企業が押さえておくべき、BCP策定のためのダッシュボードとは:Unyoo.jp Online道場 Vol.3イベントレポート

企業が押さえておくべき、BCP策定のためのダッシュボードとは:Unyoo.jp Online道場 Vol.3イベントレポート

アタラ BIツール導入コンサルティングサービス
6月12日、Unyoo.jpが主催するウェビナー「Unyoo.jp Online道場」の第3回が開催されました。今回のテーマはBCP策定のためのダッシュボード。BCP(事業継続計画)とは、有事の際に企業が事業を継続させるための計画のことを指します。

 

今回、新型コロナウィルス感染症の拡大を受け、本格的にBCP策定に取り組み始めた企業も多いかと思います。その範囲は人災、天災、企業内部の事故など幅広く、業態によって取得する指標も異なるため、どのようなデータが必要か、情報をどう整理しておくべきかに迷う場面もあるかと思います。

 

同イベントでは、BCPに対応したダッシュボードづくりのためのポイントやモニタリングするべきデータや指標、アタラではどのように取り組んで有事に備えているかなど、実例を交えながら紹介しました。

 

本記事では同イベントの様子を、当日使用したスライドなどを交えながらレポートします。


登壇者の紹介

アタラ合同会社 シニアコンサルタント
山崎 毅

アタラ合同会社 CEO
杉原 剛

 

BCPとは

初めに、山崎よりBCPの基本についての解説がありました。BCP(Business Continuity Plan)とは日本語で「事業継続計画」といい、企業が自然災害やテロ攻撃といった緊急事態に遭遇した際に事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の早期復旧・継続を可能とするために平時から行っておく活動や対策、取り決めの計画を指します。

 

BCPは事前準備であり、問題が発生した際に実現できる状態に更新しておく必要があると山崎は言います。これを怠っていると、問題発生時に従業員の安否確認すらできなかったり、想定以上に被害が大きくなり事業の復旧を困難にしかねなかったりします。

 

では、BCPは何を対象とするのでしょうか。例えば大災害や今回の新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)のようなウィルスのパンデミック、テロ、国家間の紛争といったように国や地域全体が絡む大規模なトラブルのみならず、オフィスの火災や盗難、社長が入院するといった自社とその周辺のトラブルまで、幅広いものがBCPの対象となります。これらすべてに対応することは難しいため、自社の場合は何を対象とするのかを取捨選択する必要があると山崎は言います。

 

image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋
 

ヒト・モノ・カネの観点でBCPを整理する

次に、BCPを策定する目的を「ヒト・モノ・カネ」の観点で考えてみます。まず「ヒト」に関しては、従業員などのステークホルダーの安全確認、万が一の際の代替手段を事前に用意することが重要です。次に「モノ」は、会社の売上の大部分を占める商品、経営判断に必須のデータやインフラのバックアップが必要です。「カネ」については、事業回復、会社存続のために必要な資金を確保する、融資を受ける場合の手続きなどが必要です。山崎は、トラブルはいつ発生するか分からないので、自社内で継続的に対策や対応方法を更新するのも重要なポイントだと強調します。

 

image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋
コロナによりリモートワークに踏み切った企業は多いですが、今回は時間をかけて感染者数が増えていったため事前準備期間が2~3カ月あり、それゆえに問題なくリモートワーク体制に移行できたのではないかと山崎は言います。例えば東日本大震災のように事前準備をする猶予もないままに突発的な大災害が起こった場合、果たして同じように対応できたでしょうか。平時から有事の対策を常に考え、準備し、更新し続けることがBCPだと山崎は結びました。

 

アタラが実践したBCP対応

次のセッションでは、アタラ合同会社(以下、アタラ)のCEOを務める杉原より、コロナが蔓延する状況を受けての自社でのBCP対応事例が紹介されました。アタラは50人規模の企業であり、BCP策定のためだけに潤沢にコストも手間もかけられません。そこで今回のコロナ禍への対応においては、自社で整備しているビジネス最適化ソリューション「Domo」のダッシュボードを有効活用しました。

 

アタラはこれまでもリモートワーク制度の導入などBCPに対応する準備は行ってきましたが、それでもコロナ禍を経て急きょ準備したもの、今後取り組むべき課題の発見などさまざまな学びがあったと杉原は言います。今年の上半期は、どの企業においてもコロナを無視することができない状況だったと思います。アタラにおいても同様で杉原は、1~2月は先行き不透明な状況を見つつ、3月頃から本格的にどのように動くべきかを考え出したと言います。

 

image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋
どう動くべきかを考える際、山崎が前述したように、杉原も「ヒト・モノ・カネ」の観点で整理したと語ります。「ヒト」は社員の無事・安全をどう確保するのか、「モノ」は特にテレワークが続く中でオフィスをどうするのか、「カネ」は、向こう数カ月経済や事業が動かない中で資金をどう工面するのか。これらをどう判断し、意思決定し、アクションにつなげるのかを、アジリティ(敏捷性)を持って考え、行動するべきだと言います。また、未曾有の事態が起こる中では当初の計画で想定していなかった事項も当然出てきます。計画外のことに対しても柔軟に対応するフレキシビリティも重要なポイントだったと語りました。

 

では、具体的にどのように対応したのかというと、まずは経営判断をするための材料集めを行ったと言います。コロナについてのニュースが増えだした1月、2月頃はまだ、政府や自治体が公式発表する感染者数などのデータが乏しい状況でした。そんな中、東京都が3月3日にいち早くオープンデータを公開。CSVファイルでカンマ区切りのテキストファイルをベースにしたもので、データとしてとてもシンプルで使いやすく、自社導入しているDomoへの取り込みも非常に簡単でした。

 

 

そこで杉原は、東京都のオープンデータを自社Domoに取り込み、アタラとして感染者数のラインを決め、ラインを超過した場合はオフィスに出勤できない、お客さま先への訪問を控える体制を構築。3月10日には社内共有し、12日にはコーポレートサイトで発表、勤務体制や各種衛生対策について社内外に告知しました。自社としての体制変更の線引きと現状の数値を可視化することで、自身が経営者として即座に判断できるだけでなく、社員全員が意識を高めてほしいという思いもあったと杉原は語ります。

 

image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋
こうした柔軟な動きを下支えしているのが、フルクラウドサービスです。数年前からアタラは社内システムのSaaS化に注力しており、特にDomoにデータを集約し、一元的に意思決定できる仕組みを構築していました。SaaSの選定に関しては、もちろん機能や価格も考慮しますが、データの入出力がある程度自動的にできることを意識して選んできたため、営業、コミュニケーション、法務などさまざまなデータが自動的にDomoに集まってきており、経営者としての意思決定がスピーディに行える土台ができていたことも功を奏したと杉原は言います。

 

売上へのインパクトを分析し、迅速にネクストアクションを決定

 

「ヒト・モノ・カネ」の観点では、どのようなアクションを行ったのでしょうか。まず、カネの部分ではコロナの影響による契約の延期・解約も当然あったため、売上にどう影響しているのかを分析する必要がありました。今すぐどうこうという話ではなく、この状態が半年、一年続いた際にどうなるかを分析して、場合によっては融資要請も考えなければならない。そんなときに、事前に行っていたデータの集約化が役立ったと言います。

 

営業データ、マーケティングデータを見ると、この状況では成約率が下がるため、見込み客のリードを増やして成約数を維持する必要がある、つまり、新規リードを増やすためのマーケティング強化を行うという意思決定につながりました。

 

また、コスト削減についても、財務会計データを見るとどこにコスト削減の可能性があるのかがすぐに分かります。

 

営業の分析では、営業損失がどの程度かを迅速に分析できたため、適正な融資額の算出、金融機関への申請をスピーディに行えました。申請が増えて手続きに時間がかかりだした時期よりも前に申請できたのは、迅速にアクションできたことのメリットだったと杉原は振り返ります。

 

image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋

テレワークでも働きやすい環境整備とモニタリング

 

アタラではリモートワーク可能な働き方を創業時から採用してきましたが、一方でオフィスも持っており、例えば週次のミーティング時は皆が出社し、Face to Faceで会議を行うハイブリッド型のリモートワーク体制でした。しかし、今回のコロナ禍により、いよいよテレワーク中心の働き方へと移行しました。本格的なテレワークをスムーズに推進するためには環境整備とモニタリングが必須です。

 

そこで杉原が行ったのは、まずはWeb会議ツールのZoomと電子署名の導入でした。ただ、導入だけしても使い方の周知をしないと社員に定着させることはできません。そのため、RUUUNという社内での動画共有ツールを使い、それぞれの使い方を動画にして投稿し、各投稿のアクセス解析もトラッキング。誰がいつ、どの動画を見たのかが分かるようにしました。

 

Zoomの利用状況の把握に関しても、Domoをフル活用していると杉原は語ります。例えば主催者別のミーティング数や開催時間数をダッシュボード化することで、誰がアクティブなのかがすぐに分かります。有料ライセンスを誰に振り分ければ最も効率よく有意義に活用してもらえるのかも、このダッシュボードで即座に判断できるというわけです。

 

Zoomで誰がどのくらいミーティングを開催しているのかをトラッキングしたダッシュボード(image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋)
 

加えて、社員のメンタル面やテレワーク状況のアンケートを実施し、メンバーの不満や不安、精神状態を分析して個別のZoomでのヒアリングといったアクションにつなげました。在宅での勤務が難しいメンバーがいることも分かったため、サテライトオフィスも導入しました。サテライトオフィスについてもデータを取得し、上限利用時間を超過していないか、少なすぎないかを確認しています。

 

サテライトオフィスの利用状況をトラッキングしたダッシュボード(image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋)
 

特に興味深い取り組みが、GoogleカレンダーとDomoを連携させたオフィス予約システムです。現在自社オフィスでは会議室や執務エリアは事前予約制とし、席間隔を取って「三密」を避けるようにしています。予約はGoogleカレンダーで行いますが、そのデータを取得してDomoでダッシュボード化、予約可能な席が75%以上埋まるとアラートが発せられます。このシステムを作ったことで、今後オフィスを安全に再開させられる実感を持っていると杉原は語りました。

 

自社オフィスの利用状況、社員の密集度合いをトラッキングしたダッシュボード(image:Unyoo.jp Online道場 Vol.3の講演資料より抜粋)
 

取得するべきデータは、業種によってさまざま

 

アタラはコンサルティング企業のためモノに関してはオフィスを継続させるか否かの検討が主でしたが、業種によってはモノについてもモニタリングする必要がありあす。そのために集めるべきデータはさまざまであり、それぞれにあの手この手で収集する方法があります。杉原はいくつかの例を紹介しました。

 

例えば物の在庫や仕入れがある事業では、在庫があるか、パートナー企業や販売チャネルが稼働停止していないかなどをモニタリングする必要があります。売れ筋商品の販売チャネルが止まっていたら、別の商品を立てる、販売チャネルを別のチャネルに振り向けるなどのアクションが求められます。自社だけでなく、販売チャネル、パートナー企業とのデータ連携も今後は必要になってくるのではないかと杉原は言います。

 

他にも、コールセンターの稼働状況や問い合わせ内容の傾向変化、災害対応時の備品チェックなどもダッシュボードでモニタリングすることが、状況変化の兆しをいち早く掴むためには重要です。

 

杉原は、今回のコロナ禍の経験は、センサーやIoT、カメラ、顔・物体の認識システムなどこれまでも「語られてはきたけれど普及に時間がかかっていたテクノロジー」が積極導入される理由付けになるのではないかと考えると言います。こうしたテクノロジーがないと、手作業でのトラッキングはやはり無理があるからです。

 

BCPに対応したダッシュボードを作るコツ

いろいろな備えがある中でも、BCPにおいて特にデータは重要だと杉原は繰り返し強調していました。データをタイムリーに捉え、モニタリングし、意思決定やアクションにどうつなげられるかを考え、そのためにはどういったシステムを導入すべきかを検討することで、良いBCPの取り組みになるはずです。セッションでは、杉原のこれまでの経験から分かったBCP対応ダッシュボードを作る上でのTipsも紹介されました。

 

最初から完全自動化しようとしない

自動化できるものとしづらいもの、データが集まりづらいものがあるため、最初は半自動化、手動で実施して、徐々に自動化していく流れの方が定着化しやすい。例えばテレワーク時のオフィス出社をアンケートフォームのシステムで実施するなど、まずはシンプルな取り組みから始める。

 

APIまたはデータ出力機能のある(できれば自動で外部に出力可能な)ツールを選定する

APIがある企業は、データの出力機能があるツールを選定した方が可視化に取り組みやすい。

 

「アクショナブルな指標か?」を意識する

可視化のポイントはアクションにつながる(アクショナブルな)グラフを作ることだが、意思決定やアクションにつながらないデータは基本的に見る必要はない。

 

「今あるデータ」に囚われない

東京都のオープンデータが良い例だが「こんなデータもあるんじゃないか」という意識で探せば意外と社内外にデータはあるもの。今あるデータの中で完結させようとしなくてよい。

 

シンプルな方法かつ、アジャイル型で作れる人が作る

複雑にせず、なるべくシンプルに。全てを自分でやるとなると多くのスキルが必要になり、プレッシャーもかかるので、できる人を募ってアジャイル型で完成させることが重要。

 

Q&A

 

イベントの後半には質疑応答の時間が設けられ、視聴者から寄せられたいくつかの質問に杉原が答えました。

 

Q : データのバックアップはどのように行っていますか?

杉原 : データのバックアップはBCPの上でとても重要な要素であり、アタラでは三重のバックアップ体制をとっています。Zoho CRM(CRMシステム)が一つ目のバックアップで、それを定期的にDropBoxに保存し(二つ目)、データのコピーをDomoのクラウドに入れて可視化(三つ目)する体制をとっています。

 

Q : 50名以下の規模の事業体で、独立した総務部などの部門がない場合、BCPはどの役割、誰が主導するケースが多いのでしょうか?

杉原 : さまざまな企業のケースを調査しましたが、やはり総務部が多いようです。アタラも50人規模の企業ですが、代表である私がデータ好きということもあり、私中心に行っています。ただ、そういった会社は多くないと思うので、プロジェクトチームを作ることをおすすめします。その際こうしたプロジェクトは全社ごとになるので、上層部のバックアップ、エグゼクティブの方の適切な関与がないとうまくいかないケースが多いです。社員全員の意識を高めることも現場レベルからの啓発では限界があるため、上層部の誰かを味方につけるというのは、大事なポイントです。

今回のウェビナーは、コロナという未曾有の危機に対して、少しでもダメージを少なくするために企業はどのようなデータを集め、活用するべきかについて、アタラの実例を交えながら考えていく回となりました。回の最後に杉原は、普段からデータが身近にあり、すぐに活用できる環境と企業文化を作っておくことこそが、最大の備えではないかと結びました。

 

そのためには普段からデータを柔軟に収集できる環境を作り、アドホックな分析ができる仕組みを持ち、身近なデータで練習しておかないと、有事の際に急な対応はできません。今回のウェビナーが、皆さまの企業のBCP策定の参考になれば幸いです。

 

これまでのウェビナー動画は「Unyoo.jp YouTube公式チャンネル」でも公開中です。

 

第4回のOnline道場は「コロナから学んだ、広告運用者の価値を考える」を6月26日に実施しました。こちらもイベントレポート、YouTubeにて動画を近日公開予定です。どうぞお楽しみに!

Online道場過去開催分のイベントレポートはこちらから





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