リクルートキャリアとサイバーエージェントに聞く、運用型広告がビジネスに与えるインパクト:A future state of AdOps 第3回

リクルートキャリアとサイバーエージェントに聞く、運用型広告がビジネスに与えるインパクト:A future state of AdOps 第3回

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少し先の、広告運用の現在

様々な分野で「当時には想像しにくかった未来でも、振り返ってみると足元では静かにその萌芽が見えていたんだな」と気づくことがあると思います。運用型広告でもそれは同じで、人が日常的に利用するデバイスやメディアは、数年間で目まぐるしく変わっており、その現実に必死に追いつくかのように、広告プラットフォームの進化も続いています。

 

今回の話し手:株式会社リクルートキャリアの松原央達さんと株式会社サイバーエージェントの舟橋健人さんと中野英祐さん

「少し先の、広告運用の現在 〜A future state of AdOps 」というタイトルは、そんな萌芽を目の前の現実から読み取ることはできないか、そんな思いで付けてみました。第3回目の今回は、広告主であるリクルートキャリアと広告代理店であるサイバーエージェントのお二方にお話を伺うことで、運用型広告がビジネスに与えるインパクトについて考えてみたいと思います。

【第1回】はこちら
【第2回】はこちら

株式会社リクルートキャリアの松原央達さんと株式会社サイバーエージェントの舟橋健人さんと中野英祐さん

話し手:
株式会社リクルートキャリア IT戦略室
プロダクトマーケティング部 デジタルマーケティンググループ
松原央達さん(中央)

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部
第1本部3局 Senior Consultant
舟橋健人さん(左)

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部
第1本部 マネージャー
中野英祐さん(右)

聞き手:
アタラ合同会社 取締役CCO
岡田吉弘

※インタビューは2016年6月に行われました。

 

アカウント構造の見直しから始まったプロジェクト

岡田:本日はお集まり頂きありがとうございます。前回グーグルさんにインタビューした際に、自動化を含めた広告アカウントの設計や運用の見直しがテーマになったのですが、実際に現場で成果が上がっている事例をお聞きしたく、本日はお集まり頂いた次第です。最初に背景からお伺いできればと思いますので、自己紹介を含めてお願いできますでしょうか。

株式会社リクルートキャリアの松原央達さん松原:私はリクルートグループの中で「リクナビNEXT」、「リクルートエージェント」といった人材系のサービスを展開する事業会社である「リクルートキャリア」のブランドグループで主にマスマーケティングのプロモーションを担当しています。

現在は動画等を活用したブランディングのデジタライゼーションを主に担当しており、リスティング広告をはじめとした集客施策は別の者が担当しているのですが、運用型広告を見直したタイミングでは私が集客担当をしていました。会員獲得のための運用型広告や純広告を含めたプロモーション全体をディレクションしていました。

岡田:見直しのタイミングでのパートナーはサイバーエージェントさんですよね。

と株式会社サイバーエージェントの中野英祐さん中野:私はサイバーエージェントの中でもインターネット広告事業本部という、広告代理店部門に属しています。役職はマネージャーですが、アカウントプランナーとして広告のプランニングから運用も含めて担当させて頂いています。検索やリターゲティングなどのダイレクトレスポンス系の施策のみならず、松原さんが仰っていたようなデジタルを活用したブランディングのご提案も増えています。

と株式会社サイバーエージェントの舟橋健人さん舟橋:私は中野と一緒にリクルートキャリアさんを担当させて頂いており、実装や分析といった実務面を担当させて頂いています。

他にも複数名の運用担当がおりまして、チームとしてサポートさせて頂いていますが、私が全体を統括するコンサルタントのような役割になりますので、実務面を代表してお話できればと思っております。

岡田:ありがとうございます。今回の見直しプロジェクトは、先ほど仰っていた「リクナビNEXT」と「リクルートエージェント」の2つの事業が対象になるのでしょうか。

松原:今回お話ししたいのは「リクナビNEXT」ですね。KPIは会員登録と応募数で、それを引き上げる目的でプロジェクト化しました。

リクナビNEXT

岡田:なぜプロジェクト化が必要だったのか、背景がありましたら教えて下さい。

松原:端的に申し上げれば、集客に課題がありました。私がプロジェクトにアサインされた当時は、リクルートキャリア内で、広告の効率や会員をもっと増やさなくてはいけないといった課題が挙がっていたのですが、私自身がリクルートキャリアに入社する以前に広告代理店で運用型広告の実務を経験していたこともあり、「じゃあプロジェクトに入ってよ」という感じでジョインしたのがきっかけです。

そのとき会員獲得の主軸になっていたのが検索連動型広告とディスプレイ広告でしたので、当時のアカウントを分析したところ、「伸ばすポテンシャルがあるぞ」と感じたので、サイバーエージェントさんにもご協力頂いて、アカウント構造の見直しを一気に進めました。以前からサイバーエージェントさんとの間でアカウントの見直しについては議題に挙がっていたのですが、実行のところで進んでいなかったため、そのプランを私が引き継ぐというかたちで前に進めたという感じです。

岡田:なるほど。どのあたりを見て「ポテンシャルがあるぞ」と感じられたのでしょうか。

松原:例えば、AdWordsに関して言いますと「インプレッションシェア」がそこまで重視されていなかったんですよ。私は以前からリスティング広告は運用していましたので、アカウントを分析する際はまずインプレッションシェアを確認しました。確認しなければいけない範囲が広いのでグーグルの営業担当の方にもご協力頂いて分析したところ、機会損失が思ったより大きいという状況が見えてきました。こういう言い方をするとネガティブに聞こえますが、その状況は逆にポテンシャルがあるということでもありますので、このポテンシャルを活かすには何をするべきかと考え、一番シンプルかつ効果が分かりやすいのが、アカウント構造の見直しでした。

中野:前回のインタビューで出てきた「GORIN」の考え方と近いですね。これは我々も知っていることなので、リクルートキャリアさん側から仰っていただけるのであれば是非ということで、我々も本腰を入れて進めることになりました。

 

統計的な有意差と、時間の使い方が変わる設計へ

岡田:ちなみに、インプレッションシェアが上がっていなかったのは、何か原因があったのでしょうか。

舟橋:当時の設計では、登録したキーワードに対して適切な広告を返すことを目的として、1広告グループ1キーワードに近いような構造にしていたんですね。ただ、この構造にすることで広告グループ間でマッチタイプの違う同一キーワードが発生してしまいますので、単純に言えばターゲットが重複してしまい、インプレッションの損失が二重計上されているようなレポートになっていました。また、細分化することで広告へ量的な評価が付きにくくなるため、本来想定されるクリック率で広告ランクが評価されていないんじゃないかという仮説も立ちました。

岡田:なるほど。では、統計的な有意差が出るように、意味的に同じ言葉はまとめるなどして、よりキーワードと一致する広告を返しやすくする構造に変えたということですね。

舟橋:そうです。

松原:アカウントのポテンシャル以外にも幾つかプロジェクトを通じて変えたい要素がありました。少し歴史を紐解くと、「リクナビNEXT」はサイバーエージェントさんとお仕事をするようになってから、それ以前と比べて相当パフォーマンスが上がりました。ただ、私が実際に中野さんや他のサイバーエージェントさんのご担当の方と話してみると、入札やレポーティングなどに非常に時間を使っているというお話でした。

個人的には、入札も大事なのですが、結局ユーザーが目にするのは広告ですし、広告とターゲットが合っていれば成果は上がりやすいので、入札ではなく、もっと設計や広告表現などのクリエイティブな分野に時間を使ってほしいということをお伝えして、代理店さんの中で構造的にPDCAが回しやすいアカウント構成にして下さいとお伝えしました。

株式会社リクルートキャリアの松原央達さん

 

結果を出すことで、ムードが変わっていく

岡田:素晴らしいですね。オペレーションに非常に負荷がかかっていた構造から、発展的な仕事に時間を使えるようにチームアップしたということですね。ちなみに、実際に進めるにあたって、それぞれ社内的なチャレンジなどはありましたか? 先ほど、「アカウントの見直しは議題に挙がっていたけれども実行のところで進んでいなかった」というエピソードがありましたが、何か事情があったんでしょうか。

中野:先ほど松原さんに仰って頂いたとおり、我々とお付き合いが始まってから以前より成果は上がっていましたので、運用は大変だけれども良いアカウントだという認識で皆が動いていた背景がありました。グーグルさんのGORINイニシアチブは知っておりましたのでアカウント構造を変えた方がいいかなと思うこともありましたが、前提としては良いアカウントであるわけですし、我々もアカウント構造を変えるメリットとデメリットをうまくリクルートキャリアさん側へ説明できなかったという事情があります。

松原:成果が出ているという認識の下では無理に変える方向には考えがおよびにくいと思うので、これは仕方がないと思います。それより、アカウント構造変更の意思決定をしてからのスピードが早かったので助かりました。

岡田:両者の理解が一致して、様々なことのタイミングがちょうど合ったという感じでしょうか。ちなみに、何かを変えようとするときは色んな抵抗があるのが世の常だと思いますが、今回のプロジェクトではそういうことは何かありましたか?

中野:海外と比較すると、日本のアカウントは構造が非常に細かくて職人技のようになっているところがあると聞きます。その状況が段々と「付加価値は自分にある」と思いこんでしまう要因になっていたのではないかと思います。正直に言いますと、代理店としてはプラットフォーム側の自動化には複雑な立場です。人によっては「要らなくなるのでは」と危機感を覚える立場の人間もいると思いますし、思考の切り替えや新しいことにチャレンジできない人も当然出てきます。「自分が一番プレゼンスを発揮できる分野を機械にとって替わられてしまうのでは」という不安が、プロジェクトの心理的な抵抗になったということはあると思います。

株式会社サイバーエージェントの舟橋健人さんと中野英祐さん

岡田:本音でお話し頂きありがとうございます。それは、きっと運用型広告に携わる広告代理店さんであれば、多かれ少なかれ起きうることですよね。本当は価値の出し方が変わるだけでとって替わられるわけではないはずなのですが、運用の現場では、そういう風に思考してしまう土壌があるということなのかもしれません。

中野:統計的な有意差をもって広告のパフォーマンスを判断していくというのは、運用型広告であれば、Facebook広告のようなソーシャルプラットフォームも含め、当たり前のことだと思います。ただ、それが最も細かいことができて影響力も大きいリスティング広告だと、なかなか動きにくいのかなと思います。

舟橋:現場でも「うまくいっているのに変えてしまうとリスクがあるのでは」といった声が少なからずあったと思います。今でこそ、まずはプラットフォーム理解というコンセンサスがありますが、大きな変更となると作業工数が膨大になることもあり、優先順位が下がっていたケースもあったのではないかと思います。

岡田:結果を出していくことでだんだんムードが変わってきたという感じなんでしょうか。

舟橋:結果を出すと社内で正しい理解のされ方になるので、べき論だけでは進まないケースも、社内の事情を踏まえた上でコミュニケーションできるようになりますので、以前より進みやすくなったというのはあると思います。

岡田:リクルートキャリアさん側ではいかがでしょうか。

松原:リクルートキャリアという会社は常に高い目標を掲げてチャレンジする組織ですので、今回のプロジェクトも、目標の達成にはこれまでの延長で伸ばしていっても間に合わないので、今までと違うことにトライして何とか達成してほしいという旨を広告代理店さんや他のパートナーさんにも求めていました。そのためには我々も変わらないといけないので、ダイレクトレスポンス型の広告だけではなくて、「リクナビNEXT」そのもののUI/UXの改善だったり、メールマーケティングなども含めて今までとは違うことをやらないといけないという状況にありました。ですので、よくある社内の抵抗はなかったように思います。

岡田:やはりタイミングというか、潮目が合ったということなのかなと思いました。「変えないと達成できない」という切羽詰まった空気に、イノベーションの種が潜んでいるということなのかもしれませんね。

株式会社リクルートキャリアの松原央達さんと株式会社サイバーエージェントの舟橋健人さんと中野英祐さん

 

リスティング広告をきっかけにして、全体を見直して、インパクトを出していく

松原:最終的に我々が成果として認識しているのはリスティング広告に限ったことではないんですよ。GORINイニシアチブに沿ったアカウント構成の見直しをきっかけに、もっとプラットフォームのアルゴリズムを理解した上で、今まで職人的なお仕事にお任せしてしまっていたところをもっとサイエンスとして理解して、運用型広告全体を捉え直そうという動きになりました。

リスティング広告がきっかけになって、先ほど中野さんが仰ったように他のプラットフォームもそれぞれの設計思想に合わせて見直しプロジェクトを展開していった結果、最終的には「リクナビNEXT」が始まって以来最も会員数が増加する、という結果を出すことができました。すべての施策を合わせた結果ですが、例えばディスプレイ広告では昨年同月比で会員登録数が約900%増加しました。対してCPA変動は約10%増加に抑えられています。

中野:アカウント構造を見直して、広告がプラットフォーム側に適正に評価される構造にしたことによって、リターゲティング以外のディスプレイ広告も効率が見合うようになってきたんです。それによって一気に広告配信を伸ばすことができ、新規会員数が伸びましたね。

松原:結果が出たので、この取組みは間違っていないと、自信になりました。

舟橋:実業務でも、結果が出ると同時にオペレーションの負荷も大幅に軽減しました。設計時に時間をかけてきれいに構造化してしまえば入札などの工数は大幅に削減できますので、その分を別の施策、例えば検索クエリやクリエイティブの追加など、前向きな施策へ充てることができるようになりました。

岡田:キーワードではなくてマッチドクエリが伸びないとやる意味がないですもんね。

舟橋:アカウントを分けたり、キャンペーンを分けるのって、運用が好きな人だったら楽しいですよね。ただ、アカウントを作品化してはダメだなと思います。

中野:アートじゃなくて、デザインするという感じですね。

 

広告主から、変わっていく。

岡田:今回のプロジェクト成功を受けて、今後の展望があれば教えて下さい。

松原:私が広告代理店から広告主側へ転職してきて感じたことは、広告主側の担当者のレベルが上がらないと変化するのは難しいだろうなということです。何をもってパートナーさんを評価するかにもよりますが、リクルートキャリアはKPIでマネジメントしていく文化ですので、極端に言えば達成しているかしていないかが全てです。そうすると、先ほど中野さんが仰ってくれたように、パートナーである代理店さんは広告主のKPIを無視してまで論理的な正しさを押し通すメリットはまったくないですから、広告主の担当者自身が変わらない限り、変革は起きにくいと思います。

私は現在は異動してデジタルを活用したブランディングに取り組んでいますが、このプロジェクトの成功による学びを展開できるように、パートナー企業のみなさんと一緒に考えながら進めていきたいと考えています。ブランディングの領域をちゃんと科学したいです。

中野:他の代理店さんがどうかは分かりませんが、少なくともリクルートキャリアさんと我々の取り組みにおいては、プラットフォームやメディアの方々と三者ミーティングをして進めることが増えてきました。ステークホルダー全体で合意が取れてからスタートできますので、プロジェクトが前に進みやすいです。結果が出ないと意味がありませんので、この流れを維持して、価値を出し続けていきたいと思います。

舟橋:オペレーションの負荷を下げながらパフォーマンスを上げていく事例がどんどん増えてきていますので、自動化を味方につけながら、空いた工数でより本質的な課題解決を図っていければと思います。

岡田:貴重なお話、ありがとうございました!

株式会社リクルートキャリアの松原央達さんと株式会社サイバーエージェントの舟橋健人さんと中野英祐さん


次回(最終回)は、広告運用が企業経営に与えるインパクトについて考えていきます。 最終回(第4回)はこちら

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