テレビの未来は明るい!これからの放送はサービスでありユーザーインターフェイスが重要だ!

テレビの未来は明るい!これからの放送はサービスでありユーザーインターフェイスが重要だ!

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テレビ局関連会社の代表取締役社長である氏家夏彦さんは、鋭い洞察力でテレビ業界を斬る、影響力のある言論者です。若者のテレビ離れが叫ばれ、地上波放送のあり方が問われる今、氏家さんにテレビ業界の今と未来についてお話を伺いました。

テレビ業界は元気がない!?

有園:最近よく「テレビ業界は元気がない」という声を聞きます。昨日の夜、偶然、TBSアナウンサーの初田啓介さんと食事をしました。昨日の昼間は大阪出張していて、朝日放送の報道局に勤める先輩とも話をしたのです。二人とも学生時代の同じサークルの先輩です。二人と話していて、やはり、少し悲観的な印象を受けました。とはいえ、テレビ局は「やり方次第でまだまだいける!」と僕なりに思っています。そこでぜひ、氏家さんにお話を伺えればと考えております。

氏家:よろしくお願いいたします。

有園:最近、フジテレビが1959年の開局以来初の赤字に転落したというニュースがありました。一方で、民放連の井上会長のかけ声で始まったといわれるTVer(ティーバー)が開始から3週間で100万ダウンロード突破したというリリースも耳にしました。テレビコンテンツはスマホでも見られている時代になりました。その状況の中で、テレビ業界およびテレビ局の未来について氏家さんはどのようにお考えでしょうか。

氏家:数年前までは、テレビ局に対しては「悲観的になりましょうよ」というメッセージを私は意識的に発信していました。悲観的にならなければ正しい危機意識を持つことができません。正しい危機意識を持ってはじめて具体的な動きができるわけですから。3?4年前までのテレビ局には「まだまだ大丈夫」という人がすごく多かった。今でも少なくはありませんが、その一方で「このままだとヤバイよね」という人が増えて、そのような危機意識を持った人がテレビ局内部でも、ちゃんとしたポジションについてきている。それがここ3年くらいの大きな変化だと思っています。

有園:なるほど。

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テレビ局が危機意識を持ち始めた

氏家:ここにきていろいろな動きが一気に進んできたのも、各局のみなさんがしっかり危機意識を持つようになったから、変化のスピードが急に上がったんだと思います。逆にいうと、悲観的になることは大事。悲観的な気分にならなければ、次のイノベーションなんて起きないじゃないですか。イノベーションを起こす原動力になるものは「ヤバイよ」という気持ち。それを持つ人が増えていることは、僕は良いことだと思っています。それによってテレビの未来は明るくなるんですから。

有園:僕は、氏家さんはテレビ業界に対して啓発する意識をもって発言されてきたんだろうなと思っていました。少しずつ状況が変わり、未来を語れるようになってきましたね。

氏家:数年前まで、私の発言は「テレビはヤバいぞ」を強調してから「こうしたらどうだろう」という提言をしていました。視聴習慣の変化が起き、モバイルデバイスが急激に増えて、いろいろな状況の変化があって「このまま放っておくとテレビはヤバいぞ」ということを強く言わなければならなかった。みんな、そういうことをあまり認識していなかったから。でも、今はそう言わなくてもだいたいの人は分かっていて、「じゃあ、どうしましょう」が素直に議論できる段階だと思います。

テレビの視聴率が落ちている

有園:2008年秋のリーマンショックの影響で、テレビCMの視聴率1%あたりの収入が2009年に底を打ちます。その後、2010年以降、テレビCMの単価が上がっている。けれども、いわゆる全日視聴率が落ち続けているといわれています。このままでいいのでしょうか。

氏家:テレビの視聴率が落ちているのは動かしがたい事実であって、いまでも落ち続けています。これは受け止めなければなりません。

有園:はい。

氏家:視聴率が減っているのは、テレビを見ている人が減っているからです。特に若い人を中心に。これによって何が起きるか。今のところ景気が上向いているので、テレビ広告費は少しずつ増えています。でも、この先に何かあればドーンと落ちる恐れがあります。

この5年ぐらいは、視聴率が下がっているのに広告市場は膨らんできた。膨らんできた分が一気に弾けて、すごく悲惨なことになるのではないかと警戒し、まずはそれに備える必要があります。未来にそういうことが起きることを想定しながら対策を練らなければ危険です。

広告収入が減るということは制作費が減るということです。一番大事なコンテンツを生み出す源泉が無くなるということです。いくら「安くても良い番組を作ればいい」といったって、それには限界がある。そうした事態に備えていかなければなりません。

視聴質を高める、テレビ画面に集中させる

氏家:そのために必要なことは2つあります。1つは、リアルタイム視聴の促進です。テレビは視聴率が下がっているとは言っても、リーチ力では他の媒体に比べて地上波は圧倒的。その地上波の利点をどうやって伸ばしていくのか。視聴率が下がったとしても見る濃度、濃さが高まればいいじゃないですか。

有園:はい。

氏家:どうやってテレビ画面に集中させるかを考えていけばいいと思います。テレビは一度に多くの人に見られる、いわば広い面積を取れるメディアですが、奥行きが浅い。気に入ったドラマであれば奥行きは深いけれど、そういうドラマって録画されてしまうんです。

例えば、大ヒットした「下町ロケット」というドラマを見ていたんですが、ある日、裏ではテレビ朝日でアイススケートをやっていました。僕は「下町ロケット」が絶対に見たいので録画して、アイススケートを生で見ました。SNSでそれを書き込んだら、自分も同じだという人がたくさんいました。そうした視聴の仕方が増えています。そして録画視聴している人の8割くらいがCMを飛ばしてしまうので、今のテレビのビジネスモデルでは苦しくなってしまいます。

リアルタイム視聴の促進

氏家:その状況をどうやって乗り越えるのか、どうやったら媒体価値を高められるか。それを考えるべきです。その解がリアルタイム視聴の促進です。

有園:リアルタイム視聴という言葉は、録画ではなく普通にテレビを見るという意味で使っていますか?

氏家:そうです。生で見ること、生放送という意味ではなくて、放送しているのをそのまま見ることをどうやって促進していくか。そのやり方の1つとして有望だと思っているのが「みんなで見ているのを実感してもらう」、「みんなで盛り上がる」というものです。

Bascule(バスキュール)の朴さんが上手い言い方をしていたのですが、今の番組は視聴率30パーセントの番組も1パーセントの番組も、テレビ画面を見ている限りは同じにしか見えない。それを、どれだけ多くの人が見ているのか分かるようにしたら面白いのではないだろかというのです。テレビ画面で視聴者が直接参加している感じ。それを出すにはどうしたらいいのかをBasculeさんたちは考えています。

例えば、ニコニコ動画は疑似リアルタイム視聴ですが、人気のある動画のシーンで盛り上がるところにくると画面全体を字幕がバーッと流れます。「弾幕」と言うのですが、画面が字幕で埋め尽くされて何が映っているのか分からなくなるほどだけれど、ポチッと押せば消えます。その字幕で、みんなで盛り上がっていることが分かるんです。

それをそのままテレビでもやれとは言いませんが、工夫をして取り入れることができるのではないか。盛り上がっていることが視聴者に伝われば、視聴者が参加している感を得ることができるのではないでしょうか。特に、スポーツイベントはそうかもしれませね。それってリアルタイムでやらなければできませんから、リアルタイム視聴を促進することになります。1年ほど前までは各局とも積極的にやっていたのですが、最近はあまりやりません。期待したほど視聴率に反映しないためらしいのですが、目的を「視聴率アップ」から「視聴者を放送に巻き込む」に変えて、継続的にトライしていくべきだと思います。

CMの効果を上げるために

氏家:二つ目は、CMの効果を上げることです。今はただ流れているCMをたまたま見ているだけで、普通の視聴者は、CMタイムに入ると意識がCMから離れてしまう。CMをただ流れるものではなく付加価値を付けていく。例えば、セカンドスクリーン連動もいろいろ試行錯誤しているけれど、イケてる方法が見つからない。

有園:TBSは「ぶぶたす」アプリで番組と連動したことをやっていますよね。

氏家:あれは大変よくできているアプリですが、もっとユーザー目線でサービスを考えて、こっちが何をやりたいかではなくユーザーにとって面白いセカンドスクリーンサービスという発想を突き詰めれば、さらにいろいろなことができると思うんです。テレビ局が自分たちだけでやるのでなくサードパーティにも解放して、面白いアイデアを持ってきたところとは一緒に組んでやればいい。

有園:アプリを開発してもらうとかですね。

氏家:そうそう。こっちから呼びかけてどんどんやってみる。もちろん、スポンサーさんを巻き込む手もあります。

CMを売るだけではない、新しいことにトライ

氏家:今までテレビ局はCMを売るという作業しかしてこなかった。ネットに関しては発想が限られているので、セカンドスクリーン連動とかネット連動とか、仕組みや仕掛けを自分たちだけで考えるだけでなく、周りと一緒にやっていく。スポンサーさんにも理解してもらって通常のCM料より高いお金をいただくとか。CMを売るという伝統芸の営業の世界だけでない、新しいことにトライしていかないと。でもそれって、口で言うは易しなんですよ。

僕も現場にいた頃、深夜番組でいろいろなことをやろうとしたけれど、新しいことをやろうとすると、とにかく抵抗が強い。ものすごくエネルギーが要る。あっちこっちを説得するんですが、やりたがらなかった。これまでのテレビは、段取りが決まっていて、段取り通りに処理すれば膨大なお金が入ってきた。ところが、それだけではダメになってきたから新しい仕組みを作りましょう、儲けるためにいっぱい汗をかきましょうと。そういう風にしていくと、もっと広がっていくんです。CM効果も上がってくる。今はいろんなチャンレンジがやりやすい環境になってきているようですから、これからですね。

有園:なるほど。

テレビのネイティブ広告

氏家:CMの効果を上げるもう一つの方法が、ネイティブ広告です。ネイティブ広告というと、ウェブサイトの記事の中に紛れ込んでいる記事の体裁をした広告ですが、これはテレビでもできます。「リアル脱出ゲームTV」では、日産のCMに出演者がそのまま登場していました。

(参考記事:「ネイティブアド」のあるべき姿を、日産自動車とTBSのテレビでの取り組みに学ぶ

有園:「リアル脱出ゲームTV」での日産のCMは話題になりましたね。

氏家:番組から自然な形でCMに入るんです。TBSの「ルーズヴェルト・ゲーム」ではドラマの中に社会人野球が登場するので、スポンサーのニッセイさんや東芝さんの社会人野球の動画CMを急きょ作って流しました。ドラマの流れを断ち切らない、雰囲気を壊さない工夫ができていたんですよね。

「M-1グランプリ」のときのユニクロのCMも良かったですね。あれやったのはABC朝日放送さんです。朝日放送さんて、いつも冒険的な試みをするんで面白いですよね。

ネイティブ広告って雰囲気を壊さないから効くのだと思うんです。そういうCMを流すと、おそらく認知のされ方がまるで違ってくる。視聴者にとってCMが邪魔なものではなく、共感を得るものに変わるんです。そのドラマや番組でないと通用しないから、使用できる回数は少ないかもしれないけれど、その分の制作費を安くしたってリターンはくるんじゃないかな。それをYouTubeにアップしておけば、SNSで口コミで広まり放送は見なくても、多くの方に見てもらえるわけだし、効果は大きいと思います。

あとはメタデータや視聴データを広告主にも提供して利用してもらう。広告主が「テレビCMって面白いね」って思ってくれるようなデータを提供することで、CMを伝える媒体としてのテレビの価値は上がると思うんです。

テレビを録画させない

氏家:もう1つのテーマにつながるのですが、アスキー総研の調査によると、今は録画視聴する人が4割なんですって。その録画をさせないようにすればいい。

有園:録画をさせないのですか?

氏家:全部、見逃し視聴をさせればいい。

有園:TVerで全部流しますよと。

氏家:そうしたら録画は必要なくなる。「TVer」や「Hulu(フールー)」でかなりの番組が見られるようになったでしょ。それを見るので録画はしなくなったという声は結構聞きます。

有園:僕としては全番組をネットで配信しちゃえばいいじゃんって思うわけですよ。アーカイブがあればいつでも見られるわけだし。録画しなくてもいいし。いろいろな議論があるとは思いますが。

テレビは使いにくい

氏家:テレビの未来を明るくするには、これまでお話ししてきた「地上波放送を元気にすること」に加え、「新しい接触点を増やすこと」も重要です。ユーザー側からすると、今までのテレビは使いにくいわけですよ。放送しているその時、テレビの前にいなければ見られない。こんな不便なサービスってないでしょう。

有園:テレビ業界にいる氏家さんがおっしゃるなら、そうですね(笑)

氏家:スタートしてから60年間ズーッと変わらないわけですから。いまのネットユーザーは、いつでもどこでも、見たいものは見るし、知りたいことは知るし、買いたいものは買う。若い子たちと話をしていて「これって何だっけ」と聞くと「何だっけ」と言う前にパパパッとスマホで調べて「こうです」と。私自身はスマホで調べる動作は面倒臭いんだけど、若い子は抵抗感がない。スマホを使い倒すことが自然なんだよね。

有園:スマホと一緒に育っていますからね。

氏家:便利なものに慣れてしまった人からしたら「テレビって使いにくい」と思うのは当然です。テレビでやっていることは面白いかもしれないけれど、面倒臭かったら見ない。僕らだってネットで動画を見ようと思っても、年齢とか居住エリアを打ち込んだり手続きが面倒だと、「う?ん、もういいや、見ない!」と(笑)

有園:はい(笑)

氏家:それと同じことを若い子たちはテレビに感じているわけです。面倒臭くないようにするには、いろいろなルートで番組を届ける必要がある。それで一番効いてくるのが見逃し配信だと思うんです。見ようと思っていたけど録り逃した、ネットで話題になっているけど録画していなかったから見られない。それらを解消してあげるだけでだいぶ違います。

ネットの話題の半分はテレビのことだと言われてます。記事や書き込みに画像が付いているかもしれないけれど、そこに見逃し動画へのリンクが付いていたら視聴につながります。面白いことがいっぱい起きると思うんです。

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民放連の井上会長が示す未来

有園:2015年12月8-9日にテレビ業界のイベント「VRフォーラム 2015」が開催されました。僕は行けなかったのですが、参加した人々の話を要約すると、「広がるテレビの価値をすべて計測していきます」という話がなされたらしいです。

そのことをもっとも表していたセッションが「ビデオリサーチが描く”これからの視聴率”」で、ビデオリサーチのテレビ調査部長、橋本和彦氏の話が良かったらしいです。今後の視聴率計測の方針を示して「分散したテレビ視聴をすべて計測する」という内容だったと聞きました。

1. 視聴率のサンプル数を現状の関東600世帯から900世帯に拡大
2. タイムシフト視聴も計測する
3. スマートデバイスによるテレビ視聴の測定準備をする
4. 関西・名古屋をはじめ徐々に全国で同様の体制を整える

こんな感じで、2016年10月からスタートし、視聴対象やエリアを徐々に広げていく、と。

このフォーラムの初日におこなわれた民放連の井上会長の話では、「テレビはこれまで放送だけで儲けてきたけれど、現状の世帯視聴率だけでなく、タイムシフトでも、VODでも見逃しでも、スマホで見ているものも含めて、放送以外のチャネルも計測していこうよ」というメッセージが感じ取れた、と聞きました。

つまり、あらゆる視聴の場で収益を得ていくよ。そんなビジネスモデルを提案しているようにも見えたらしいです。

井上会長ってすごいなって思いました。

氏家:あの人はすごいですよ。昔、私が管理部門にいた頃、井上会長は副社長、社長でした。鍛えられましたね。感覚が鋭くて緻密で視野が広いです。固定観念、既成の概念に縛られない人です。

3?4年前に私がメディア総研にいた頃、会社の幹部にテレビの未来に関する提言資料を配るとリアクションがあったのが井上さんでした。「この話は面白いから詳しい資料を秘書経由で送ってくれ」と言われて用意したり。「全局全番組の見逃し視聴」の重要さを提言したときも「実は同じことを考えていた。これはやらなければいけない。」と言われました。

有園:それがTVerにつながるわけですね。

氏家:井上さんは「俺はデジタル音痴だから」などとおっしゃっていたのですが、全然そんなことはありません。鋭い方です。技術的な細かいことは別にしても、「時代の中で、これがどういう意味を持つのか」ということに関しては非常に鋭く見通している人です。今の時代、井上さんが民放連の会長でよかったなと思います。

すべてのデバイスの視聴を測ってビジネスにしていく

有園:VODであれ、見逃し視聴であれ、視聴を測ってビジネスにしていこうというのは賛成です。ハードディスクレコーダーに録画しないようにする、録画させないようにするというのは、それもそうですよね。

ハードディスクレコーダーに録画したものに関してはCMを飛ばすという制限はかけられないけれど、配信は違う。VODもCMを入れられるとなると、スマホでもCMビジネスは成り立つわけで。そこを測ってお金に換えられる指標として出すだけでも違ってくるなって思います。

アドタイで「普通の大学生に聞いてみました。「普段、テレビ観てますか?」」というインタビュー記事が先日、掲載されていました。それによると、普通の大学生はテレビを見ていないようです。でも、インタビュー記事を読むと分かりますが、「Huluで見ているよ」とか「YouTubeで見ているよ」という話で。

氏家:YouTubeで見ているって違法でしょ(笑)

有園:はい(笑) でも、TVerによってネットでも見ることができるようになれば、「テレビって面白いじゃん」と大学生は言ってくれる可能性がある。そのことを、アドタイのインタビュー記事を読んで思いました。大学生はテレビを見ていないと思っているけど本当は今も、YouTubeでテレビコンテンツを見ていたりする。

氏家:地上波放送は見ていないだけなんだよね。リアルタイム視聴はしていないけれど、どっかで目には入っている。

世帯視聴率を捨てたらいい!?

有園:だったら、それを計測するようにすれば、お金に換えることができるはずだよねと。世帯視聴率のボリュームゾーンはM3とF3になっているから、世帯視聴率を上げようとすると、おじさん、おばさんが楽しいと思う番組を作らなければ視聴率は上がらないという法則になっています。それはテレビ局の人たちも分かっている。

だったら、世帯視聴率を捨てたらいいじゃないか。今後も世帯視聴率も計測するけど、他の計測の仕方も導入していくってことを井上さんは言っているのかなと。

氏家:世帯視聴率が広告費の指標になっているシステムは半世紀をかけて築き上げたものだから、すぐに無くすことは難しいし、性別、世代別の視聴率を見ることもできるので、なくす必要はないです。

今、問題になっているのは、視聴率に引っかかってこないもの。これをちゃんと捉えていきましょうよと。ネットで配信していれば細かいデータがとれるんですよね。この人は、何月何日に何時から見始めて、どこでいったん止めて、それをまた再開してどこまで見たか。やろうと思えば細かい視聴ログデータがとれるんです。それってコンテンツを作る側からすると気になる情報だし、どんなものをユーザーが好んで見るかということ自体が非常に重要です。それに属性やIDが取れていればターゲティングができるようになる。

有園:そうですね。

氏家:そうすれば、Netflix(ネットフリックス)が得意なレコメンドができたり、いろいろなことができるようになります。それとは別に、番組の内容を記録しているメタデータというのがあるから、それと視聴ログデータを組み合わせると「このタイミングでこれが出てくる」ということが分かるから「そこで視聴のパターンがどう変わるのか」ということも、やろうと思えばいろいろとデータ分析ができます。それはとても面白いです。それと消費性向を連結するとスポンサーさんにも喜ばれるデータになります。

有園:東芝さんのテレビの中には、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)がやっているTカードのIDを入れることができるものがあります。あれはたぶん、いわゆるスマートテレビだけだと思うのですが、Tカードでの購買履歴とテレビの視聴履歴がつながるという話だと思います。そういうイメージであっていますか。

氏家:そういうイメージです。それを大声で言うと「個人情報の扱いは問題だろ」ってことにつながってしまうので、言うときはぼやかしていうようにしているのですが(笑)

有園:東芝のサイトに行くと載っていますよ(笑)

(参考ページ:レグザクラウドサービス「TimeOn」の「Tポイントをためよう!」

氏家:東芝さんのレグザTime ONのデータはすごいですよ。膨大な数のユーザーの録画視聴データが集まっているんですから。それらのデータをもとに、録画神として有名な片岡秀夫さんのチームが質の高いレコメンドサービスをやっていて、ユーザーにとってはとてもありがたい「おすすめ」が実現されてます。

一番のメリットはユーザー自身が得られる

氏家:大事なのは、ユーザーの視聴データを使うことによって一番メリットを受け取れるのはユーザー自身だということです。だから、そういうデータは積極的に使った方がいいと思います。

例えば、Netflixを見終わったあとに「次はこれどうですか」と出てくるのは、すごく便利です。これを見ているのが誰で、どういう視聴傾向があるかを把握し、精緻なアルゴリズムを組んでいるから的確な情報が出るわけです。

そういうことをやっていない動画サービスは使いにくいですよ。「これはどうですか」ってでてきたものが、自分の好みとは全然関係ないものが並んでいたり。ユーザーが何を見たかは関係がなく、向こうの人が「これがいいだろう」と並べたものが出てきても、それじゃあ見ないですよね。セレンディピティみたいなものはあるかもしれないけど、確率は低いですよね。

重要なのはユーザーインターフェイス

氏家:データを上手く利用してサービスにつなげていくことが大事だし、テレビはそっちの方向に進むべきだと思うんです。地上波では、番組宣伝など一方的にマスをターゲットにしたプッシュはできても、ユーザーごとにきめ細やかなサービスを提供することはできません。動画配信サービスだと「これはどうですか」というレコメンドがすぐにできますね。そういうのは、やっていくべきだと思います。そのとき、ユーザーインターフェイスがきわめて重要になってきます。

有園:インターフェイスですか。

氏家:はい。みんなインターネットの贅沢なサービスに慣らされているから、インターフェイスが使いづらいと見ない。次々と便利なサービスが出てきて、それが当たり前になっているから、使いにくいサービスだとすぐにダメになってしまう。その点、TVerのインターフェイスはものすごくシンプルでいいです。

有園:シンプル(笑)

氏家:シンプルだから逆にうけているというのもあるみたいですが。ニコニコ動画の初期みたいなもので、コンテンツ数が少ないから、ただランダムに並べているだけで使えます。番組数がどんどん増えて、東京キー局だけでなく日本中のローカル局の番組も次々アップされるようになってくると、インターフェイスが大事な問題になってきます。

有園:そうですね。

氏家:IDさえ取っていれば、過去こういうドラマを見ているから、この人に対してはプッシュで「明日の何時に、こういうドラマを放送しますよ」というレコメンドなんかは簡単にできるようになります。もちろんテレビ局自身もやりますが、そんなことは、みんながやってくれればいいんだよね。外部のサードパーティの人たちが。

SNSの中で書き込みがあって「こういうのを見たよ」、「あれすごく面白かったよ」、「あれ、ここで見られるよ」と書いてURLを貼り付ければ見てもらえる。そういうのって、テレビ局が自分たちでやろうとしても追いつかないし、そんな宣伝っぽいことはユーザーも好きではない。テレビ局が「面白いですよ」というものよりはSNSの中で友達が「面白い」という意見を信じるし、そこから視聴まで直結するルートができるようにしてあげるだけでガラリと変わる。

シェアされやすい仕組みを作る

有園:それは、TVerに出している番組動画がシェアされやすい仕組みを作るだけでも全然違うだろうってことですか。

氏家:そう。その仕組みを作っていかなければいけない。番組数が増えていくと何を見たらいいのか分からなくなる。今はやっていないけど、一週間分の過去番組表をダーッと出して「これ見よう」と思ってピッとやったらすぐ見られるとか、いろいろなやり方があると思います。いわゆるキュレーションサイトみたいなものも出てくるでしょうから、そういうところにもデータをオープンにして。

それこそ、テレビとの接触チャンスを増やすためには「何でも使い倒してやろう」という考え方に変えた途端、すごく不便でダサかったテレビが、すごくイケてるテレビに変わるんです。そういう風にやり方を変えていけば、テレビの未来ってすごく明るい。

コンテンツの魅力で言えば、テレビってやっぱり面白いですよ。素人やYouTuberが作った動画のほうが面白いって言う人も多いですが、本当に面白い動画は全体から見ればごく少数です。今でも「テレビのほうが面白い」って言ってくれる人がたくさんいます。

ただ、毎日放送されている膨大な番組の中に、どんな面白いコンテンツがあるかなんて分からない。それが、自分の好みと合う番組がレコメンドされて、友達から教えてもらってたやすく見られるのであれば便利。そうなった途端に、テレビのコンテンツというか、テレビメディアというか、その価値は爆発的に高まると思っています。

見逃しやアーカイブは全局足並みをそろえるべき

氏家:もう1つ大事なのは、見逃し配信は全局足並みそろえることですね。特に今、取り残された感のあるローカル局がなかなか参入できないのは問題です。権利処理のハードルが大きい。キー局は、だいぶ前からやっているから処理のルーティンができてるけど、ローカル局はノウハウもないので何から手を付けたらいいか分からない。そういうのを助けるサービスがあってもいいのかなって思う。

テレビ番組のアーカイブに関しては、時間的に直近のものと過去物とで分かれます。各社、直近のもの、つまり見逃し配信はCM付きで流れています。過去物に関しては CM付きではなくてTVODかSVODなんです。都度課金、一本いくらで買うか、トランザクショナルかサブスクライブドの二種類。それをTBSはTBSオンデマンド、フジテレビはFODでやっていたり、日本テレビはHuluでと各社バラバラ。

これって使いにくいんですよ。各局の見逃し配信が注目されたのはTVerのおかげでしょ。もちろん、TVerの前にも各局別々のサービスとしてあったのですが、全キー局がまとめて見られるTVerが入ったおかげで確実に視聴回数が上がっているはず。それならアーカイブも同じでしょう。

だったら日本の各局、ローカル局も含めて番組に関しては、1つのプラットフォーム上に乗せて、ケーブルTVの「ベーシックコース」や「ベーシックチャンネル」のように幾つかの番組はSVODで見られたり、それ以外は都度課金みたいなやり方があると思うんです。それができたらすごく面白いと思うんですよね。視聴回数に応じてリターンも入るし。

アーカイブにCMを入れる

有園:アーカイブにCMを入れてもいいんですよね。

氏家:問題ないですよ。衛星放送だって有料なのにCMが入っているじゃないですか。有料配信でも15秒くらいだったらユーザーも認めてくれるんじゃないかな。見逃しはタダで30秒、有料でも30秒だと「なんで」となるから15秒くらいで。

有園:CNNとか普通にCMが入っていますよね。

氏家:そこはやりようだと思います。より儲かるほうで。CMを入れて離脱率が高いなら止めたらいいし。各局アーカイブのポータル化は、ぜひやるべきだと思います。

有園:NHKの人と話していて、Hybridcast(ハイブリットドキャスト)は元々VODを想定していたそうです。かつECも考えていて。総務省やNHKはきっと、民放にもハイブリッドキャストを使ってほしいと思っている。民放は局によって違うとは思いますが、フジテレビのある人は「前向きに考えていますよ」とおっしゃっていました。

ハイブリッドキャストは、いわゆるスマートテレビみたいな感じで各局、少し違いはあってもテレビ画面でネットにつながるようになる。VODはNetflixみたいな感じで見られるのだと思います。例えば、ドラマの中でソファがあり「あのソファいいな」と思ったときに「このソファはIKEAで売っています」みたいなのが、テレビ画面の端っこに出ていると、ECもその場でできて、テレビ局には手数料が入ってくれば良いのかな。そういうのってどう思われますか。

氏家:昔、うちでも確か同じようなのをやっていたことがありました。ただし、放送やテレビ画面と直結はしませんでした。ECサイトにそういうのがあったのですが、売上はあまりたいしたことがなかったようで今はやっていません。でも今なら、放送からの導線を短くすることで売れやすくなると思います。

王様のブランチで「ぶぶたす」が好調

氏家:王様のブランチでやっているスマホアプリの「ぶぶたす」は、かなり売上げがあるらしい。それは導線が短いから。王様のブランチを見るときは「ぶぶたす」アプリを起動してくださいと。商品紹介をやっていると出てきて、それを見て「これいいな」と思うとすぐ買えちゃう。

有園:いわゆるセカンドスクリーンですね。私の認識が間違っているかもしれませんが、ハイブリッドキャストの説明ページを見ていると、テレビ画面が今放送されている番組から切り替わってしまうようなのです。ECへ行ってしまう。テレビ局側からすると、せっかくテレビを見ているのにECサイトへ行ってしまっていいのかなと思ったりもするのですが。

氏家:そのサービスもいけてないね(笑)。買おうと思っても番組は見続けたいよね。L字のところで買えたりね。

有園:それであればいいということですね。

氏家:そこらへんはいくらでも組み立てられると思います。せっかく見ている番組をやめるのも嫌だし、「後で買おう」と思っても忘れてしまうので。ユーザーも、そんなに集中して見ているわけではないから、セカンドスクリーンでも、脇のスクリーンでも、二画面でもいい。そういう動きは出てくると思います。

これからの放送はサービス

氏家:これからは、放送というものは、上から降らせるものではなくてサービスだと考えなければならないと思っています。サービスにした途端、いかに儲けるではなくて、いかに良いユーザー体験を提供できるか、いかに良いユーザーインターフェイスを提供できるかという風にKPIが変わるはずなんです。そこからいかないと逆に儲からなくなってしまう。儲かるところから始めるとユーザーが増えないんですよ。素敵なユーザー体験を提供するところからいかないと儲からない。フェイスブックもそうだったし、インターネットサービスは、そうやって多くのユーザーを集めてから儲けるというやり方ですよね。

放送はサービスであると完全に割切る必要があります。素敵なユーザー体験を与えるためには、実は放送をやっているだけでも、動画をやっているだけでもダメで、放送というコンテンツを基にした、いろいろなサービスを提供しなければならない。

実はすでにテレビ局はやっているんだよね。DVDなどパッケージやったりECやったり、世界観にあった商品開発とかをやっているわけです。キャラクターグッズも作っているし。そういうものもトータルで、サービスとしてのユーザー体験を高めるためのものなんだと考えると、まだまだできていないことがあって、実はやることがたくさんあります。

若者のテレビ離れではない。テレビの若者離れだ!

有園:結局、番組もしかりですが、いま起こっていることは、若者のテレビ離れではなく、テレビの若者離れだと思っているんです。つまり、若者に対して素敵なユーザー体験、あるいは、サービスを、きちんと提供できていない。

世帯視聴率を上げようとすると、M3F3の人たち、つまり、50代以上のおじさん・おばさんにウケる番組を作らないといけない。その結果、若者が面白いと思う番組を作ってない訳ですよ。若者に寄り添うには、若者にウケる番組を作ってスマホとかに出す。つまり、若者にウケる番組を若者に向けてマーケティングしなければなりません。趣味嗜好、デモグラみたいなものに合わせて、あまり小さなターゲティングはできないでしょうし意味がありませんが、そういうこともやっていかなければならないでしょう。

イギリスBBCのラジオ戦略

有園:2015年8月にNHK放送文化研究所が「イギリスBBCのラジオ戦略」というのを出していて、これが結構参考になるのではないかと思っています。

NHKは3チャンネルですが、BBCラジオは10チャンネルあります。BBCラジオはチャンネルごとに、10代向けにはロックなどの音楽を中心に流していたり、「ラジオ4」というのが伝統的なラジオで、NHK総合チャンネルみたいな構成になっていて、で、それ以外に、スポーツ専門のチャンネルもあれば、アジア住民向けのチャンネルもあったり、クラシック専門のチャンネルがあったりと、それぞれ特徴を持たせていて、2014年に過去最高の接触者率を達成したそうです。週間接触者率が70パーセント近かったそうです。

氏家:それはすごいね。にわかに信じられないね。

有園:日本とイギリスではラジオ文化が違いますよね。その中で「Listen、Watch、Share(聴いて、見て、シェアしてもらう)」という戦略があって、この時代にラジオがこれだけウケているのも驚きですが、ラジオなのに番組内容を動画でYouTubeにあげて、それを見てもらえるようにして、かつシェアされるようにしている。シェアされた情報を得て、また聴きにくるといった流れができあがっているから聴いてもらえる。チャンネルなのか番組なのかはあると思いますが、若者にも届けられるような仕組みを用意できればいい。

世帯視聴率に縛られない新しいマーケティング

有園:今でさえ若者は「TVer、面白い」と言っているわけですから、ちゃんとすれば絶対に戻ってくると思うんですよ。スマホで見ているかもしれませんが、それでもいいじゃないですか。民放連の井上会長が言うように、スマホも測ってお金に換えていければいいわけなので。そういうマーケティングをテレビ局はもっとやっていって欲しいのです。世帯視聴率だけに縛られない形のマーケティングが今後は必要だと思います。

氏家:これからですね。井上会長がおっしゃっていたことって、すごく先を行っているんですよ。今までのテレビ業界って、責任ある立場の人が、あのように先のことを大胆に語ることはなかった。

有園:びっくりですよね。

氏家:びっくりです。でも、言ったのだからそっちの方向へ行くしかない、そう覚悟していると思います。ここで「良きに計らえ」なんてやっていたら絶対に前には進めないと思っていらっしゃると思います。確かに、その方向には進むと思いますよ。

有園:TVerも1年くらいで出てきましたしね。

局内の対抗勢力とどう戦うか

氏家:テレビ局の中には保守的な人や、コンサバティブな人たちはいます。「そんな方向に大胆に変化して大丈夫なのか」と、よかれと思って言っているんです。「地上波の一番大事なビジネスモデルが壊れるじゃないか」と。でももう壊れ始めているんですよ。

今までテレビは非常に効率的なビジネスだった。それを壊さないためには、変化などしないほうがいいと言うのは正解でした。でも時代は大きく変わってきている。民放連のトップが「こっちに行くぞ」とはっきり宣言したということは、そういう保守的な人たちを説得する上での効果がとても大きいんじゃないでしょうか。テレビの外の世界の人たちからは、井上会長の発言は評価されているようですし。

TVerをやるときも各局の中には「そんなこと、やる必要ないだろう」という人が、かなりたくさんいたことはよく分かっているけれど、それでもやったわけですよ。で、実際にやってみると効果が出た。わずか3週間で100万ダウンロードでしょ。誰も考えていなかったスピードです。しかもほとんどTVerのプロモーションをやっていないんです。やっても、それこそ「下町ロケット」のドラマの終わりの5秒とかだけで。それなのに100万DLいってしまうんだから。Huluが60万から100万を超えるのに、どれだけCMを打ったことか。

TVerはほとんど何もせずに100万いった。その潜在力はすさまじいものがあります。各局がバラバラにやっていたことを、ただ束ねただけなんです。ユーザーは、バラバラのところに見に行くんじゃなくて、一カ所にまとまっているところで見られる、それだけです。だからユーザーインターフェイスが重要だと言っているんです。

有園:まだまだお話ししたいのですが、時間がなくなりました。でも、氏家さんとお話しして、テレビ局の未来は明るいなと改めて感じました。民放連の井上会長の存在が、やはり、大きいなとも痛感しました。

氏家:井上会長が道を作ってくれたことが大きいのと、5年、10年するとテレビの中の人が世代交代するじゃないですか。デジタルネイティブの人たちが組織の中で大きな決定権を持つようになります。だから、いまのペースでいけば、テレビ局の未来が明るいことは確かかな。

有園:長い時間、ありがとうございました。また、勉強させてください。

《対談者プロフィール》

氏家 夏彦(UJIIE NATSUHIKO)

メディア論ブログ「あやぶろ」編集長、放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員。
東京大学経済学部卒業後テレビ局入社。報道、バラエティー、情報番組、管理部門、デジタル部門、放送外事業を担当した後、メディア総合研究所代表を経て現在はテレビ局関連企業経営。

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