広告プラットフォームの2024年業界予想:①ChromeのサードパーティCookieサポート廃止による混乱が発生する

広告プラットフォームの2024年業界予想1

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『2024年プラットフォーム業界予想』ウェビナーご参加のお礼

みなさん、本年もよろしくお願いいたします。
2024年1月9日に『2024年プラットフォーム業界予想』というタイトルでウェビナーを実施しました。400名もの方にご登録いただきました。ご視聴いただきありがとうございました。ウェビナー後のフィードバックもポジティブなものが多く、大変励みになりました。

2024年は10の予想を立てました。一つ一つの予想を個別の記事にして、しっかりと解説していきたいと思います。長くなりますがご容赦いただければと思います。

まずは、①ChromeのサードパーティCookieサポート廃止による混乱が発生するを2024年の筆頭にあげました。多くの皆さんが気にし始めていることかと思います。

 

ChromeのサードパーティCookieサポート廃止が1%のユーザーで開始

2024年1月4日にGoogleはChromeユーザーの1%でサードパーティCookie廃止を開始しました(厳密にはChromeブラウザでのトラッキング・プロテクションの一般テストを開始。サードパーティCookieへのWebサイトアクセスを制限することで、クロスサイトトラッキングを制限するもの)。

直接的なインパクトは感じにくいものの、実に4年に渡り、数度のスケジュールの延期を経ていよいよ開始したこと、かつ、完全な廃止が早くも年末に到来することを感じ始めたからか、Cookie廃止後の世界についての議論がグローバルで一斉に開始された印象です。多くのメディア記事で「混乱(Confusion)」と言う言葉が使われているとおり、時間的な制約の中で、まずは何をすべきなのかを理解し、これまで享受していたメリットが消え去ってしまうことに一喜一憂したり、代替案を急いで探したりテストすることに奔走するなど、まさにカオスな1年の幕開けです。

プライバシー・サンドボックスのスケジュールについてですが、焦点となるのは、CMA(イギリスの競争・市場庁)と協議をし、競争上の懸念に対処することを条件に2024年第3四半期からサードパーティーCookieの廃止が段階的に開始されるという点です。CMAは、規制当局が反競争的な影響がないと納得するまでサードパーティCookieを削除しないという法的拘束力のある約束をグーグルから取り付けているため、仮にゴーサインが出なかった場合は、サードパーティCookieのサポート廃止を進めることができないということもあり、2025年に延期というシナリオも可能性としては十分にあり得ます。

やや乱暴な言い方をすれば、仕様が固まるかが定かではなく、Cookieが完全になくなるかも100%わからない中で、アドテクは技術的な実装は進めないといけなく、広告主やパブリッシャーはパフォーマンスにどう影響があるかもわずかなトラフィックで進め、おまけに代替案も並行してテストしていかないといけない。これを年内完了しろというのは、どう考えても進め方に無理があるスケジュールではないかと思いますが、身動きできない状況にあるGoogleとしては、これで進めるしかないのでしょう。

プライバシー・サンドボックスのスケジュール

今のプライバシー・サンドボックスは衝突テストが済んでないのに車を買うようなものだ

これはとあるところで見たフレーズですが、今のカオスな状況を実に言い得ているように思います。

 

プライバシー・サンドボックスにおいては誰が何をする必要があるのか?

結論から言うと、アドテクベンダー、メディア/パブリッシャー、広告主や広告代理店、皆それぞれやることがあります。
Googleのプライバシー・サンドボックスはイニシアチブの取り組みの総称で、具体的には、以下のような各種APIを提供しており、これをアドテクベンダーやメディア/パブリッシャーは技術的な実装を行う必要があります:

  • Topics API:ユーザーが訪問したサイトを追跡することなく、インタレストベースの広告を可能にする
  • Protected Audience API:クロスサイトのサードパーティトラッキングをさせずにリマーケティングやカスタムオーディエンスを提供するためのデバイス上での広告オークション
  • Attribution Reporting:広告のクリックや閲覧が、広告主サイトでの購入などのコンバージョンにつながった場合を測定する
  • Private Aggregation API:Protected AudienceのデータとShared Storageのクロスサイトデータを使用して、集計データレポートを作成する
  • Shared Storage API:プライバシーを保護した読み取りアクセスで、無制限のクロスサイトストレージ書き込みアクセスを許可する
  • Fenced frames API:クロスサイトデータを共有することなく、安全にコンテンツをページに埋め込むことができる

※参考リンク:

私がヒアリングしている限りでは、アドテクベンダーによるプライバシー・サンドボックスAPI対応への取り組みが早い企業とほぼ進んでいない企業の差が激しい印象です。しっかり取り組んでいる企業は専任チーム化して進めていますが、実装が遅れる企業も出てくる可能性もありますし、開発コストもかかることなので、場合によってはサービス自体の継続を断念するようなケースも出てくることも考えられます。

この状況を鑑み、カナダのSSPベンダーであるIndex ExchangeがProtected Audience APIデモツールおよびドキュメントをIAB Tech Lab経由で業界に広く活用すべく寄贈しました。対応が出遅れているアドテクベンダーには大いに参考になりますし、どのような挙動をするかがわかるので、広告主を含め広くその認知拡大に貢献する動きです(サンドボックスのサンドボックスのような感じですねw)。

※参考リンク:

一方、4年もあったにも関わらず、広告主やメディア/パブリッシャーの多くはインパクトや対策についての意識は低いままです。プライバシー・サンドボックスに関しては、これまでも紆余曲折あったため、仕様が固まらなかった、インパクトがわからない、本当にCookieがなくなるのか、など背景はいろいろあるかもしれません。ただ、従来のCookieでできていたことができなくなるのは確かなので、プライバシー・サンドボックスだけ意識するのではなく、その他の代替ソリューションへの理解を深め、自身のマーケティングに合ったものをテストすることは重要となります。

広告主によるプライバシー・サンドボックスのビフォア&アフターテストは、アドテクベンダー、メディア/パブリッシャー、広告代理店、広告主でタッグを組み、可能な限り実施すべきですが、1%で何がわかるという話もあります(トラフィックがかなり大きい会社でないと獲得効果までは測れないのでは)。プライバシー・サンドボックスに対して技術協力を以前から行なっているRTB Houseは、サードパーティCookieは、1%ではなく段階的に10%、20%、30%と増やしていくべきとも提言していますが、恐らく前述のCMAによる制約で実現はしないだろうと思われます。

 

代替ソリューションの分類は把握できているか?

代替ソリューションはすでにいろいろなものがサービスを提供していますが、大事なのは、それぞれの特長を分類して理解することかと思います。

サードパーティCookieの代替ソリューション

ID単位補足の継続を目指すのか、その中でも推定(Probabilistic)IDなのか確定(Deterministic)ID方式なのか、両方を複合したソリューションでいくのか。IDがないような企業であれば、コンテクスチュアル広告やペルソナターゲティング広告のような非ID単位補足への脱却を目指すのか。プライバシー・サンドボックスは群単位での補足という手段を講じている選択肢の一つでしかありません。

広告主、メディア/パブリッシャー共に、選ぶポイントとしては、自社のファーストパーティデータの保有・活用状況、業種・業態やマーケティングの目的などに応じてソリューションが自社にマッチするかどうかが判明してきます。今のうちにソリューションプロバイダーに積極的に声がけをし、ソリューションについて理解をし、可能であればテストを実施することを推奨します。

 

オープンインターネットにも機会はあるのでは?

サードパーティCookieがなくなることで、ファーストパーティデータを多く保有している大手プラットフォームがさらに有利になるのではと言われています。それは否定はできない部分はありますが、ではオープンインターネット(オープンウェブ)にはビジネス機会はないのでしょうか?個人的にはあると思っています。

Index Exchangeのデータによると、デジタルメディア利用時間は、ウォールド・ガーデンが45%、オープンインターネットは55%にも関わらず、世界のデジタル広告費投資は、ウォールド・ガーデンが70%、オープンインターネットは30%となっています。かなり不均衡が生じています。これは機会損失と捉えることもできるかと思います。

デジタルメディア利用時間と広告費投下割合       Walled Garden 対 Open Web

一方で、米国では、GDN, YDNなどアドネットワークを除いたDSP経由のオープンインターネットへの投資割合が、日本の10倍となっています。背景としては、米国エージェンシーは、多角的メディアバイイング戦略を採用していること。組織全体でメディア別広告費割合をコントロールしバランスを取ることが挙げられます。これもウォールド・ガーデンへの過度な依存があった結果ではないでしょうか?キャンペーン管理の効率性、検索、ディスプレイなど施策横断でのユーザーリスト活用など、理由はいろいろあるように推察できますが、サードパーティCookie廃止により、プライバシー・サンドボックスのみならず、代替ソリューションを効果的に活用することで、全体としてのパフォーマンス向上を図ることはできるのではないかと思うのです。

大手プラットフォームに偏る国内メディア費     米国 対 日本 – Open Web 10倍の格差

 

Cookieなき後の世界が垣間見れるテスト結果がすでに出ている

メディア側では、クリエーターマッチングを行うRaptiveという会社がいち早くサードパーティCookie 1%廃止後のマネタイズ面での影響を公開しています。

  • CookieレスのChromeユーザーは、Cookieを使用しているユーザーよりも収益性(CPM)が約30%悪い。しかし、Safariユーザーの60%悪いパフォーマンスよりははるかに良い
  • Cookieレスユーザーグループにおいて、PrebidのデマンドのほうがGoogleのデマンドよりも好調。これは、Googleがプライバシー・サンドボックスに全力を注いでいるのに対し、他のほとんどのSSPがプライバシー・サンドボックスと代替IDソリューションをサポートしているためだと考えている
  • 動画のマネタイズには現在別の課題があるため、これはすべてディスプレイのみのデータ
  • ChromeのiOSユーザーは、SafariのiOSユーザーよりも15%パフォーマンスが良い
  • 今後、数週間から数ヶ月のうちに劇的に変化するだろうが、共有しておきたい

※参考リンク:

Raptiveは、プライバシー・サンドボックスやIDソリューションなどへの継続的な投資により、この30%のギャップの多くは今年埋められると考えているとしています。いずれにしてもすべてを解決してくれる唯一のソリューションはないという意味でもあります。相互運用性のないソリューションを複数使いこなさないとならないことで生じる非効率や効果測定のズレなどは当然見越さないといけないですが、やらないという選択肢はないということは今のうちから理解したほうがよいと思われます。

ということで、一番最初のプラットフォーム業界予想はサードパーティCookieに関するものでした。その他の予想もぜひお読みください。

『広告プラットフォームの2024年業界予想』(全10)の他の記事へのリンク(タイトルをクリックしてください)
①ChromeのサードパーティCookieサポート廃止による混乱が発生する(本記事)
②日本のリテールメディアにブランドによるPoCや実験的予算がつく。オフサイト配信が増える。標準化が課題に
③AIはプラットフォームの機能やサービスにさらに侵食する
④TikTokが興味コマースを大きくリードし、展開を大幅に加速へ(公開予定)
⑤プラットフォーム間パートナーシップが増える(公開予定)
⑥MFA、詐欺広告、アドフラウド等と向き合う年に(公開予定)
⑦メディア・パブリッシャーのビジネス苦境。生き残りをかけた年に(公開予定)
⑧Netflixが独自広告プラットフォーム開発へ(公開予定)
⑨Appleが広告事業拡大(公開予定)
⑩レイオフは続く(公開予定)


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