「実行予算」と「非実行予算」

上記の VanBoskirk のコメントでは、「実行予算(working budgets)」 と 「非実行予算(non-working budgets)」 という単語が使われています。

実行予算とは、いわゆるメディア広告費を指します。企業が伝えたいメッセージを、ユーザーや顧客に直接リーチするために使う予算のことです。

対して、非実行予算は、広告代理店に支払う手数料、キャンペーンサイトやコンテンツの制作費、分析や調査予算、データ集計やマーケティングプラットフォームの利用費などが対象になります。純粋に広告として扱われない予算(インプレッション(クリック)以外の予算)すべてを指す言葉です。

画像:実行予算と非実行予算(筆者作成)

ある程度の規模のマーケティング予算を持つ企業の立場になってみると、マーケティングにかける総予算のうち、この実行予算と非実行予算の割合は非常に重要です。理想的な比率はどこか?という議論は、その時々の企業の事情によって変化するので明確な回答はありませんが、広告代理店の手数料(コミッション)比率が一般にメディア費用の15%〜20%に当たることから、そこへコンテンツの制作費用や調査費等を合わせて、25%〜35%の範囲で収めるケースが多いのではないでしょうか。

そして、予算削減や優先順位の変更などのキャンペーンへ変化の要請がある際には、メディア広告費、つまり実行予算をなるべく保持し、制作費や分析のような非実行予算を削減するような動きが一般的だったと思います。

テクノロジーの進化がもたらす、非実行予算の重要性

広告代理店がメディア広告費の販売を代理している場合(つまり通常の代理店取引の場合)、企業がメディアにつかう予算を広告宣伝費として計上するよう、広告代理店の受け取る手数料はメディア広告費に料率として含まれて請求されます。

キャンペーンがオープンコンペになった場合や、何らかの理由で値下げを余儀なくされる場合には、代理店は手数料(コミッション)をディスカウントし、名目の実行予算比率を引き上げる、というのが一つの有効な武器として機能していました。

しかし、今後もそれが武器として有効に機能するかどうかは疑問符がつきます(少なくとも感度の高い企業相手には)。

Forrester のレポートが指摘するまでもなく、今後もしばらく広告費におけるデジタル比率は上がり続けると思われます。その意味でデジタルを扱う広告代理店が置かれている環境は追い風には違いないのですが、以前「分断していくディスプレイ広告と、広告代理店の未来 〜Display Duopoly」 でも言及したとおり、今後は、価格競争に勝つために仕入れを強化する(メディアバイイングを肥大化させる)流れから、徐々に請求する価格に見合うサービスを提供するための差別化を実践していくフェーズに入るのではないかと考えられます。

参考:

この仮説は、先ほど引用した Forrester のレポートにある 「データやテクノロジー、顧客体験の向上を、純粋なデジタルメディア費用よりも優先していくことになるでしょう。」 という指摘とも符号します。

代理店に支払う手数料【以外】の非実行予算が増えていくことで、その予算を有効に活用していくためのテクノロジー側の設計立案と実行は当然求められます。代理店が扱っていたメニューのデジタル比率が上がることで、これまでは「デジタル」や「インタラクティブ」として部門化すれば済んでいたものが、あらゆるメニューがデジタル化することによって、機能として横断(それぞれに内包)しないと対応が難しくなってくるでしょう。分析はアンケート調査からアクセス解析、機械学習へと代わり、”コンテンツ”という言葉が指す対象も変わってきています。

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画像:広告代理店の機能(筆者作成)

広告については、しばらくは Google と Facebook の二強で成立する世界(Duopoly)の中で生きることになりますので、これまでのバルクディスカウントが可能だったオールドメディアとは違い、そもそも取り扱いの肥大化と価格競争力との因果関係も薄くなります。(どちらも広告の価格はオークションプレッシャーと品質で決定されるためです)

そうなると、マーケット全体が成長軌道にあるにも関わらず、提供する(デジタルの)メニューについての知見に乏しい、差別化要素の少ない広告代理店には予算が回ってこないということになります。Google と Facebook の二強(日本ではYahoo!を入れて三強ですね)は広告分野における富の偏在を加速させていますが、それらを扱う中間事業者の価値付けにも、大きく影響を与えていると言えるのではないでしょうか。

提供価値に合わせた報酬体系を考える

非実行予算の重要性が高まり、それに合わせて代理店の提供価値が徐々に変化していくとして、ビジネスモデルの変化はあるのでしょうか。

デジタルの広告費は順調に増加していくとしても、「データやテクノロジー、顧客体験の向上を、純粋なデジタルメディア費用よりも優先していく」世界で、すべての代理店の経営を広告費の仕入れのマージン(≒コミッション)だけで成り立たせるというのは、論理的にやや無理があるように思います。メディア広告費以外の提供価値が代理店にとってはすべてコストになってしまうため、広告主側との利害が一致しないからです。

提供価値(≒得意分野)が代理店ごとに違うのであれば、それぞれの料金設定も差別化を反映したものになってくるのが自然です。どれが自社のサービスにフィットするかどうかは置いておいて、料金体系について一度考えてみるのは無駄ではないように思います。

そこで、以下に思いつく限りのモデルを挙げてみたいと思います。

1.広告費の料率(%連動)

通常の代理店コミッションは広告費の料率になると思います。これまでの商習慣に合っていることや、広告費に連動しているので、上昇時にマージンも連動して増えていくため分かりやすいのが利点だと言えます。一方で、広告費に連動するので広告を売らない限り収益が上がらないため、営業側がメディア以外の力点を置きにくいことと、広告費によってサービスレベルを変えざるを得ず、アップダウンが激しくなりやすい傾向があります。

2.広告費の料率(階層連動)

1.の%連動の場合、広告費が上昇した際に広告主が支払うコミッションも比例して上昇するため、広告規模の大きな企業では割高感が出ます。それによる値下げ圧力やスイッチングリスクの発生を考慮して、あらかじめ広告費の規模に応じてコミッションの率もしくは絶対額に段階を設けておく、という方式です。広告費上昇時には料率を下げて割安感を出し、広告費減少時には下限を設けることで代理店側のリスクヘッジをします。

3.定額制

料率とは違い、広告費にコミッションを連動させず、SLA(サービスレベル)に応じた固定のフィーとして請求するモデルです。完全な固定ではサービスが停滞する可能性があるため、後述する追加オプションや成功報酬等と組み合わせたり、SLAに応じた段階的な価格帯を提示するのが一般的です。広告だけでなくサービスを売る場合に適しています。

4.ハイブリッド制

料率と定額を組み合わせたモデルです。下限をつけるという意味では「2.料率(階層連動)」と近いですが、2.が広告費のみで算出されるのとは違い、ベースを定額フィーとし、広告費の扱いを料率計算し、双方を足し上げるというモデルです。たとえば、定額分として50万円、広告費料率が7%として計算する場合、その月の広告費が500万円であれば、コミッションの請求額は85万円になります。

5.成功報酬

広告費料率とは別に、特定の目的指標を達成した場合に、インセンティブを請求するモデルです。広告主側ではローリスクでキャンペーンを始められる一方、計測や分析の透明性が問題になりやすいことや、目的指標に寄りすぎて他のマーケティング目標が無視される(あるいは毀損される)リスクを受け入れる必要があるため、成功報酬のみでの契約ではなく、他のモデルの追加オプションとして使われることが多いです。

6.初期費用

セットアップフィーとも呼ばれます。一般的なキャンペーンでは初期設計・実装に多くのリソースがかかることから、通常のモデルとは別に、開始時や準備期間にのみ追加費用を請求することがあります。新しいキャンペーンや顧客に精通し、マーケティング戦略やブランド価値への理解、重要な初期アカウントの構築を行うために、品質を重要視する企業で時折採用されるオプションです。

7.追加オプション

アカウントの再構築、複雑な分析ツールの導入、サブアカウントの追加など、通常の請求モデルではカバーしにくい範囲を補填し、品質を維持するためのオプションです。定額制やハイブリッド制と相性がよく、サービスの内容によって、定額(要メニュー化)や、時間あたりの料金となることがあります。

どこを目指すかで、料金体系も変わってくる

「Every fee equates to hours (フィーとは、使える時間のことである)」という言葉がありますが、冒頭の Forrester のレポートが示唆するように、広告主が代理店へ求める価値も、代理店が使う時間の中身も、今後ますます変化していくのではないかと考えられます。

代理店の経費の多くは人件費だということを考えると、どの提供価値に対してどういった対価を請求するのか、その設計次第で代理店の経営資源の配分が変わってくるはずです。金額に応じた時間をレポートの作成に使うのか、ミーティング用の資料に使うのか、あるいは集計システムの導入コンサルティングに使うのか、分析モデルの設計に使うのか、そういった現場での僅かな違いが、代理店と、そこで働く個人の未来に大きく影響してくるのではないかと思います。

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