アトリビューション特別対談:株式会社リクルート小川卓 × アタラCOO有園雄一

アトリビューション特別対談:株式会社リクルート小川卓 × アタラCOO有園雄一

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※本記事は、2012年3月に公開されたAttribution.jpからの転載記事です。

広告主が語る「アトリビューション分析」

 

有園:今回は、リクルートのSUUMO(スーモ)で実際にアトリビューション分析をなさっている小川卓さんをお迎えしてお話を伺います。最初に自己紹介をお願いします。

 

小川:私は、新卒でマイクロソフトに入社し、1年くらいたって電子マネーの会社に移り、そこで初めてアクセス解析の導入や運用に携わりました。その後、2006年にリクルートに入社し、最初の5年間はアクセス解析ツールの導入や教育、運用をやっていました。2011年の4月からSUUMO(スーモ)に入り、ウェブアナリストとして仕事をしています。その中のひとつとして、アトリビューションを担当しています。

 

有園:小川さんのFacebookを見てきたのですが、英語がお得意のようですね。大学はロンドンだと伺いましたが、どのような勉強をしていたのですか?

 

小川:アクセス解析とは関係のない化学をやっており、数学の学士をとりました。中学3年生のときからロンドンへ行き、そのまま大学に入りました。化学をやる上でコンピューターにも通じるところがあり、1998年頃からウェブサイトをつくっていましたので、馴染みがあってこの業界にきました。

 

有園:なるほど。それでは、統計学もやっていたのですか?

 

小川:基礎的な部分でしたが学びました。

 

有園:『入門 ウェブ分析論~アクセス解析を成果につなげるための新・基礎知識~』(ソフトバンククリエイティブ)という著書を小川さんは出していらっしゃいますが、統計的な部分が多かったので詳しいのかなと思いました。

 

小川:本著の発売当時、そういった情報があまりなかったので触れておこうと思いまして。

 

有園:すごく勉強になりました。結構、売れていますよね?

 

小川:改訂版がもうすぐでますよ。

 

有園:改訂版を買わせていただきますね。日本では大学院を出ていらっしゃるのですか?

 

小川:ロンドン大学を出て 日本で早稲田の大学院へ入りました。

 

有園:早稲田では何を勉強していたのですか?

 

小川:化学ですね。コンピューターを使う化学だったので、そのままIT系の企業にいこうかなと思いました。

 

有園:そのような経緯で2006年にリクルートへ入られて、アトリビューションに業務として携わったのはいつ頃からですか?

 

小川:SUUMO(スーモ)にくる前に、スタッフ部門でアクセス解析の導入・運用・教育・分析などを担当していました。各部門とやり取りをする中で、SUUMO(スーモ)からアトリビューション分析をやりたいという話があり、集客の可視化とコストを削減していきたいと。どういう風にやっていくか話しているうちに自ら異動して、正式なキックオフは2011年4月からでした。それまでは情報収集や、誰とやるのかなどを進めていました。

 

有園:2010年に私は小川さんと初めてお会いしたと思うのですが、そのときにアトリビューションに関して打ち合わせしたと記憶しています。あの時から基礎研究をなさっているんですね?

 

小川:そうですね。

 

データを揃えることからスタート

 

有園:2011年4月にプロジェクトとして何から手をつけられましたか?

 

小川:基本的なことですが、まずデータを揃えることからです。

 

有園:データはそろいましたか?

 

小川:集まりましたが綺麗にするのに2、3ヶ月かかりました。規模が膨大であり、データの精度の部分が厄介でしたね。実装ミスなども見えてきたので、そのあたりの整理や仕様の再確認も必要でした。

 

有園:そのデータの整理をする過程で、一番大変だったことはなんですか?広告主として独自に取り組んでいる上で課題になる部分はどこですか?

 

小川:私が直接は担当してはいませんが、広告系のデータを集める部分が一番大変だったようです。かけるお金は時期によって違いますし、決まった時期に決まった金額というほど単純ではありません。例えば、バナー広告だと5か所に掲載してまとめて100万円という出し方があります。その場合、各媒体の算出をしていないので分かりません。SEOもキーワードあたりいくらというのが分かりません。アトリビューションの施策が行いやすいという観点から、リスティング広告とバナー広告から手をつけています。これらは手を入れやすい、修正しやすいかなって思っています。

 

バナー広告は最初の流入に貢献している

 

有園:整理しますと、2011年4月からやっていることは、2、3ヶ月のデータ整理をして、基本的には、リスティング広告とバナー広告でアトリビューション分析をしているということですね。

 

小川:もともと、バナー広告には仮説があって、初回の流入と2回目の流入に効いていることは、アクセス解析データを分析すると分かっています。それと同時に、セッション単位のコンバージョンで見ると効率が悪いということも分かっています。

 

有園:これは結構、重要なことですよね。

 

小川:はい。バナー広告は初回や2回目など、最初のほうの流入には貢献していることが分かっています。

 

有園:アトリビューション分析をしなくても、セッション単位で見たときに初回や中間でクリックされている、サイトに入ってきていることが分かるということですね。

 

小川:アクセス解析のデータから、訪問回数と流入を掛け合わせしてあげれば分かります。

 

有園:その一方で、最後のコンバージョンに至る部分では、バナー広告はコンバージョン率が低い、効果が低いと。

 

小川:SEOやノーリファラーと比べてしまうと悪いよねと。私たちが考えているバナー広告の目的としては、集客として大勢の人たちを連れてくるというのがあります。SEOやリスティング広告は検索エンジンにきて検索しないと、そもそも流入の対象になりません。しかし、バナー広告は検索をしなくてもカスタマーとなる方が見ているサイトに表示されリーチもするし、もしかしたらクリックをしてもらえるかもしれない。単純にコンバージョンを増やそうという目的ではなく、そもそも認知や流入を増やしたいという目的があったので、コンバージョン率が悪いことは必ずしも悪ではありません

 

有園:そこは、ユニークユーザー数とかで見ていますか。

 

小川:そうですね。ページビュー数も見ています。バナー広告が効果なくても、全部止めるということはありません。最初は効いているけれど、最後は効いてないぞ。でも、セッションで見るとつながっていないけれど、もしかしたら初回はバナー広告を見た人が3、4回目でコンバージョンしてくれているのではないか。そういったバナーもあるのではと考えています。

 

 

広告代理店との付き合い方

 

有園:ところで、リスティング広告とバナー広告を分析しようとデータをそろえるところでは、代理店さんのご協力をいただいているのですか?

 

小川:はい。リスティング広告もバナー広告も代理店を通して実施しております。

 

有園:アトリビューション分析に取り組むにあたっての課題として、代理店さんとの関係があると思います。複数の代理店さんとお付き合いがある場合、どうしていますか?

 

小川:当社も、リスティング広告だけでも複数の代理店さんにお願いしていますし、バナー広告もいろいろなところに出しています。それぞれに代理店さんがいらっしゃいます。

 

有園:データの提出をお願いすると、すぐに対応していただけますか?

 

小川:分析にどうしても必要なデータなのでご協力をお願いしています。複数の代理店さんとお付き合いしているので、それぞれデータの管理の仕方も違います。そのため、データのフォーマットの統一は我々がやらなければなりません。そのあたりは時間がかかりますね。

 

有園:代理店さんに「アトリビューション分析をしたいのでデータをください」というと、「それなら、アトリビューションの分析をこちらでやらせてください」という営業をうけませんか?

 

小川:アトリビューション分析の話をもらいますが、我々の規模感だと出せません。また、複数の代理店さんとお仕事をさせていただいているので、特定の代理店さんに一括でお願いするのは難しいですね。また、アトリビューション分析だけをしているのではなく、需要予測であったり、レコメンドのロジックへの活用だったり、そこまで加味した設計ができるかどうかですね。アトリビューション以外の分析にもそのデータを使いますし。一部だけを取り出してお願いするのも難しく、かといって全部をお願いするのも難しいのが現実です。

 

 

アトリビューション分析の効果

 

有園:リスティング広告とバナー広告を分析して約十ヶ月たちますが、ある程度効果はあがりましたか?

 

小川:我々としても、分析は完了しているのですが明確な効果はまだ出ていません。どのバナー広告が良いかなどは見えてきています。ただ、実行の部分では苦労しています。駄目だと判断されたバナー広告を減らしたところで、本当にコンバージョンは減らないのだろうか。予算配分を変えたときに、本当にアトリビューション分析のおかげで効果が上がることを証明しなければなりません。バナー広告を止めた効果が半年後くらいにならないと出ないとして、その間にサイトを修正したり季節要因があったりするので、良い結果に至ってもアトリビューション分析の結果であることを証明するのが難しく。そこに悩んでいます。

 

有園:アトリビューションの分析をして、効果の良いバナー広告や悪いバナー広告、効果の良いキーワード、悪いキーワードは見えているということですね。

 

小川:そうですね。

 

有園:それは、セッション単位でラストだけを見ていたときは、評価が低かったバナー広告が、アトリビューション分析の結果、評価が高くなったバナー広告もあるということでしょうか?

 

小川:実際、アトリビューション分析の前後で、8、9割のバナー広告は評価が変わりません。なぜなら、バナー広告やリスティング広告は5年くらい前から続けていることなので、その間にかなり最適化されてきて、セッション単位で悪いバナー広告は既にきっている場合が多いのです。セッションで良いものは残っています。ここは変わりません。ただバナーなどはその目的からセッションで悪いのが当然なので、その中から一部、ユーザー単位で見ると悪くないね、というものが出てきています。

 

有園:そうした分析結果が完全には施策に反映できていないということですね。メディアの予算を変更して、効果の悪いものは減らし、良いものに寄せることはすぐにできると思いますが、もしやったとしたら何パーセントくらいコンバージョンがアップしそうか試算されていますか?

 

小川:需要予測という仕組みを作りこんでいまして、過去データから未来を予測する仕組みはつくっています。ただ、具体的なバナー広告ひとつひとつ単位での予測はできていません。全体は見られるようになっています。

 

有園:アトリビューション分析を需要予測に活かしていくのですか?

 

小川:双方向ですね。アトリビューション分析で出た結果を需要予測に取り込みたいし、需要予測をもとに実施した結果をアトリビューション分析に取り込みたい。そうして精度を上げていきたいですね。お互いを利用しながら精度を上げていきます。ここはパートナーさんに協力いただいている部分になります。

 

アトリビューション分析の使用モデル

 

有園:需要予測と現実の値に乖離があると思います。精度をあげるために、いまはどのようなモデルで分析しているのですか?

 

小川:アトリビューションの効果配分という観点では、マルコフと時間減衰という二つのモデルを提案いただき、そちらを利用しています。

 

有園:マルコフってロシアの統計学者の名前ですよね?統計学として使われるモデルである状態遷移。物事が移っていく際に、移っていく確率を出していくという事ですよね。 Aというバナー広告でサイトに訪れた人が、その後サイトに訪れる確率が何パーセントかということをベースに計算するわけですよね。

 

小川:そうですね。サイトに再度連れてくる集客元が偉いんですよってことです。

 

有園:モデルで一番基本的なものは均等配分モデルといわれています。小川さんのブログでも、均等配分や初回重視などが紹介されていますが、いきなりマルコフにいったのですか?

 

小川:色々な話も出たのですが、正解はないですね。たぶん、サイトごとに違うと思います。このモデルのほうが実態をよりよく表しているかも、というものもあると思います。ロジックは感情を反映するので、その人の思いや、やりやすさで一番良いものは変わってきます。我々としても、これが一番というものを持っていません。SUUMO(スーモ)というサイトは検討期間は長いし、再訪も多いです。だから、価値を「複数回訪れてもらうこと」におきました。それに近いモデルを探したときに、マルコフの状態遷移にいきつきました。

 

有園:ということは、購買サイクルが比較的長いという事実があって、それに比較的あっているモデルがマルコフの状態遷移だったということですね。

 

小川:期間が短いサイトにはアトリビューション分析は向いていないと思っていまして、1回目2回目でコンバージョンしてしまうサイトは評価があまり変わらないので、期間が長いサイトのほうが向いていると思います。

 

有園:それと時間減衰。

 

小川:それは何かというと、バナー広告A経由でサイトを訪れてからバナー広告Bで訪れるまでの日数も大事だよねということです。再訪までの期間が短い方が影響度は高いです。期間を開けずに再訪してくれたときは、バナー広告が印象に残っていたと考えられます。3か月後にサイトを訪れた場合、ユーザーはバナー広告Aを見たことなど覚えていないでしょう。期間が短いほど貢献度の割合を高くして取り込むという考え方を利用しています。

 

有園:先ほどおっしゃったマルコフの状態遷移というモデルと時間でさらに減っていくというモデルを掛け合わせてアトリビューション分析の重みや貢献度を出していると。そこには、もはや均等配分という考え方はまったく入っていないということですね?

 

小川:はい。結果的には均等配分になるかもしれませんが、考えてはいません。

 

 

モデルの精度を上げるためのチェック

 

有園:モデルの精度を上げるためにチェックをしているんですか?

 

小川:はい。今後の課題ではありますが、取り組んでいきたい部分になります。我々のサイトは季節変動の要因が大きいので、そこが重要です。たとえば、賃貸ならば4月に引っ越すので3月までに決めたいと。ここはモデルに組み込みづらい部分ですが、賃貸には3月末に契約しなければならないというゴールがあります。1月から検討しようが、2月に検討しようが、3月に契約しなければならないことは決まっています。だから、検討期間が平均で2カ月みたいなことは出しづらいんです。ある特定の月だけコンバージョンが増えるわけです。新築マンションなどは決まった月に必ず買うものでもないし、リフォームの場合も、すでに家に住んでいるわけですから、タイミングはまちまちです。いろいろな形態があるので、それぞれごとにモデルも違うという面からも、まだ課題は沢山あります。

 

有園:季節変動を取り込もうとしているけれど、そこまではできないと?

 

小川:季節変動要因は需要予測に入っています。マス広告の出稿状況も入っているし、昨年3月の震災の変数も入るような仕組みを作成していただきました。ただ、それらを加味して月ごとにモデルを変えていくところには至っていない状態です。月ごとにモデルを変えるのが正解なのかもしれませんが。

 

有園:そうなんですよね。その商材の購買サイクルによるとは思いますが、月ごとにモデルを微調整できるのが理想的だな、と私も感じています。実際にやるのは難しいことですが。さて、ここで視点を変えてお伺いしたいのですが、私自身、お客様や代理店さんに呼ばれてアトリビューション分析のお話をさせていただく際、モデルの話でつまずく方が必ずいらっしゃいます。「正しいモデルがないよね」という話になるのですが、そのような時の「正しいモデル」とはどのような意味があるのですか?

 

小川:我々の言う「正しい」とは、例えば、あるモデルができて、そこに何かを足したり引いたりして、シミュレーションをして出た数字が、実際に3か月やったら本当に同じ数字が出るのか、ということですね。想定と現実の数字が近ければ、精度の高いモデルだといえます。

 

有園:シミュレーションと現実の値が一致するということですね。

 

小川:ずれていれば計算の仕方、配分が間違っていることになります。

 

有園:現実におこっていることをすべて把握できて、それをモデルに組み込めるなら、シミュレーションで出てきた値が現実の値と一致すると。

 

小川:一致するとなにができるかというと、予測ができるようになるんですね。来年、達成したい売上額、資料請求数というゴールに対して、どれだけ予算を投下して集客をすればいいか予測ができます。

 

 

アトリビューション分析の最終ゴール

 

有園:アトリビューションをやっている最終ゴールは需要予測ということですか?

 

小川:アトリビューション分析はミニマムコストで最大限のゴールを達成したいという思いから行なっているので、最終ゴールは「目標達成のための集客コストの最適な予算配分」と「その配分が正しい」ということですね。

 

有園:最小限のコストで目標を達成したい場合、正しいモデルというのは現実をすべて把握していなければ作れず、それはできません。できないからモデルを使う訳ですが、正しいモデルがないという表現が引っ掛かる人もいると思います。

 

小川:正しいモデルが無いというよりは、どの会社にもあてはまる一つのモデルはないという意味ですね。サイトごとに違うのが前提で、100パーセント正しいモデルはないので、何回か回していくなかで、80パーセントを90パーセントへと、理想に近づけていくというのが現実です。

 

有園:理解してくれる人もいる一方で、毎月モデルが変わる可能性があるため、毎月モデルが変わると評価する軸が変わるので疑問に思う人もいます。あるバナー広告の今月の評価と2、3か月前の評価軸がぶれるのは問題ではないですか、と質問を受けます。

 

小川:アトリビューション分析は途中プロセスだと思っていまして、最終的に見るのは流入とコンバージョンです。実際はセッションベースのものを見ると思います。月次のモニタリングする際はセッションベースでモニタリングすることを統一しておきます。アトリビューシ分析をするのは、コスト削減や集客予算の最適化のためにやるのであって、報告のためではありません。報告は通常のモニタリングとは別の軸で行う事が大切だと考えています。アトリビューション分析をやる前に、セッション単位で評価をしていたのであれば、それは変わってしまいますが、どういう風に変わっているかが重要です。いままでより良くなっている、精度が高くなっています。変わるけれど、いままでより良くなっていることを受け入れなければなりませんね。精度が上がっていることは、より最適化しているとか、より正しく自分の現状を理解できるということなので良いことです。評価軸は別にもっておくという事で統一すればいいのかなと思います。

 

有園:ある意味、報告するために軸を変えないことにこだわるというのは、本末転倒ですよね。最終的にコンバージョンをより安くより効率よく増やすためには、評価軸を変えなければいけないということですね。

 

小川:アトリビューション分析をやる時点で評価軸をかえる必要があります。セッションからユーザにすること自体がドラスティックな訳で、そこをやるんだったらあとはできるよと。

 

有園:アトリビューション分析に取り組むことで、評価軸が変わるわけですが、御社は抵抗はありませんでしたか?

 

小川:いまより良くなる、コスト削減できるはずという期待があり、セッションではなくユーザーで見たほうがいいよねという事実は誰もが受け入れてくれると思います。後は結果を出すだけです。

 

有園:アトリビューション分析に関して、御社内での抵抗はなかった訳ですね。

 

小川:そうですね。目的があり、いまより良くなるわけですし。

 

アトリビューション分析の課題

 

有園:改めてアトリビューション分析をやるにあたっての課題をお伺いしてもいいですか?

 

小川:データをちゃんと集めるということですね。成果となるURLを洗い出すのも大変です。いつ、それが変わったのか記録しなければなりません。データを集め、正しい状態にするのが大変です。また分析を開始するためのハードと人の準備ですね。分析のためのモデルなどを実装して、ログを集計して解析してくれる人の確保。彼らの活躍なしでは実現ができません。

 

有園:分析、集計はアウトソーシングですか?

 

小川:はい、パートナーさんと一緒に協力して進めております。考え方を共有しながら、人を獲得し予算を確保します。膨大なデータも何をつかって集計して、どこに保管するのか。この辺を解決するハードウェアも必要です。

 

有園:アタラでやるときもサーバーを立てます。

 

小川:ですよね。ローカルでアクセスできるレベルではないのでそういったものは必要ですよね。先ほどの話でもありましたが、コスト削減の部分で、ログデータをもとにレコメンドなどもしていますのでそのあたりのデータや、単純にアトリビューション分析をするためのデータ集計ではなく、前後の仕組みの構築なども必要ですね。

 

有園:かなり時間がかかりそうですね。

 

小川:だから10カ月かかりました。

 

有園:この10ヶ月は、こうした課題解決に費やしてきたということですか?

 

小川:そうですね。アトリビューション分析の周辺というか、他のものと関わってきますので、アトリビューション分析を一番優先順位高くやっているわけでもなく、他との調整をしながらですね。

 

有園:なるほど。10か月やってきて、ある程度結果が出てきた訳ですが、今後はそれらを活かしてどういった方向に進んでいこうとお考えですか?

 

小川:需要予測の仕組みとアトリビューションの仕組みは作りきりたいですし、実際に施策を打ちたいです。たどりつかなければならないのは、自分や上司を含めこの結果に納得できるということが大事だと思います。色々と改善をしていき、本当に使っても大丈夫だという自信を持ちたいですね。いままでの勘などを含め、各担当者の経験だけではなくアトリビューション分析の数字も使えそうだねと担当者に納得いただければと考えています。

 

有園:お伺いしていると、いわゆるアトリビューション分析と呼ばれている、バナー広告とリスティング広告の出稿を最適化していくことは出来ていると思いますが、それ以上のところを目指しているわけですね。季節要因や震災の影響、個別の担当者の知見や仮説を取り込んでいくということですよね?

 

小川:そうですね。彼らに使ってほしいので。ウェブサイトのオーナーや集客予算を握っている人に信じてもらえなければなりません。

 

有園:オフラインのテレビなどはアトリビューションのモデルに今後連携していく予定ですか?

 

小川:テレビCMを流せば検索が生まれるので、結果的にモデルに反映されています。除外はしていません。需要予測に関しては自分で設定できるようになっています。つまりこの月は何GRPだしますと設定すると、過去のデータをもとに予測します。

 

有園:ということはテレビのGRPだけではなく、御社の場合交通広告なども出している訳ですが、それらも取り込んでいくのですか?

 

小川:そこは手動の部分ですね。担当者が過去の経験、数字をもとに自分で変数を設定する感じです。ないものは予測できないので。

 

有園:あとどれくらいで、小川さんが望んでいるものができそうですか?

 

小川:あと1年くらいかな。どこまでやりきるか、やるべきかも考えているところですね。

 

有園:壮大なプロジェクトですよね。

 

小川:人数多いですし、コストもかかっています。

 

有園:コストってどれくらいかかっているんですか?

 

小川:億単位ですね。集客予算を5パーセントから10パーセント改善できれば元はとれます。無駄な広告を減らすのはすぐ出来ると思いますが、そこまででいいのか?アトリビューション分析にはステージがあるので、最初にどこを目指すか決めておかないと、はまってしまいますね。需要予測を組み込むところまでやるんだっけ?やらないんだっけ?など。大事なのはアトリビューション分析で一回数字を見てみた時に違いがないことが分かれば自信をもって今まで通りでいいと思います。ただ、みんなにアトリビューション分析の結果を見てほしいですね。正直モデルはなんでもいいわけで、究極はファースト、ラストだけでいいです。アトリビューション分析は自分の会社に関係あるのかないのか。そこだけでも見るべきだと思います。

 

アトリビューション分析はやるべき?やらないべき?

 

有園:最後にお伺いしますが、小川さんはアトリビューション分析をお勧めしますか?

 

小川:まずは、Google アナリティクスの「マルチチャネル」レポートを見てほしいですね。成果のうちアシストが含まれる割合を見てほしいです。それが2割3割なら必要ないですね。アトリビューション分析をやるときにかかる時間とリソース、担当者の確保、担当者が費やす時間を考えると、アトリビューション分析をやるよりはSEOやリスティング広告を一生懸命やるほうがいいと思います。SEOやリスティング広告をやりきって、さらに何かというならアトリビューション分析はいいいと思います。

 

有園:アタラに問い合わせがある方は リスティング広告をやりきっていると言う方が多いのですが、そういった方はアトリビューション分析をやったほうがいいと?

 

小川:そうですね。チャレンジする価値はあるかと思います。アシストがあった割合や検討期間を見てみて、そこにサインがあれば取り組むべきですね。アタラさんに分析を任せられるなら、やる側は楽というか、嬉しいと思いますよ。我々みたいに、仕組みを作って、モデルを考えて、自社でやるのは相当大変です。

 

有園:なるほど、自分でやるのは、けっこう大変だということですね。

 

小川:膨大なデータを扱っていましたし、最初は混沌として方向性を含め定まっていなかったので、内部でやるしかなかったのが事実です。

 

有園:御社は内部でやるのが正解だと思います。小川さんと議論したりするのは楽しいですが、御社のデータボリュームは外に出すには大きすぎますよ。分析の時間も相当かかりそうですしね。

 

小川:おかしいな(笑)本当は丸投げしたいのですが。

 

有園:モデルがいろいろありますし、まず手をつけるのは均等配分モデルということでやったとしても、そこから先に進むのは難しいですよ。

 

小川:分析はできるんですよね。

 

有園:分析すると、シミュレーションの結果と現実はぜったいに違うので。それをモデルに当てはめるのは非常に難しいです。とくに御社ぐらいのボリュームでは大変ですよ。

 

小川:ワンショットではないですからね。メディアプランもありますし。

 

有園:そう簡単にはメディアプランは変えられないですね。お客様の中には、リスティング広告とバナー広告の扱っている部門が分かれていて予算が別であることも多いので、予算のスライドはすぐにはできませんね。

 

小川:まずは、分析結果を信じてもらわないと動かせませんね。

 

有園:ただ、リスティング広告だけでも余地はありますけどね。無駄なビッグワードを出稿していた際、間接効果があると思ってやっていたけれどアトリビューション分析の結果、コンバージョンにはつながっていないことが判明します。

 

小川:いらないところは削りましょうということですね。

 

有園:そういった意味では、コスト効率を見てリスティング広告をきちんとやっている場合、リスティング広告だけでは厳しいですね。リスティング広告が最適化されていて、とりきっているのでこれ以上伸びないことがあります。そういうときは、バナー広告との組み合わせを考えるわけです。DSPの登場のおかげで、バナー広告が安く買えて、初回で効きコンバージョンに貢献しているという傾向が見えています。

 

小川:バナー広告の課題としては、アトリビューション分析結果が施策へダイレクトに連動していないという事ですね。すぐに動けない。分析できました、企画を考えましょう、やりましょう、といっても時間がかかる。この辺の問題を解決するシステムが日本でも展開されると、もう少しやりやすくなると思います。アトリビューション分析ツールもないので、どうしても個人戦に近くなります。

 

有園:日本にはアトリビューションツールと広告の入札ツールがまだ連動してないですからね。おそらくアメリカからはいってくるでしょうね。人が介在するとモデル通りにいきませんからね。

 

小川:最適にしたいけれど、できないケースがあります。単純なコンバージョン獲得は違う文脈で出すバナー広告もありますし、競合対策もあります。アトリビューション分析結果で、検索順位で最適なのは3位と出たから3位にするのではなく、お客様の手前 あるいは 営業的な側面から、1位でなければならないこともあります。宣伝費として考えますが、こうした事情もあって完全には最適化できないと思います。

 

有園:うちでは、アトリビューション分析結果にしたがって、メディアプランを作り直したものをお客様には社内で検討していただきます。代理店さんとの調整も必要ですが、現実的には難しいことも多いのです。バナー広告Aの評価が低いから落とすと、全体の単価が上がってしまうこともあります。バナー広告Aも含めて購入することで価格を安くしてもらっていたので、落としてしまうと単価が上がってしまう。分析をしたけれど、全体の予算見なければならないということですね。バルクでインプレションを購入していたりすると、配信量を減らすことで単価があがったりと。いろいろと大人の事情もあって、理屈通りには仕事は動かないのですよね。
さて、最後に、小川さんからのメッセージをお願いします。

 

小川:アトリビューション分析という考え方自体は正しいと思います。誰でもわかるはずです。セッションではなくユーザーを見て分析しようというのはベースにあって、ここはみなアグリーなわけです。ただ、こういったものは5年前10年前から議論があってはしぼんでということを繰り返しています。今回のアトリビューション分析の盛り上がりはいいタイミングだと思います。集計するためのデータは取れるようになっていますし、広告も複雑化していますし。アトリビューションをやるための条件はそろっていると思います。ここで大小関係なくやりきったという事例が増えるとアトリビューション分析という活動が一般化され、残っていくんだろうなと思います。だから、やろうとしている人が情報共有して、みんなで情報をだしあって頑張っていくのが第一だと思います。当たり前のものとして定着していくことを目指したいですね。セッションというものがなくなってユーザー単位で分析する事が当たり前の世の中にしたいです。

 

有園:小川さんもまとまった成果を外に出せるタイミングになったら、事例としてご紹介くださいね。

 

小川:お任せください。

 

有園:ありがとうございました。

 

聞き役: 有園 雄一(Yuichi Arizono)

ウェブマーケティング分野においても常に先端を走ってきたリクルートさん。実践や試行錯誤から得られたのであろう経験談やインサイトがいっぱいの話でした。モデルや分析の話だけでなく、環境準備、体制などのお話もとても参考になりましたね。
小川さん、貴重なお話をありがとうございました。

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