位置情報系サービスの“いま”と“これから”:クロスロケーションズに聞く

位置情報系サービスの“いま”と“これから”:クロスロケーションズに聞く

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位置情報系サービスの“いま”と“これから”を伺う

これまでの運用型広告の世界では、オンラインの広告配信がオフラインの行動にどのような影響を及ぼしているか計測することが課題となっていましたが、昨今ではモバイルデバイスの普及によりGPSやWi-Fiを利用したオフラインの「行動」をより手軽に計測ができるようになりました。

また、Google 広告やGoogle アナリティクスでも、オンラインでの広告配信が実際の店舗誘導に繋がっているかを計測する「来店コンバージョン」が登場し、実店舗を持つ企業にとって位置情報を利用したサービスの重要性は高まってきています。今回は、位置情報サービスを取り扱うクロスロケーションズ株式会社様に、位置情報系サービスの変遷や、業界の展望についてお伺いします。

 

今回の話し手:クロスロケーションズ株式会社 猪谷久さん

話し手:
クロスロケーションズ株式会社
取締役COO 猪谷久さん

聞き手:
アタラ合同会社
コンサルタント 大友直人

 

大友:まずは猪谷さんの自己紹介と、御社の企業概要を教えていただけますでしょうか。

 

猪谷:クロスロケーションズ株式会社のCOOを務める、猪谷と申します。クロスロケーションズは2017年11月に日本法人が立ち上がり、2018年4月から独自プラットフォームの開発を開始しました。弊社は、「多種多様な位置情報や空間情報を意味のあるかたちで結合・解析・可視化し、誰でも活用できるようにすること」をミッションに掲げており、位置情報データを使って現状把握から戦略立案、販売促進・効果検証などまでワンストップで可能なクラウド型プラットフォーム『 Location AI Platform™ 』(以下LAP)を展開しています。

 

Location AI Platform™の特徴

同プラットフォームの利用者は、店舗を自由に登録し、性別年代・曜日を指定するだけで店舗周辺の来訪率(推計)や新たなエリアから潜在顧客を発見することができるなど、位置情報ビッグデータをAIが解析し、可視化した情報をマーケティング活動や販促支援に素早く活用することができます。

 

 

位置情報系ツールには、携帯電話の基地局のWi-Fi情報やGPS情報をもとにするものなど様々な種類がありますが、我々は基本的にGPS情報をもとにしています。どのようにGPSデータを取得しているかと言うと、一つは企業と提携してデータを取得する方法、もう一つは広告のRTBインプレッション時の情報を使っています。広告配信のオーディエンス設定に使えるIDは、現在4,500万IDを超えています。

 

またAIを使うことで、店舗利用者の多い優良エリアを解析したり、競合店との曜日や時系列ごとの来訪推測比較、特定店舗の来訪者が利用する他店舗をランキング形式で推定したりすることで優良顧客の回周状況の把握も可能になります。そして、それら消費者のインサイトを分析し、それを製品開発やサービス開発、店舗開発に応用するという部分でも期待されていると思います。

 

 

一方で、位置情報というのは非常にわかりにくい部分もあります。ハブとなるID、移動経路、タイムスタンプなどを解析しようとすると、これまでは専門家に委託をしてレポートを作る必要があり、費用もかなりかかっていました。だから社内では間に合わずアウトソースする場合が多いのですが、そうなると非常に時間もかかる。

 

そのためPDCAサイクルを作るのが非常に難しいと思います。また、プライバシーの問題もあります。位置情報データは今のところ個人情報ではないという風潮がありますが、当然、データを使う側からすると配慮が必要ですし、活用のハードルは上がると思います。

 

位置情報を利用したオーディエンスのプロファイリング

 

大友:基本的にGPSをもとにした位置情報データって、オンラインだけの情報だと思ってしまいがちで、Webではインターネット上の履歴を追うことである程度オーディエンスのプロファイリングが可能ですが、オフラインの行動や生活習慣は無意識的に行っている部分が大きいのではないかと思っています。

 

そこからプロファイリングするのは、かなり難しそうに思うのですが、オンラインとは異なる、位置情報サービスだからこそできるセグメントやオーディエンスはありますか?

 

 

猪谷:利用用途を広告施策だけに絞って設計していないので、オンライン・オフラインを問わず様々な使い方ができると思いますし、例えば特定エリア・特定ユーザーのプロファイリングにも使うことができます。

 

一つは、すごくシンプルな話ですが、通常のオンライン広告では実行動データがないため、実店舗への来訪確率の高低に合わせた広告配信は実施できないですよね。また、実勢商圏(実際にお客さまが来店している範囲)に合わせた配信も、一般的なオンラインでは不可能です。例えば、オンラインで川崎というエリア指定はできても実勢商圏の居住者に対してのみ配信することはできませんが、位置情報を利用することで実勢商圏の可視化を実現し、広告配信エリア設定にもダイレクトに利用できるようになります。位置情報を利用することで実勢商圏の可視化を実現、広告配信エリア設定にもダイレクトに利用できるようになります。

 

もうひとつは、インサイトの発見にも、オフラインならではの方法があると思っています。例えばあるテーマパークAに行っている人が他にどこに行っているかを分析すると、まったく別のキャラクターをテーマにしたテーマパークBに行っていることがわかります。つまりテーマパークに行く人は、キャラクターにこだわっているわけではなく、テーマパークに行くこと自体が好きなライフスタイルである可能性も大いにあるのです。そうすると、行動履歴から「テーマパーク好き」なオーディエンスをプロファイリングできますよね。

 

場所と場所の関連性の発見は、位置情報データならではだと思います。例えばレンタルストレージとゴルフスクールの関係性。以下は、とある場所のLAPでの分析結果です。ある特定エリアのレンタルストレージユーザーのうちどの程度がゴルフスクールに行っているかを位置情報データにもとづいて分析すると、約3割だということがわかりました。このデータをもとに、レンタルストレージサービスを利用するのはゴルフクラブを預けるからかもしれないと仮説が立てられます。

 

 

これまでは、ゴルフスクールに行っている人はゴルフクラブを預けるだろうという、あくまでも仮説をもとにキャンペーンを実施していたわけですが、位置情報データをもとに関連性を分析すると、事前に関連性をデータで確認した上でセグメントを組むことができます。

 

大友:そのようにして作ったセグメントを、広告訴求にはどのように活用するのでしょうか?

 

猪谷:クリエイティブであれば、データから得たインサイトにあわせて、ライフスタイルに沿ったコピーを作ることができると思います。また、エリアに対して広告配信を行う場合、多くの場合集客目的になりますし、デバイスはモバイルが中心になるので、どれだけ短時間でメッセージを伝えられるかが重要です。

 

大友:エリアに対して広告を配信する場合、店舗までの距離を示すような訴求も可能ですか?

 

猪谷:もちろんダイナミック広告で実施可能です。GPSの情報をベースにして、最寄りの店舗を表示させることもできます。

 

位置情報ビッグデータから実勢商圏を知る

 

大友:位置情報データを駆使してPDCAサイクルを作るには多大なコストと時間が必要であり、今ではそれを解決できるということですが、具体的に取り組まれたケースはありますか。

 

猪谷:はい。例えば下記A店を自社店舗だと考えてください。A店の他にもう1つ自社の他店舗がありますが、競合となる店舗も近隣にいくつかあります。我々は、近辺のGPSの信号を分析し、GPSによる行動から各データの推定居住地を推定します。

 

例えばA店近隣で行動する100人をこのエリアに居住していると推定します。そのうち10人がA店に来訪していたら、訪問率は10%となります。画像の色がついている部分がA店(10%)なのですが、色が濃くなればなるほど訪問率が高いと言えます。

 

 

これがA店の商圏の実勢ということになります。画像で見ると簡単なことに思えますが、これが今までなかなかわからなかったのです。これまでは、GIS(地理情報システム)と国勢調査データや自動車移動データなどをかけ合わせる方法で推測していましたが、あくまで推測でしかありませんでした。実行動データをベースにした実勢商圏がわかる点が画期的であり、国勢調査データを紐付けてあるので、商圏に住むユーザーのデモグラフィックも同時にわかります。

 

また以下のマップ(ポテンシャルマップ)では、平均的な訪問率よりも高いエリアを赤く、低いエリアを青く表示することができます。訪問率が低いのには当然理由があり、線路を跨いでいるなどのインフラによる影響や、競合店舗ができる前後でも当然変わってきます。こういった、競合店舗などからの影響度や、自社が有利なエリアが分析できればそれに応じた施策を打つことができます。たとえば、そのエリアの推定居住者にモバイル広告を配信することなどです。他に、この実勢商圏のデータをダイレクトメールやポスティングなどのオフライン施策に活用することもできます。

 

位置情報を利用して商圏の実態や競合優位性を把握し、広告施策やオフライン施策を行い、来店計測も実施する一気通貫したサイクルを絶えず回すことができます。

 

 

位置情報データの未来

 

大友:猪谷さんは5年以上前から位置情報系サービスに携わられているわけですが、当時から変化している部分はあるのでしょうか?

 

猪谷:5年前の位置情報系サービスは、まだ物珍しさが先立っていたように思います。あくまで飛び道具として使うイメージで、大々的に導入することに二の足を踏む企業様も多かったように思います。5年経った今ようやく、広告配信の領域に限って言えば、徐々に認識されるようになってきたかなと感じています。

 

大友:それはここ数年というご認識ですか?

 

猪谷:そうですね。10年くらい前にも位置情報データを使った広告配信手法も結構あったと思いますが、皆様にも徐々に認識されて、業界内でそれなりに知見も溜まってきたと感じています。とは言え、まだまだ市場として大きくはないと感じています。

 

大友:徐々に認知されてきた位置情報系サービスですが、今後はどのように発展していくと思われますか?

 

猪谷:現在、日本においては位置情報系サービスを導入・実践されている企業様も、ツールベンダーも増えてきていると思います。今後はより一層のツールの使いこなしや、ビジネスにどうマッチさせていくかを考える段階なのではないでしょうか。広告だけではなくオンライン・オフラインのデータを解析し、どのようにビジネスに使うかという部分にまで視座が広まっていると思っています。

 

大友:位置情報を活用した広告はあくまで手段の一つですね。

 

猪谷:そうですね。広告のターゲティングに位置情報系データを活用するのは数ある使い方のうちの一つでしかないと思っています。

 

広告に限って言えば、今の運用型広告はどうしてもWebコンバージョンを重視しています。店舗周辺のユニークユーザーにどれだけリーチできたか、あるいは特定のリアル世界から導きだされたライフスタイルオーディエンスに対して、どれだけブランドメッセージを伝えられたか、そしてそれらがどのくらい来店や消費行動の変化に影響を与えたかまで立体的に分析するのは難しいのではないでしょうか。

 

位置情報系サービスの広告は、フリークエンシーを適度にコントロールし、ターゲットされたユーザーに対してきちんとリーチして、ブランドメッセージや店舗のオファーを届けられるか、そして来店や消費行動の変化がおきたかオンライン・オフラインを超えて立体的に検証できることが非常に重要だと思います。

 

また今後の位置情報系データの役割としては、広告への活用だけでなく、エリア分析や、ユーザーデータを統合して分析するといった企業のビジネスインフラの側面が非常に強くなってくるかと思います。先ほども申し上げましたが、あくまで広告は数ある打ち手の一つで、もっと企業活動の多様な分野で使われていくようになるのだと思います。

 

大友:位置情報系サービスは黎明期を抜け出し、オンライン・オフライン含めてデータの取得、分析、施策、効果測定まで一気通貫で実行する強力なプラットフォームが出てきていることも再認識できました。本日は貴重なお話、ありがとうございました!

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