デジタルでも電通は真のリーダーになる:Unyoo.jp特別対談: ネクステッジ電通 杉浦友彦さんに聞く

デジタルでも電通は真のリーダーになる:Unyoo.jp特別対談: ネクステッジ電通 杉浦友彦さんに聞く

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※この対談は、アトリビューションについての総合情報サイト、Attribution.jp「アトリビューション対談: デジタルでも電通は真のリーダーになる 〜1年で急成長したネクステッジ電通に迫る」と同時掲載しております。

 

ネクステッジ電通とは

有園:株式会社ネクステッジ電通の代表取締役社長COO、杉浦友彦さんをお招きして、お話を伺います。さっそくですが、ネクステッジ電通の設立は、2013年の5月ですよね。

杉浦:設立は5月ですが、本格的な営業開始は10月です。会社登記は2013年5月23日で、それと同時にプレスリリースを発表しました。そこから四か月は採用などの準備期間にあてて、大きく動きだしたのが10月からです。

有園:単刀直入に伺いますが、ちょうど1年ほど経過して、どうですか?

杉浦:駆け抜けている、突っ走っている感じですかね。

有園:きっと、すごく忙しいんだろうなって思っているんですが。

杉浦:ほどほどです(笑)

有園:御社のことを、まだ詳しくは、ご存じない方もいらっしゃると思うので、何をされているのか、簡単にご説明いただけますか。

杉浦:キーワードとしては、パフォーマンスマーケティングの会社と定義をしています。欧米で、そのまま直訳すると、業績マーケティングとか言われることもありますが、基本的には成果を出すための、成果に直結するためのマーケティングを行っている会社です。これって、いままでのダイレクトマーケティングが進化した形になっているかと思うのですが、明確なKPI、成果を定めて、そこに対してPDCAを回し、KPIを改善していくところに立脚したエージェンシーです。当り前のように聞こえるかもしれませんが、数値の明確な目標や、売り上げをいくら上げるのか、何件獲得するのかといったことに対して、あらゆる手段を尽くして数字を追いかけることを生業にしています。欧米だと、パフォーマンスエージェンシーと言えば、それだけで一つの業態があります。でも、日本だと、まだ、そこまで一般的に言われる言葉ではありません。いまは、デジタルパフォーマンスエージェンシーという言葉をつかうことが多いです。手段としてデジタルを使っています。そのほうが、改善のサイクルも回しやすいですし、成果も可視化しやすいので、まずはデジタルに軸足を置いています。広義な意味でいくと、あらゆる手段を講じて成果を上げていくところに立脚した事業を展開しています。

有園:そうすると、パフォーマンスメディアとよく呼ばれる分野を主に扱っていらっしゃるということで、よろしいでしょうか。

杉浦:はい。手段として、運用型のデジタル広告と呼ばれるような、リスティング広告、ディスプレイ広告、Facebook広告などが主になります。その周辺にある、バナーやランディングページなどのクリエイティブ、SEO、テクノロジーの導入や実装などが、どんどんくっついている感じです。

広告とテクノロジー

有園:いま、テクノロジーの導入が話に出ましたが、ここ2年、3年の業界の動きとして、たとえば、サイバーエージェントでは、アドテク本部を設立しました。アドテク本部で、テクノロジーや社内ツールなどの開発をしていると思われます。ネクステッジ電通でも、アドテクといった部分は、エンジニアを抱えて自社開発しているのでしょうか?

杉浦:自社開発しており、強化しているところでもあります。我々の場合、プロダクトセールスではなく、個々のクライアント向けに、オーダーメイドでカスタマイズすることが前提でテクノロジーを導入することが多いです。

有園:ソリューションを提供しているということでしょうか。

杉浦:完全にそうです。特に大型のお客さまの場合、既存のツールだけだと、痒いところに手が届かないような場合が多いので、そこを自社開発で補完します。レポーティングや入稿、定型の入札等、運用者のルーチン業務を自動化するようなこともありますし、タグのカスタマイズ、AdWords Scriptを活用した運用の高度化なども含まれますね。テクノロジー活用の目的の1つは、コンサルタントの負担となっているルーチン業務を合理化し、考える仕事、より付加価値の高い仕事にパワーを割けるようにすること。加えて、人では不可能な大量かつリアルタイムの処理をテクノロジーによって代替し、運用自体を高度化することです。

有園:私の印象では、業界内でのネクステッジ電通の存在感が急激に高まっている。いろいろなところで名前を聞くようになりましたので、社員数も売り上げもかなり伸びていっているということですよね。

杉浦:そうですね。お陰さまで。

有園:じつは、ここ1年ぐらいの間ですが、電通のイメージが変わったという話を何度か耳にしたことがあります。マス広告の会社だと思っていたのですがデジタル広告でも真のリーダーになりつつあるのではないか、というような話を聞きました。電通というか、そこで指しているのは、ネクステッジ電通なのです。それで今回はお話しをさせて頂きたいと思ってお伺いしました。

さて、売り上げもかなり伸びているということですが、ほとんどがリスティング広告ですか。

杉浦:今はリスティング広告の比重は大きいですね。売り上げでいうと、SEMとDSPを含むディスプレイ広告が中心になります。それ以外にも、フィーベースのコンサルティング仕事や、コンテンツ制作やSEOの受注も増えています。

有園:1年で急成長されたわけですね。

ネクステッジ電通の強み

杉浦:会社設立の背景にも関わるのですが、ネクステッジ電通は、まったく新しい会社というわけではありません。もともと、電通のなかで5年から6年くらい、この領域を深掘りしてやっていたチームが母体となっています。そういった意味で、営業面でも、ノウハウ面でも、過去の蓄積がかなりありました。そこを別会社の形にして、もっと機動的に拡大していこう、もっとスピーディに経営していこうという主旨がありました。そういう意味では、ゼロからスタートかというと、そうではありません。

ネクステッジ電通の設立経緯

有園:電通のなかで「ネクステッジ電通が必要だよね」って話になったのだと思いますが、なにがきっかけで、どういう経緯があったのでしょうか。

杉浦:お客さまのマーケティング環境がデジタル化していくなかで、KPIをきちんと追いかけてPDCAを回して成果を上げることに対して、お客さまの需要が、ものすごく高まっていました。でも、総合代理店のような大きな組織には、細かい運用や、リアルタイムで、デイリー、ウィークリー、マンスリーでレポートを出してチューニングしていくといった文化が馴染みにくい部分が、どうしてもあって。

有園:デイリーで運用するとか、ウィークリーでお客さまのところへ行って報告するとかが馴染みにくいというのは、重要なポイントですね。

杉浦:いままでの、いわゆるマス広告主体のキャンペーンのサイクルとは違います。総合代理店の過去50年、100年の歴史から考えると、見るデータも違います。パネルベースの調査があって、そこからターゲット分析をして、渾身のクリエイティブをつくって、三か月間回してキャンペーンを検証してといったのが、通常の広告コミュニケーションのサイクルです。一方、デジタルの運用型広告だと、デイリーのオペレーションは当り前です。でも、それを、いままでの総合代理店の社内に抱えて急拡大することは、人材確保の問題や、文化の浸透といったところで、なかなか競合他社のスピードにはついていけない面がある。それで、外に出して、もっとスピードを上げていく、体制を拡大していくという選択肢をとったわけです。

有園:僕が外から見ていると「かなり尖がっていたんだろうな、杉浦さん」というイメージなんですよ。

杉浦:尖がっていたかは分かりませんが(笑)異質ではあったと思います。17年間ずっとデジタルを追いかけている、デジタルネイティブなんで。

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1クリック10円なんて仕事ができるかよ!

有園:僕自身の経験を少し話しますと、10年ほど前の2004年頃はオーバーチュアという会社にいて、総合代理店さんの担当でした。当時、電通とも調査の仕事で関わったことがあり、一緒に仕事をすることもありました。総合広告代理店さんに対して「リスティング広告を拡販してください」というのが僕の仕事でしたが、総合広告代理店の人に説明してもなかなか理解してもらえない状況が続きました。あるとき、打ち合わせに行くと会議室に通されて、当時は社内で煙草を吸うことができた時代なのですが、担当者がいてスパーっと煙草を吸いながら「お前ら何しにきたんだっけ?」という雰囲気に包まれたことがあって。決して口ではそんなヒドイことは言わないですけど、そんな雰囲気があって(笑)で、実際に言われた言葉でいまでも覚えていることがあります。それを言った人が、いまどこで何をしているかは知りませんが「え?1クリック10円?そんな仕事できるかよ」と。どこの総合広告代理店さんだったかは伏せておきますけど。

杉浦:すごい発言ですね。

有園:ちょっと事情があって口論になった打ち合わせだったのです。「え?1クリック10円?そんな仕事できるかよ。俺たちが年間いくら売っているのか知っているか?」と言われました。それくらい、リスティング広告は相手にしてもらえない時代がありました。そんな時代なので、よくケンカみたいことをしていたのです。こっちもリスティング広告を売るために必死でしたから。もちろん、そういう本気のやり取りを通して、総合広告代理店さん、とくに、電通と博報堂にはたくさんのことを教えてもらい、苦労もしたけどその分だけ感謝もしています。

それが変わったんですよね。5年くらい前からですかね、状況がコロッと変わったというか、時代が変わったのか、僕の話を聞いてもらえるようになりました。電通や博報堂に呼ばれて、勉強会をおこなったりセミナーで話したりすることも増えて、総合広告代理店さんも、だいぶ状況が変わったなって有り難く思っています。

電通が運用型広告をやる

有園:実は僕、ネクステッジ電通には勝手に期待しているんです。

杉浦:ありがとうございます。

有園:「電通の中で運用型広告をやるんだ!」と意思表明した感じですよね。社内でやるのは難しいけれど、別会社でやるんだと。それって、僕が総合広告代理店さんにリスティング広告を苦労して売っていたころに比べると、隔世の感があります。理解してくれる人が増えることは、個人的にも嬉しいです。今後あらゆる広告が運用型広告になっていく流れからいくと、アメリカで最近でてきたプログラマティックTVで、AudienceXpress(http://www.audiencexpress.com/)という会社があります。AudienceXpressが、プログラマティックTVのプラットフォームを提供し始めていて、DSP/DMPを提供しているTURN社(http://turn-jp.com/)もAudienceXpressとパートナーシップを結んだという発表がありました。ちなみに、TURN社は電通ともパートナーシップを結んだと発表されたばかりですね。このAudienceXpressやTURN社のように、徐々に、テレビのバイイングにも運用型広告に近い仕組みが入り始めているようです。あくまでアメリカの話でまだまだ初期段階ですし、RTB(real-time bidding)ではないようですけど。

杉浦:なるほど。当然、そういう流れになるでしょうね。

メディアの環境や電通の今後

有園:このようなことが起きているなかで、杉浦さんは、どういう風に、この先を見ていますか?電通の第四代、代表取締役社長に吉田秀雄という方がいます。たしか、43歳で代表取締役社長に就任しています。

杉浦:そっかあ。4つしか変わらないじゃないですか。

有園:代表取締役社長に就任したのが1947年(昭和22年)で、戦後の混乱の時期でもあり、その頃のテレビの市場は新興で、吉田秀雄が作ったようなものだと思うんです。彼一人ではないと思いますが、市場を自分で作ったので、電通がリードして作ったことで、テレビの市場を圧倒的に押さえることになったんだろうな、と思います。そうすると、これからの次の時代のルールも主導して作る人がマーケットの主導権を握っていくという考え方もあるだろうと。そういう意味では、吉田秀雄は40代で社長になり、いまの時代に電通本体で40代の社長が誕生することは難しいと思いますが、40代という世代がアクティブに次のマーケットを作っていくべきだと思っています。そういったアナロジーで、ネクステッジ電通の社長である杉浦さんは、だいたい40代ですし、今後を、どのように見ているのかなと思いまして。

杉浦:それは、メディアの環境の話ですか?

有園:メディアの環境や電通は今後どう、ビジネスをしていくべきかを伺えれば。立場的に話せないこともたくさんあるとは思うのですが、あえて、聞いてみたいと思っています。

杉浦:メディア環境については、電通の広告ビジネス全体でいくと、テレビがいつの段階で、どういうスピードで、どう変わっていくのかは、生活者の視聴態度に大きく依存するというか、左右されると思います。テレビというビジネスについて、そこまで勉強もしていないので、僕に語る資格はないのですが、マスメディアとウェブサイトの統合分析や、最終的には売り上げに、どのくらい寄与できるかといったことに携わる機会が多いなかで言うと、いまだにテレビは圧倒的なパワーをもったメディアであることは事実です。現状、多くの企業にとって、テレビは外せないメディアであり、広告手段でもあります。それが、テレビを見ない世代、YouTubeなどの動画を見ている世代が消費の中心になっていくなかで、当然、世代が変わればジワジワと、いまよりもテレビのパワーは相対的に落ちていくリスクに晒されているとは思います。ただ、日本の場合、アメリカとは環境が大きく違い、アメリカは、多チャンネルで、ケーブルテレビで、コンテンツとチャネル、ディストリビューションが分断されているなかで、コンテンツのコングロマリットが、比較的メディアニュートラル、チャネルニュートラルなスタンスを取っているのかと思います。コンテンツを配信していく、ケーブルテレビにも出す、YouTubeにも出すと、しがらみのない環境で進化しています。チャネルの多様化は、アメリカの方がはるかに進みやすいです。一方、日本の場合、地上波のテレビ局が圧倒的なコンテンツプロバイダーであり、有限な電波を利用する権利も持っており、多チャンネル化が進むスピードは非常に遅いです。過去10年、20年を見ても、地上波のパワーが圧倒的です。マスコンテンツ、マスメディアのパワーが圧倒的という流れが続いています。いまだに、最高益を出しているキー局もあります。5年、10年で、業界が崩れるといったスピード感ではないと思っています。私は、意外とテレビの未来についてはポジティブです。いまも見逃し視聴の話や、ネットにもコンテンツを出していくといったところには、着々と手を打ち始めていますし。

有園:見逃し視聴って、この前、民放連の会長が発表された、見逃したテレビ番組をインターネット上で、無料で視聴できるという話でしょうか。

杉浦:そうです。CMモデルをバンドルした形で。そういった流れなど、ジワジワと新しい視聴スタイルが提唱されています。テレビは、リビングで見るものとは限らず、スマホやタブレットでも見るなど、ユーザのコンテンツの視聴スタイルにアジャストしていけば、コンテンツのパワーは、そんな簡単には崩れないと思っています。ただ、そこに差し込まれる広告が、どう差し込まれていくのか、プログラマティックなのか、ターゲティングなのか、アドレサブルでターゲティングが可能なのか、枠でしか買えないのかといったビジネスモデルは、これから作っていくことではあります。いまの運用型広告の世界に代表されるような、ターゲティングが可能で、運用が可能で、成果が見える化されていて、それを基にチューニングを繰り返していくところの、データドリブンな、広告の配信、出稿の流れは、不可逆的なもの、止められないものだと思います。ある日、突然、今日から広告がクリックできない、出稿できない、ターゲティングができなくなってマスの枠でしか買えないということにはなりません。そこが逆行することは考えづらいです。メディア環境がデジタルでITである限りは、そこをブレークスルーするプレイヤーは出てくると思うので。そこが不可逆的な流れである限りは、それに備えるスタンスです。別に、それが3年後なのか10年後なのか20年後なのかは分かりませんが、主従が逆転するというか、電通のような会社、少なくともお客さまの期待に応え続ける会社は、あらゆる手段を使ってやっていくので、避けては通れません。トップレベルの知見とやり方を磨いておかないとダメですよね。そこの競争力は担保するってことには、こだわっています。

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データドリブンなマーケティングの方向へ進む

有園:不可逆的にデータドリブンなマーケティングの方向に進み、テレビも見逃し視聴に対応するような形で、ネットにコンテンツが出ていきます。徐々に、スマートテレビになっていくと思います。いま、スマートテレビとしてインターネットにつないでいるのが20パーセントくらいと聞いています。私見ですが、2020年の東京オリンピックのときにはテレビを新しく買う人も増え、そのときにはスマートテレビしか売っていないような状況になるので、スマートテレビが日本の50パーセントくらいの家庭に入っているのではないかと思っています。そうなると、テレビというものが、これまでの放送波表示用端末ではなく、ディスプレイとしての役割を担うようになります。YouTubeを見たり、Huluを見たり、ついでに地上波も見ることができるってことになると、キー局を中心にコンテンツのパワーが強いといっても分散しますよね。

杉浦:はい、そうなるかと思います。

有園:結局、いままでテレビが強かった理由は、独占的にリーチを稼げるメディアだったからではないかと考えています。いまもそうですが、それが崩れる瞬間がくるかもしれないとしたら、スマートテレビ化されてチャネルが分散化したときでしょうか。テレビを見ながらアプリも使えるしゲームで遊べるってことが普通になってしまうとどうなるんだろうか、と。アテンションエコノミーという話が昔ありました。御社だと秋山隆平さんの『情報大爆発―コミュニケーション・デザインはどう変わるか』とか。「情報化時代」から「情報過剰時代」になって情報の価値が暴落し始めている、という話。

杉浦:はいはい。

有園:『情報大爆発―コミュニケーション・デザインはどう変わるか』にも書いてありますが、アテンションがとれるから価値があったというところが崩れ始めるような気もしていて。次のビジネスモデルとしてテレビ番組の見逃し視聴をネットでやると、どうなるのかなと。リニアなテレビ放送時と同じCMを流すのか、それとも異なる広告主のCMをネットの見逃し視聴では流すのか、タイムの番組はどうなるのでしょうか、とか、考えなければならないことがたくさんありそうですよね。きっと、いまの40代前後の方々がそのビジネスを作っていくことになるんだろうなと思っています。

杉浦:そうですね。

有園:杉浦さんの答えは、そのような変化に備えていくスタンスなのかなと思ったのですが。

手段では領域をきらない、普遍的なパフォーマンスマーケティング

杉浦:そこの流れは当然あるなかで、ネクステッジ電通が追いかけている領域は普遍的で、手段はどうなっても対応できる、どちらかというとメンタリティに近いようなものです。データを可視化し、分析し、新しい手段を常にキャッチアップしながら、トライして、改善して、マーケティングの精度を高めていく姿勢。そんなメンタリティをコアにしています。どうなっても良い部分しか追いかけていません。その意味で、今は、その手段との1つとして、リスティング広告がもっとも効果的、効率的で、シャープにチューニングができる、ということです。そこでのターゲティングや施策改善のノウハウは今後、スマートテレビに配信される広告、デジタルサイネージ、アプリ、オウンドメディアなどの領域にも応用可能です。手段では領域をきっていないのが、我々のスタンスです。なにより、そこで鍛えられた人材こそが、次の広告・マーケティング業界における主役になっていくと信じています。

有園:ネクステッジ電通は、どこに向かっていくのでしょうか。たとえば、ネット専業代理店に対抗していくのでしょうか。

杉浦:もちろん、期待される部分としては、あると思っています。ただ、ネット専業代理店に比べると、長期目線で成果を上げる方法を研究開発しながら磨いていくところが、我々の特徴的なスタンスです。いまのデジタルの運用型広告だけで解決できるとは思っていないので、いかに電通がもっている資産や強み、専門性を掛け算していくかにこだわっています。長期目線と掛け算が、専業代理店とのポジションの違いかなと。真剣に次のデジタルのマーケティングを追求しているお客さまと、ガッチリご一緒するような仕事のやり方です。お客さまと同じ目線で次のマーケティングを作り上げた結果に数字がついてきますので。売上の規模は、求めるものではなくて物差しみたいなものですかね。

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電通が抱える問題

有園:話せないかもしれませんが、これまで「電通に問題がある」という思いもあったはずだと思うのですが、そのあたりはいかがですか。

杉浦:過去の成功体験や守るものがあるぶん、大きく舵は取りづらくなります。それは、電通に限らず大会社のジレンマだと思います。その中で日々、変化して、ビジネス自体のパラダイムや価値観も変わろうとしていて電通本体では速やかに動かせないようなビジネスについて、外に出してやることは理にかなっているので、そこに着実に対応していくのは電通の凄い部分かなと。以前、EvernoteのCEOが100年続く会社を分析したら、80パーセントが日本企業だったと言っていましたが、100年続く会社というのはなんだかんだで浄化作用が働いていて、正しい方向に向かおうとする力だったり、そういう信念を持っている人間だったり、それを応援する人や組織が存在すると思うんです。そうじゃないと続かないので。だから、そこはあまり悲観していません。逆に、いまの電通のエネルギーの良い部分を、どう巻き込んで、デジタルネイティブの視点で変えていくかですね。仕事自体は、やりがいがありますし、お客さまのためにも、広告業界のためにも大きな意味があると思っています。

有園:電通に問題がありますか?というのも意地悪な聞き方でした。ところで、私がいつもスゴイなって思うことがあります。電通も博報堂も懐が深いですよね。たとえば、クリエイターと呼ばれる方の中には、けっこう変な人もいますよね。突拍子もないことを言い出したり、尖がったことを言ったり。そうした、いろいろな意見を吸収できるだけの包容力があるというか。新卒が生意気なことを言っても、筋が通ったよい意見は尊重されるじゃないですか。でも、他の会社では、部長が意見を言うと周りの人は何も言わなくなるような打ち合わせを見かけることもあります。上の人が何か言って、下の人から反対意見が普通にでる。それが、普通なのが広告業界というか。電通や博報堂のフラットなとてもよい文化だと思っています。

杉浦:そうだと思います。

有園:その辺は、他の業界や会社とだいぶ違うところもある。いろいろな人を許容できるっていうなかで、電通はネクステッジ電通を作って次に備えています。これも、懐の深い会社だからできることなのかなと。

杉浦:普通はやらせてもらえないですよね。

「日本の広告業界をどうするべきか」という視点で物を考える

有園:電通の人と仕事をしていて、他の代理店と一番違うなって感じるところがあります。競合他社の動きを気にするのは普通のことなので、博報堂やサイバーエージェントは「電通どうしているんだろう」と気にして、電通も「博報堂はどうしているだろう」「サイバーエージェントはどうしているだろう」と気にされていると思います。ただ、電通には、他社を気にする一方で、「日本の広告業界って、どうあるべきなんだろう」あるいは「日本はどうあるべきか」と考えている人がいます。そうしたことを考えているのは、圧倒的に電通の方に多いんです。他社で「日本の広告業界をどうするべきか」という視点で発想されている方はあまり多くないと思っています。

日本の広告業界における課題

有園:比較的、電通の方は、そうした意識があって。運用型広告とマス広告を、どうマージして、よりレベルの高い広告を日本でどのように提供していくかといった視点をお持ちである、電通の杉浦さんへ最後に伺います。今後、日本の広告業界における課題とは、なんだと思われますか?デジタルに立脚している杉浦さんの視点では、どう見えているのでしょうか?

杉浦:いろいろなところで分断が起きていることが課題です。私がやっている、デジタルのパフォーマンス領域と、電通がメインでやってきたマス寄りのマーケティングの世界が分断されているがゆえに、お客さまの課題解決に結び付かないことが多いのです。マスは電通だけど、デジタルはネット専業ってことになっていたり。クリエイティブひとつとっても、プロフェッショナルな人間がデジタルな世界に流れ込んでいるとも言えませんし、分析に関しては近づき始めたかもしれませんが、世界が分断されていて融合されていないのは、お客さまのためになりません。主従みたいな関係になっているのも課題です。主が広告主の広告宣伝部で、デジタルは運用に求められれば子会社がやればいいみたいな話になることも。そこには、対応面の違いが存在して、川上、川下という区分けで語られたり。細部に習熟した、データドリブンなマーケティングを極めている人間が、もっと業界の主役になっていく、少なくとも、それだけが偉いわけではありませんが、マスメディアのビックアイディアを作れるクリエイターと並び立つくらいの、精度を担保できるマーケッターが活躍して主役にならないと、日本のマーケティングは進化しないと思います。ざっくりしたマーケティングの域をでないと。欧米は、もっと進んでいます。デジタルマーケッターの地位の高さ、経営トップからの注目度も違います。日本も、それを是正しないと遅れをとりますね。

有園:これまで、ビックアイディアを作るのをクリエイターやマーケッターが主導してきたところに、データに基づいてマーケティングをする機能が、もっと強くならないといけないということでしょうか?

杉浦:そうですね。

有園:それって、そっくりそのまま電通の中で起こっていることでしょうか?

杉浦:けっこうなスピードで起こっていると思います。

有園:電通に、コミュニケーションデザインセンター(CDC)というのがありますよね。外から見ていると、そこにいる人たちって、すごそうなんですよ。そこで有名なCMをつくったりしているんですよね?あと、統合データ・ソリューションセンター(IDSC)ができましたよね。そこにいる人たちも、すごそうです。CDCとIDSCって、電通のクリエイティブ側の頭脳とデータ側の頭脳の両輪なんじゃないかと勝手に思っています。IDSCの流れをくむ形でネクステッジ電通があるのかなと。

杉浦:そうですね。一緒に仕事をすることはドンドン増えてきた感じです。

日本の広告業界で求められるのは「コンサルティング力」

有園:ちなみに、僕が考える日本の広告業界の課題は、あるいは、広告代理店の課題ですが、コンサルティング力だと思っています。運用型広告が出てくると、効果が下がった理由(上がった理由)を説明しなくてはならなくなります。ロジカルに説明しなくてはならない。改善案を提案する必要があります。でも、マス広告は、そういうことを日常的には要求されてこなかったと思います。コンサルティングを、きちっとする必要がありませんでした。マス広告ってそういう商品だから。でも、運用型広告が出てきて、テレビも含めて仮にスマート広告になって、テレビCMがオーディエンスターゲティングできることになったら、コンサルティング力を高めないと対応できなくなってくるかと。

杉浦:はい、その流れはあるかと思います。

有園:これから5年から6年は、コンサルティング力の有無が問題になると思います。これは、ネット専業の広告代理店においても同様です。単なるバナー広告のメニューを売っているだけでは通用しなくなりつつある。DSP/SSP/RTBの時代になり、かつ、DMPも登場し、Facebookの広告などもそうですが、運用型広告になっていく。また、デバイスもPC、スマホ、タブレット、スマートテレビ、ウエアラブルデバイス、自動運転車などと広がっていく。そのことで、必要になるのが、コンサルティング能力だと思っています。たとえば、DMPを真面目に導入しようと思うと、最低限の技術的な理解とコンサルティング能力が必須になりますしね。

杉浦:欧米に比べると、広告主と代理店の関係は違うかもしれませんが、コンサルティング能力が今にも増して必要になるのは確かだと思います。マーケティング環境も複雑化しているので、いままでどおり、CMと良いクリエイティブを用意して、ウェブはこのセオリーでSEMとSEOをといった話では通用しなくなっています。複雑化するメディア環境のなかでも、いかに芯の部分を抜き出して最適に組み合わせることができるか、ちゃんとしたコース料理にして出さないと、お客さまも納得しない。単品売りでメニューを売って稼げる時代は終わりに近づきつつある印象です

有園:そうなんですよね。

杉浦:僕らにとっては、そこは逆にチャンスだと思っています。実際に運用するのはリスティング広告だったとしても、我々のPDCAのやり方は多くの専業代理店とは似て非なるものと自負しています。リスティング広告の細かい各論の話だけではなく、全体の大きな戦略とブリッジした形で的確に説明して、そっちに、お客さまと一緒に向かっていく、発展させていく方向で、施策を細かくやるっていうよりは全体の大きな戦略に向かっていけるかどうかが、すごく重要だと思っています。ネクステッジ電通のやり方は、その違いが外から分かりにくいかもしれませんが、コンサルティング能力を高めることはポイントだと思います。なぜなら、環境が複雑化しているからです。お客さまからも、明解な説明や方向付けが求められています。いままでだと、インプレション、CTR、CVR、CPAみたいな。「コンバージョンが下がりました、なぜならCVRが下がったからです」みたいな話が、よくあったじゃないですか(笑)

有園:いまでもありますよ(笑)

杉浦:「CPAが高騰したのは、CVRが下がったからです」とかって、結局、何も言っていないのに等しいです。コンサルティングのできる人を何人育てることができるのか。それが勝負ですね。

有園:ありがとうございました。

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<以上>

 

【Unyoo.jp編集部コメント】

常にナンバーワンを求められる電通という企業の挟持を垣間見ることができ、背筋がピンと伸びる素敵なインタビューでした!
スマートテレビに代表されるような環境の変化によってすべての広告が運用型に変わりつつある時代に合わせ、日本の運用型広告を牽引する存在としてのネクステッジ電通のみなさんの視点の高さを感じました!杉浦さん、貴重なお話ありがとうございました!

 

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対談者プロフィール

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株式会社ネクステッジ電通

代表取締役社長 COO

杉浦 友彦 ?Sugiura Tomohiko

 

慶応義塾大学経済学部卒業後、1998年電通入社。2009年コロンビア大学ビジネススクール通信情報研究所(CITI)客員研究員。デジタル・マーケティング経験15年。電通フューズ、電通イーマーケティングワンなど専門会社の立ち上げに参画し、Webコンサルティングおよび、オンライン広告のROIマネジメント業務を担当。主にEコマース
、金融・保険サービスの顧客獲得支援や、IT、自動車業界向けのeマーケティング戦略立案・PDCA運用業務に携わる。併せて、マス広告×Web統合分析のメソッド開発や、オンライン広告プランニング最適化、アトリビューション分析等、独自のデジタル・マーケティング最適化ツール開発を主導。電通のデジタル・ビジネス局、ダイレクトマーケティング・ビジネス局を経て、2013年パフォーマンスマーケティング専門会社「(株)ネクステッジ電通」を立ち上げ。

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