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ad:tech SFは最後、ロサンゼルスに移る
5月後半にad:tech SanFrancisco 2015に参加してきたので、きょうは簡単にレポートしたい。
今年の ad:tech SF は、5月20-21日に米国サンフランシスコの MOSCONE CENTER で開催された。
ad:tech とは何か?(こちらのウェブページに紹介あり)については、広告業界で数年以上働いている人なら知っているはずだが、簡単にいえば、広告業界のカンファレンスでアドテクノロジーに焦点を当てている。主催者は、dmg::events USAだ。
私自身は、ad:tech SF に参加するのは今回で3回目で、前回参加したのは、たしか、2005年だった記憶している。なので、約10年ぶりの参加だった。
久しぶりに参加して最初に感じたことは、規模が小さくなったな、ということだった。
私の記憶では、昔はブースの出展社数が2倍ぐらいあったように思った。この点について、dmg::events のスタッフに質問してみると、たしかに、ad:tech SF は意図的に規模を縮小したとのこと。しかも、ad:tech SF は今年で最後だという。ただし、来年(2016年)からロサンゼルスに場所を移し、ad:tech LA としてリニューアルし、再度、規模を拡大していくということだった。
次に感じたのは、登壇者の顔ぶれがだいぶ変わったな、ということだ。
10年前は純粋にアドテクノロジーのイベントという感じが強かった。しかし、今回の登壇者をみていると、アドテクノロジーというよりは広告とメディア業界のイベントという色彩が強くなったと思う。
たとえば、Google や Microsoft、Twitter、Facebook などIT系ベンダーからの登壇者だけでなく、The Wall Street Journal や MTV、Hulu、BuzzFeed など新旧メディア企業、Taco Bell(飲食)やMacys(デパート)、Wells Fargo(銀行)、Charles Schwab(証券)など多彩な広告主からの登壇者も多数いた。
そういう意味では、アドテクノロジーにあまり詳しくない人も楽しめて、かつ、学びの多いイベントに変わったと思う。つまり、一般化した。
ad:tech NYとLAで東西のメディア拠点を抑えにきたな
このad:techが一般化してきたことと、来年からロサンゼルスに移動することは無関係ではないようだ。
サンフランシスコは、シリコンバレーに近くてインターネット系やIT系の企業文化を育んできた。そのため、アドテクノロジーという情報を発信するには最適な場所なのだ。
しかしながら、デパートや銀行、証券などのリアル店舗をもつビジネスでも、あるいは、新聞やテレビなどの旧来型のメディアであっても、インターネットやアドテクノロジーを利用するのが当たり前になった。
それを踏まえると、サンフランシスコにこだわるよりも、ハリウッドがあり、かつ、映画やメディア企業が多数集まるロサンゼルスに場所を変えて拡大した方が、現在では意味がある。ad:tech はニューヨークでも開催されており、ad:tech NY と ad:tech LA で、東海岸と西海岸のメディア拠点を抑えることになる。
トレンドは次の3つだ
今回の ad:tech SF で私の記憶に残ったのは、?「attention span」?「micro-moments」?「non-human traffic」の3点だ。
attention spanとは?
?「attention span」を日本語に訳すと、「注意を継続できる時間」「集中力が続く時間」という感じだろうか。
「BEYOND MILLENNIALS: GENERATION Z AND WHERE THEY ARE TAKING MARKETING」というセッションでは、GENERATION Zという、概ね1990年代以降に生まれた世代の attention span がどんどん短くなっていることをテーマに話が展開された。
テレビを持っていなくてスマホで瞬間的にコンテンツを消費する傾向が非常に強い世代らしく、attention span は5秒程度だといわれている。この GENERATION Z に対して効果的にマーケティングをおこなうにはどうしたらいいのか? さまざまな意見がでたが、まだ確立されたものはないようだった。
また、「THE RISE AND FALL OF SHORT FORM VERSUS LONG FORM CONTENT」というセッションでも、attention span が短くなっていることを主題に話が進んだ。
アメリカでは多くのマーケターが attention span の短縮傾向を懸念しているようで、このままでは、テレビの60分番組などは、ほとんど見られなくなってしまうのではないか?という極端な意見もあるようだ。
そのような中で、Virgin America の「Blah Airlines」という事例が紹介された。この例では、5時間46分もある動画「Have you been flying BLAH Airlines?」が紹介されたのだが、これが面白くて、かなりシェアされて、成功したとのことだった。
こんなに長いコンテンツでも成功するのだから、短ければいいということもないし、長ければいいということもない。大事なのは、「creativity as content」だと話していた。
「creativity as content」は直訳すると、「コンテンツとしてのクリエイティビティ(創造性)」となるが、おそらく、「コンテンツとして成り立つ、楽しめる、意味のあるクリエイティブ作品を作ること」が大事だということだと思う。
そして、そのためには、「weigh the targeted audience」(ターゲットオーディエンスのことを十分に考慮)した上で、「content platform」と「content type」、「content occasion」を検討すべきだと勧めていた。
「content platform」とは、テレビ、YouTube、Facebook、Twitterなどのコンテンツをのせるプラットフォームのこと。
「content type」とは、ビデオ、ディスプレイ、テキストなどのコンテンツのタイプ。
「content occasion」は、英語で「the reason for creating the idea」と解説していたが、どのような理由でクリエイティブを作るのか、つまり、誰に対してどんなメッセージを発信したいのか?ということだと思う。
そして、最終的には、コンテンツが短いとか長いとかよりも、「change behavior」(行動の変化)、「change attitude」(態度の変化)を引き起こさないと意味がないとしていた。まぁ、それはそうだ。至極当然な話なのだが、言うは易し行うは難しというところだろうか。
micro-moments とは?
つぎに、?「micro-moments」についてだが、これは「ちょっとした瞬間」という程度の意味だと思う。
「Keynote Presentation: New Consumer Journeys >> New Product Roadmaps」において、Googleの広告とコマース部門のシニアバイスプレジデントである Sridhar Ramaswamy が「micro-moments are big opportunities for marketers」「mobile is a driver of this change」と話していた。
つまり、スマホの出現でちょっとした瞬間の情報ニーズに対して対処できるようになったので、これがマーケターにとっても非常に大きなチャンスになっているということだ。
この「micro-moments」を上手に捉えて「right message at right time」(ちょうどよい時にちょうどよいメッセージ)を発信することができるかどうかに、今後のマーケティングの成否がかかっているといっても過言ではないだろう。
GoogleにはGoogle Nowというプロダクトがあって、この「micro-moments」の思想を反映している。Google Now紹介動画があるので、ぜひ参考に見て欲しい。
Sridhar Ramaswamy は「intent behind micro-moments」(ちょっとした瞬間に潜む生活者の意図)をきちんと把握することが非常に大事だと強調していた。そして、つぎの3つの点を意識するように勧めた。
1: identify the moments to win(勝てる瞬間を識別する、つまり、ビジネスにつながる瞬間を認識するということ)
2: deliver on the needs in the moments(その瞬間のニーズに沿ってメッセージを配信する)
3: measure the moments(そして、その瞬間の効果を測定する)
とくに3つ目の効果測定については、「mobile is connected with the experience of desktop」(デスクトップPC上での経験とスマホは連携している)として、クロスデバイスでの効果測定(クロスデバイス・アトリビューション)をおこなっていく必要があると話していた。
特に私の印象に残った言葉は、「mobile makes life addressable」だ。スマホによって生活者の生活に合わせて情報を届ける(addressable)ことができるように変わった、という意味だと思う。この変化は、本当に大きいんだろうな、と感じたセッションだった。
この「micro-moments」というテーマは、「WATCHES, BRACELETS AND BRAS: WHERE SMART WEARABLES ARE GOING」というウェアラブルに関するセッションでも扱われていた。
ウェアラブルによって「the moments of needs will be addressed」(需要が生じる瞬間にあわせて情報を届けることができるようになる)として、Sridhar Ramaswamy の話と同様の「micro-moments」の重要性が語られていた。
connected generation の示唆するインパクト
私は上記のセッションに登壇していた Kiip の CEO、Brian Wong の話が気に入った。彼は「connected generation」という単語を使って、すべての人々がスマホやウェアラブルによって繋がった世界が訪れるとみていた。
私の解釈では、「connected generation」の世界では、瞬間的な情報ニーズにきちんと対応することでブランドの価値が上がっていくし、生活者とのエンゲージメント(関係構築)もできる。逆にいえば、瞬間的な情報ニーズに対応することができず、生活者とのエンゲージメントを確立できないブランドは、その存在すら忘れ去られていく。なぜなら、生活の中に入り込んでこないからだ。自分の生活の中に入ってこないブランドはあってもなくても同じことになる訳だ。そう考えると、ちょっと怖い話だなぁと聞きながら感じた。
non-human traffic は?
最後に、?「non-human traffic」についてだが、ちょうど今回一緒に参加した江端浩人氏が秀逸なコラム(http://www.advertimes.com/20150528/article193120/)を書いている。これをぜひ読んでいただきたい。
井の中の蛙にならないように
さて、今回のad:tech SF 2015 に参加して思ったのだが、日本からの参加者もいるのだけれども、若手が少ないということ、それから、大手企業の参加者が少ないことが気になった。
20代から30代前半ぐらいまでに、このような大きな海外の業界イベントに触れることは非常に重要だ。広告業界は昔は Domestic(国内向き、内向きの)業界だったと思うが、いまはあきらかに海外の、特に、アメリカの技術的進化の影響を受けている。
大手広告主企業も、大手広告代理店も、もっと積極的に若手を送り込んで、真摯な姿勢で学び続けていくべきだろう。井の中の蛙にならないためにも。