誰でもデジタル時代のマーケティング思考 第5回「顧客の“問題認識”をもっと掘り下げよう」

誰でもデジタル時代のマーケティング思考 第5回「顧客の“問題認識”をもっと掘り下げよう」

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デジタル新時代のマーケティング考とは

近年、日進月歩のデジタル技術、生活やビジネスへの浸透が年々顕著なデジタル・デバイスの普及、COVID-19感染拡大による生活様式の変化に伴うデジタル・シフトの加速、これらによって限られた人々の限られた範囲や用途での「デジタル」活用から、オンライン、オフラインを問わず広範囲な情報をデジタルで統合した形で、多くの人が利用可能となる総デジタル化社会ともいえる時代に近づいています。

膨大な情報をデジタルで管理・活用していくことが当たり前となる「デジタル新時代」に向けてマーケティング周辺でも、AI/機械学習、CX、DX、OMOなど、新たな取り組みが活発化しているのは周知の通りです。

Unyoo.jpでは、そうした「デジタル新時代」だからこその「マーケティング」について思いを広げていきたいと考えております。

Unyoo.jp編集長 佐藤康夫

 

これまでの連載を振り返る

本連載では、マーケティング/人材育成プランナーであり青山学院大学経営学部講師である山本直人氏を迎え、この「デジタル新時代」にどのような思考で「マーケティング」と向き合うべきか、皆さまのマーケティングスキルの習熟度をひも解きながら、あらためて「マーケティング」の基本をおさらいしていきます。

連載 第1回「“オートマ+カーナビ”環境で、マーケティング人材は 育つのか?」はこちら

連載 第2回「『観察=独善』と言うなかれ」はこちら

連載 第3回「ターゲットは“当てる”のではなく“描く”気持ちで考える」はこちら

連載 第4回「ポジショニングは“差別化”よりも“納得化”」はこちら

 

AIDMAもAISASも”A”が曲者

私は多くの人とマーケティングや広告に関わる仕事をしてきました。そして、もっとも難しいことの1つが「初めて大掛かりな広告をおこなう企業」に対して、その効果を説明する時だと思います。 
懸命にあげた利益から、相当な金額の支出が必要になります。設備投資のようなものとは違い、メディアや広告会社に「おカネが流れていくだけじゃないか」と感じるのもやむを得ないと思います。

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そこで、広告関係者もさまざまな理論を考えてモデルを作ってきました。中でも代表的なモノがAIDMA(※Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動))や、その後に提唱されたAISAS(※Attention(認知・注意)→ Interest(興味・関心)→ Search(検索)→ Action(行動)→ Share(共有))と呼ばれるものでしょう。

この2つはともにA=Attentionから始まります。つまり広告に対して「注意をはらう」ことが出発点になっています。 
ところが、そうした購買行動はどれだけあるでしょうか? 
そもそも、私たちは広告を見なくてもいろいろな理由で購買行動をしています。

喉が渇いたりお腹がすけば、飲食品を求めます。どこかに行こうとすれば移動手段を探し、遊ぼうと思えば情報を集めます。 
“A”から始まる行動もたしかにあります。しかし、それは部分的です。もう少し一般的な購買モデルを考えてみるべきでしょう。

一般的な消費行動モデルとしてよく知られるものは、図にあるような「5段階のモデル」です。これは、インターネットが出現する前に提唱されました。

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そして、今回は一番最初の入口にある「問題認識」についてお話しようと思います。

 

人は常に「問題」を抱えている

この問題認識はproblem recognitionの和訳です。 
何となく大げさかもしれませんが「お腹がすいた」も「明日は暇だ」も問題認識です。 
コンビニエンスストアに行けば解決するような問題もありますが、もっと手がかかるものもあります。「住んでる家が手狭になった」などは、そうとう大きな問題認識でしょう。

そうした問題が何らかの消費行動で解決することを前提にしたモデルです。 
「某国のスパイに追われている」というような大問題を抱えている人もいるかもしれませんが、そういう問題はちょっと難しいかもしれません。

さて、この問題認識にはどのような種類があるのでしょうか? 
そして、マーケターはどのように対応していくべきでしょうか? 
ここでは5つほど挙げて検討してみます。

誰でもデジタル時代のマーケティング思考 3

まず、もっともよく起きるのは「在庫切れ」や「故障」など、新たな製品を必要としているようなシーンでしょう。 
こうした時は、まず探しに行くことになります。図に書いたような食品などであれば、直接店頭に行くことが多いでしょう。この場合は、店頭のPOPなどのプロモーションが重要になります。

電気製品など数万円単位のものですと、ある程度オンラインで情報を集める人が多いでしょう。それに備えた対策はもちろんですが、最終的に店頭で買う人もたくさんいます。

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設置の大変な大型家電ほどそうした傾向が強いでしょうから、実店舗の売り場作りも行わねばなりません。 
そして、今まで使っていた製品に不満があるとすれば購買行動も大きく変わります。

 

「不満足」がたまってきたときは大きなチャンス

普段使っている製品に特に不満を抱いていなかったけど、何かのきっかけで「いまはこんなに違うのか!」と感じて、それがきっかけになることもあります。

友人の家にある最新の掃除機を使ったら軽くてラクで驚いた。 
ガソリン価格が上がったことで、自分のクルマの性能に疑問を持った。 
そんなことがきっかけで、買い替えに至るパターンです。

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これは、企業側としてもリサーチを行うことで先回りが可能です。そうした不満を察知することができれば、広告メッセージに反映させることもできるでしょう。 
もちろん、新ジャンルの登場が契機になることもあります。音楽や映画のディスクなどが部屋にあふれていた人にとっては「場所ふさぎ」という不満足がありました。サブスクリプション・サービスにはそうした不満足に応えた面もあると思います。

 

生活が変われば問題が顕在化する

このような問題が顕在化する大きなきっかけとしては「使用環境の変化」も重要です。 
職種が変わったり転職したことで「もっといい性能のパソコンが欲しくなる」ようなケースです。

これが世の中全体で起きたわかりやすいケースとして、2020年からの新型コロナの流行によるワークスタイルの変化が思い起こされます。 
一気に在宅勤務が広がり、オンライン会議で必要なカメラやマイクなどの周辺機器が品薄になりました。また仕事用の椅子やデスクが売れて、より広い間取りの部屋を求める人も出ました。

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これは予測できない急速な変化でしたが、大きな潮流を見ることでマーケターは先取りすることを競っています。

たとえば、自動車の使用方法を考えてみましょう。郊外に「庭付き一戸建て」が増加した時は自家用車を置くスペースは必須でした。都心部の交通利便性が高いエリアに高層マンションが増加した時は、カーシェアリングやレンタカーが増加しました。

今後の動向が読みにくい中で、「定額サブスクリプション」というのは1つの方法かもしれません。 
単に製品を売るのではなく、生活の変化で発生する問題認識に合わせて、「使われ方」を重視してきているのです。

 

何かを買えば何かを欲しくなる

また、何らかのモノを買ったりサービスに加入することで、新たな問題認識が発生することもあります。 
スマートフォンを買い換えれば新たにケースを買うでしょう。スポーツジムに通うことになれば、ウェアが欲しくなるかもしれません。

携帯ショップではケースなどを、ジムではウェアなどを売っていることがあります。またオンラインで何かを買えば「こんなものも一緒に買われます」とお勧めが出ます。

もっとも単純な例はハンバーガーなどの「ドリンクセット」でしょう。これは「ハンバーガーを食べれば飲み物が必要と感じる」という問題認識に対応しているわけです。

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スーパーマーケットなどでチーズの売り場はたいがい牛乳やバターなどの乳製品の近くにあります。しかし百貨店などで見る欧州から輸入されたさまざまなチーズは、どこで売られているでしょうか? 
独立したコーナーもあるでしょうが、ワイン売り場の近くにあることも多いのです。これは「ちょっといいワイン」を購入した人が「ワインにふさわしい食材が欲しい」という問題認識を先回りしていると考えられるわけです。

このように理屈で考えるまでもなく、日頃私たちが「こういう時はこれも」と感じる心理に応えているような売り方はあちらこちらで見られることがわかります。 
一方で「スーツを買ったらシャツやネクタイや革靴も」というような購買行動は激減しました。そしてビジネスカジュアルの普及に合わせた提案がいろいろと模索されてます。

 

もういちど「隠れた問題」を探してみよう

こうして見ていくと、ライフステージの変化が「問題認識の噴出」のような状態になることは容易に想像がつくでしょう。このような時のニーズに合わせて提案を行うのはマーケティングの基本といえます。

入学や定時入社などは季節性があるのでさまざまなプロモーションが行われます。また結婚や出産を控えた人が接するメディアはターゲットのニーズも明確です。

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人の生活は常に問題認識の連続といえます。ハンバーガーを食べる時から、人生の岐路の選択まで問題は発生して、それを解決しようとします。

何らかの購買行動は、その解決においてとても有力な手段と言えるでしょう。事例を見てもらえればわかるように、広告などを使わなくてもデジタル時代になって、問題認識の所在は一気に可視化されました。検索されている言葉がいま生きている人々の「問題認識の反映」なのです。

だからこそ、きわめて効果の高い広告出稿が可能となりました。

一方で、何度もプッシュされる広告が「しつこい」と感じたり、「見透かされたようで嫌だ」と感じる人もいるでしょう。

私も可愛い猫動画を見て和んでいるときに「ペット葬」の広告が出てきて唖然とした経験があります。 
もちろん、さまざまな知見が広がり広告出稿もより洗練されていくことでしょう。

しかし、大切なことは何らかの問題認識を感じている人の立場に立って、深く深く考えていくことだと思います。オンラインに限らず、TVCMや店頭でも「あなたもこれですよね」と煽るようなコミュニケーションにはマイナス面も多いのではないでしょうか。

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新製品が出る、夏休みになる、猛暑になる、疫病がはやる。どれも新たな問題認識が発生する機会でもあります。しかし、その心理は人によって異なり、状況は複雑です。

遊びに行きたい人がお金を使う時は、前向きでしょう。でも何かに困っている人が「お金を使えば解決できる」という時にためらう人もいます。お金を使うこと自体を迷う人もいます。

コロナ禍でも「人の背中をそっと押す」ような広告は評判がよかったと感じます。問題認識を捉える、というマーケティングの技術を知るだけでなく、「本当はこうしたいんだけど」という人の気持ちを想像することが求められるのです。

それが「インサイトを探る」ということではないでしょうか。


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