OTT・CTV最前線:SpotX 原田健さん、張舜さんに聞く

OTT・CTV最前線:SpotX 原田健さん、張舜さんに聞く

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『プログラマティック広告最前線』連載の趣旨

 

デジタル広告が総広告費に占める割合はグローバルでみても年々増加しており、このデジタル広告のデファクトスタンダードとなっているのが、広告在庫の自動売買に対応するプログラマティック広告です。5Gに代表される通信システムの発達やIoTの普及も相まって、テレビや屋外・交通広告(以下OOH)といったデジタル広告に分類されない媒体においても、プログラマティック化が進んでいます。

そこで本連載では、マーケティング先進国の欧米の事例を中心にプログラマティック広告の最前線をお伝えするとともに、最前線の少し先の世界を考察しています。また、日本国内の最新事例についても、キーパーソンとの対談を通して紹介していきます。

第八回では、IDソリューションをグローバルで提供するLiveRampのヘッドオブパートナーシップス 今井則幸さんに、Cookieに依存しないIDソリューションの最前線について伺いました。

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第九回となる今回は、インストリームに特化したビデオSSP兼アドサーバー事業をグローバルで展開するSpotXの日本カントリーマネージャー 原田健さんとソリューションエンジニアマネージャー 張舜さんに、OTT(over-the-tops)ならびにCTV(connected TV)の最前線について伺いました。

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話し手:
SpotX Japan合同会社
カントリーマネージャー
原田健さん
ソリューションエンジニアマネージャー
張舜さん

聞き手:アタラ合同会社
コンサルタント
高瀬優

SpotXはインストリームに特化したビデオSSP

高瀬:最初に、原田さんと張さんのご経歴を伺ってもよろしいでしょうか。

原田:業界歴でいうと20年ほどになります。ご存知ないかもしれませんが、ポータルサイトのLYCOSでキャリアをスタートしました。その後は、バリューコマースを経て、ダブルクリック、Overture、オーストラリアのトレーディングデスクの日本事業展開や、日本のトレーディングデスクの海外事業展開のコンサルティングを行い、SpotXに参画する前はフィンランドのSSPであるKioskedの日本事業立ち上げに関わりました。

張:もともと海外でECサイトを個人で作ったりしており、日本に戻ってきたタイミングでメーカーのECサイトを運営していました。その後、アクセンチュアでコンサルタントとして勤務していた際にアドテク業界に興味を持ちCriteoに転職、ご縁があってSpotXに社員第一号として入社しました。

高瀬:張さんはSpotXでどういったことをされていますか。

張:ソリューションエンジニアとして、媒体やDSPとのインテグレーションから、既存顧客への技術寄りのサポートを実施しています。開発メンバーの多くは米国の本社にいるので必要に応じて彼らと調整をすることもありますが、ローカルでハンドリングすることもあります。

高瀬:ありがとうございます。では、具体的に御社の事業内容をご説明いただけますか。

原田:弊社はビデオ専門のSSPですので、ビデオで媒体社の在庫をマネタイズすることが我々の仕事です。ビデオSSPという概念がまだ日本ではあまり普及しておらず、競合も少ない状況です。

高瀬:ビデオSSPという観点だと、UnrulyやTeadsも同じカテゴリーに分類されるのかなと思ったのですが、これらの企業と差別化できるポイントはありますか。

原田:大きく違うのは、弊社はインストリームをメインでやらせていただいていることでしょうか。UnrulyやTeadsはアウトストリームメインだと思うので、そこが大きな違いですかね。加えて、アドサーバー事業も展開しており、こちらも差別化できるポイントの一つだと考えています。

キャッチアップコンテンツからライブ配信まで対応

高瀬:2018年8月に、CCIと共同で国内放送局へ動画広告配信プラットフォームの提供を開始されたとのことですが、具体的にどういった取り組みをされているのか伺ってもよろしいでしょうか。

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張:日本国内の放送局はTverなどキャッチアップコンテンツを持っていますが、これらサービスに対する広告プラットフォーム提供という点で、弊社のアドサーバーをご利用いただいています。また、SSP兼アドサーバーとして、DSP経由でのプログラマティック広告でのマネタイズはもちろん、放送局が手売りする純広告の配信サポートをさせていただいております。CCIは基本的にアドサーバーのリセラーとして入っていただいており、各放送局への営業活動や契約はCCI経由で行っています。

プログラマティック広告に関してもう少し詳細を説明しますと、広告代理店が案件を獲得してきたのち放送局との素材考査、単価の調整およびDSPへの配信設定を行い、各放送局のアド・オペレーション・チームがアドサーバー上でPMPの設定をするケースがほとんどです。

高瀬:ありがとうございます。毎日放送と読売テレビで配信技術Server-Side Ad Insertion(以下SSAI)を活用した広告配信を実施したことを2018年に発表されていますが、具体的にどういった事例だったのか伺えますか。

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張:スポーツイベントのライブ配信でSSAIの技術を活用して広告配信を実施しました。2019年も実施しており、とあるイベントではユーザーの同時接続数が100万を超えました。これだけ膨大なトラフィックに対応できるアドサーバーは、日本国内においては弊社とGoogleぐらいでしょうか。

SSAIに関しては、ブライトコーブのBrightcove Liveを活用して広告をスティッチングするので、弊社から見れば通常は広告をビデオプレーヤー側に返すところを、SSAIのベンダーのサーバーに戻し、そこでコンテンツと広告をスティッチングすることで、ユーザーは広告のロード時間を感じることなく広告を視聴するかたちになります。

高瀬:なるほど。ライブ配信中に動画広告を配信する事例はすでに多くあるのでしょうか。

原田:そうですね、実は結構ありますね。

日本と米国における広告主の違い

高瀬:実際に各放送局が御社のSSPやアドサーバーを導入した後の反響はいかがでしょうか。

原田:キャッチアップコンテンツも始まったばかりですし、まだまだこれからいろいろと試す余地はあると思います。そういった意味でも、満足度でいうと50%くらいかなと感じています。

張:放送局は手売りの純広告を非常に大事にされているので、クリエイティブが完成したらメールで連絡が入り、音量ボリュームやタレント使用に問題がないかを確認、それをアドサーバーにアップロードするというのが主流です。一方、弊社はSSPスタートのアドサーバーなので、基本的にはプログラマティックに配信してもらえばもらうほどSpotXのバリューを感じてもらえます。そういった意味で、PMPの運用に関してはかなり満足していただいているのかなと思っています。

しかしながら、放送局の純広告の運用をもっと効率的に行うには、弊社がまだまだ成長しないといけない要素がたくさんあるので、現状で100%満足していただいているとは思っていないですし、日々いろんな要望をいただいているので、本社の開発チームなどを含め成長できる部分は多いのかなと。

高瀬:ありがとうございます。どうしても米国と比較すると日本のプログラマティック配信は遅れている部分があると思うので、手売りの純広告メインという状況も理解できます。

張:あと、日本は広告主がそこまで厳しくないですね。SpotXはads.txtやSellers.json、SupplyChain objectに早いタイミングで対応していたため、The Trade DeskやGoogleがSpotX経由でのインストリーム動画広告配信のみ認めるといった動きもあり、こういった部分で弊社は米国でバリューを出せています。

さらに、SpotX経由で配信した広告に関してはMOATのデータも提供できるので、ビューアビリティの指標も確認可能です。でも、日本の市場においては現状ビューアビリティが厳しく求められておらず、かつインストリームに関してはほとんどがプレミアム媒体のため、ブランドセーフティーを求める声も少ないです。こういった事情もあり、米国で出せているバリューを日本国内で出していくことは、なかなか難しいと感じています。

プログラマティックダイレクトがトレンド

高瀬:Digital TV Researchの調査によれば、Ad-supported Video-On-Demand(以下AVOD)のグローバルでの売上げが2024年には560億ドルになる見込みで、2018年の219億ドルと比較して3倍近くまで成長することが予測されています。日本の市場においてAVODは現状多くないと思うのですが、今後成長の余地はあるとお考えでしょうか。

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原田:そうですね、Subscription Video-On-Demand(以下SVOD)がまだ圧倒的に多いですね。TverやFOD、Paraviといった日本国内の放送局が提供するキャッチアップコンテンツに加えて、NetflixやHuluもSVODのかたちを取っています。

一方で、DAZNやRakuten TVといった放送局ではない新規プレーヤーも出てきていますし、J:COMなどケーブルテレビ業界のプレーヤーが今後どのような動きをされるかは非常に興味がありますね。

我々としては米国での知見もたまっているので、AVODの新規プレーヤーが出てくればいつでもお手伝いできる状態です。

高瀬:かしこまりました。昨今米国では、Streaming Warといわれるほどストリーミングサービス、いわゆるOTTへの新規参入や競争が激しくなっており、サービス形式もAVODやSVOD、そのハイブリッドなどさまざまですが、このStreaming Warの行く末をどのようにお考えですか。

張:米国でOTTのビジネスが普及したのが2017年の後半あたりで、SpotXから見ると2018年に売上げが爆発的に伸びました。当時のプレーヤーはRokuやSamsung TV上のアプリが非常に多かった印象です。

一方で、弊社が2020年にリリースしたホワイトペーパーをご覧いただければ分かるのですが、いまだにAVODやSVODの話がされているのです。これは、従来のリニアTVの広告予算をOTTプレーヤーが取り切れていないことの裏返しだと思っています。

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弊社がもともとアドエクスチェンジをやっていたこともあり、取引形態としてはオープンマーケットも引き続き大きな売り上げにはなっていますが、昨年あたりから日本で事例の多いPMPなどのプログラマティックダイレクトのお取引も増えてきたので、興味深いことに、リニアTVの予算を持ってくるトレンドが米国でも起きている状況です。

それこそAmobeeの米国の代表やSamsung TVの代表の方も、弊社のホワイトペーパーの中でプログラマティックダイレクトが今年もっと伸びるだろうという話もされており、米国でもOTT領域のメジャーな取引形態はプログラマティックダイレクトに本格的に移行しているな、というのは去年あたりから感じています。

高瀬:確かに、これまでトラディショナルなメディア中心に投資してきたブランドからすると、デジタル広告へシフトしていく中でプログラマティックダイレクトの取引形態を選択するのは自然な流れですよね。

張:はい、もしかしたら来年またオープンエクスチェンジの話をしているかもしれないですが。今は新規プレーヤーがリニアTVのビジネスに合わせ始めているところですね。

 

CTVでの視聴と1st Partyデータの囲い込み

高瀬:AVODやSVODのユーザーの視聴環境という観点では、米国では特にコネクテッドTV(以下CTV)が普及しているかと思います。米国と同様、日本においてもCTVにおける視聴は普及していくとお考えでしょうか。

張:現状は、それこそTVerのインプレッションの7~8割はスマートフォンから発生しており、さらにそのうちの6割がiPhoneという内訳です。一方で米国のマーケットデータを見ると、20~30分以上のいわゆるロング・フォーム・コンテンツはCTVで見るユーザーが非常に多いので、ロング・フォーム・コンテンツをOTTで提供する媒体社が増えれば、日本においてもCTVからの視聴は増えていくと考えています。

原田:例えばディスカバリーチャンネルは、もともとケーブルテレビでしか視聴できなかったコンテンツをCTV含め全デバイスで配信しており、こういったニッチなコンテンツを提供するプレーヤーの増加もCTV普及を加速させると思います。

張:また、スマートTVにデフォルトでOTTアプリを入れ込む流れが加速すると同時にCTVを保有する世帯数が拡大していけば、CTVでの視聴もおのずと増えていくと考えています。

高瀬:ありがとうございます。CTVに関連する話題が続きますが、2019年11月にRokuがDSPのdataxuを買収しました。これにより、広告主はdataxuを介してRokuの1st Partyデータをターゲティングに活用できるようになったのですが、こういったOTTプラットフォーマーによる1st Partyデータの囲い込みは今後トレンドになっていくとお考えでしょうか。

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原田:実はdataxu買収前から弊社のAudience LockというソリューションをRokuは採用していて、彼らの1st PartyデータをDSPが活用できないようにコントロールしています。今回のdataxu買収もそうですが、今後こういった1st Partyデータの囲い込みは加速していくでしょう。

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張:結局のところ、Rokuを含む他の米国のプレミアム媒体は基本的にはGoogleとFacebookになりたいんですね。そのため、1st Partyデータの扱いには非常に神経をとがらせていて、デバイスIDはもちろんユーザーエージェントやIPアドレスの情報も渡したくないと考えています。そういった要望もあり、弊社はAudience Lockの提供を始めました。Audience Lockを活用すれば、例えばプログラマティックダイレクトの取引の場合のみ1st Partyデータを公開するなどといった細かな設定が可能です。

昨今、Webブラウザの世界でも3rd Party Cookieの利用制限が話題に上がっていますが、米国のプレミアム媒体においては1st Partyデータを囲い込むことで高いCPMで入札されない限りユーザー情報をDSP側に渡さないことがトレンドになっており、その筆頭がRokuです。

高瀬:なるほど。結局、各プレーヤーが囲い込み始めてしまうと最終的に勝利するのはYouTubeという結末もあるような気はしていて、今後の動きが気になっています。

張:そうですね。Rokuのdataxuの買収がまさに、他のDSPに情報を渡したくないから自分たちでやってしまおうという発想に基づいていると思うので、ある程度の規模の媒体であればまだしも、中小規模の媒体はどうするのかなというところが気になります。

ロングフォームコンテンツがカギを握る

高瀬:最後に御社の今後の事業展望と、御社がOTTやCTVの市場で果たしていきたい役割を伺えますか。

 

原田:米国に関していえばOTTやCTVはまだまだ伸びる余地はあるので、弊社としては引き続きRokuのようなパートナーと手を組みつつ、OTTやCTVに注力していく方向にあるかと思います。

日本に関しては、現在取り組んでいる日本国内の放送局とのビジネスを今後も継続していく一方、そこだけに依存し続けるのもリスキーではあるので、放送局以外の
、例えばDAZNやRakuten TV、またはディスカバリーチャンネルといった特定の分野にフォーカスしたロング・フォーム・コンテンツを提供する媒体社とのパートナー関係構築および強化を図っていきたいと考えております。もちろん、広告代理店や広告主との関係も広げていきたいです。

張:日本に関していうと、もう少し日本の放送局に歩み寄らないといけないのかな、というところもあります。もちろん弊社には米国を軸に培った弊社の勝ちパターンがあるのですが、日本の放送局の実現されたいことももちろん叶えていかないといけないので、むしろそういう意味で弊社が実現したいことと、放送局が実現されたいことの2つを叶えられるといいかなと思っています。

高瀬:本日は貴重なお話、ありがとうございました。

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