BIツールの前に必要なKPIマネジメントの基礎知識 後編:KPI設定の重要ステップ

BIツールの前に必要なKPIマネジメントの基礎知識 後編:KPI設定の重要ステップ

アタラ BIツール導入コンサルティングサービス

KPIの設定をする際におすすめしたい具体的なSTEPを紹介

※本記事は、アタラ合同会社 Official noteにて公開中の記事を転載したものです。

こんにちは。アタラ合同会社コンサルタントの村田直哉です。

先日、「KPIマネジメントの基礎知識:前編」ということで、KPI設定に入る前に押さえておくべき基本概念について紹介をしました。

今回の記事では、実際にKPIの設定をする際におすすめしたい具体的なSTEPを紹介したいと思います。

効果的なKPIマネジメントのための10のSTEP

効果的なKPIマネジメントに必要な手順は、全部で10STEPにまとめることができます。

効果的なKPIマネジメントに必要な10STEP

この10のSTEPはさらに、
STEP1~2:事前準備・前提の確認
STEP3~6:KPIの数値設定・具体化(図の赤色部分)
STEP7~10:運用に向けての事前確認・運用方法

と、フェーズ別に大きく3つに分類することができます。

今回の記事ではその中でも、私たちが日々コンサルティングをしている中で特につまずいているケースが多いと感じている「STEP3~6:KPIの数値設定・具体化」に絞って、ポイントをまとめてみました。

イメージしていただきやすいよう、具体的な例として、私が以前の会社で取り組んでいた「人材マッチング」のシーンであればどうなるかを挙げています。

ぜひご自身の事業・業務ではどうかをイメージしていただきながら、読み進めてみてください。

 

STEP3:プロセスの確認

「なんとなくのKPI設定」にしないためにはまず、対象とする事業のプロセスを十分に理解しておくことが大切です。

「当たり前すぎる!」というツッコミが来そうな内容ですが、KPIの取り組みを進めていった際に、
「軌道修正・KPIの再設定をする必要が出てきた」
「他部署にも取り組み内容を理解してもらう必要がある」

といったとき、そもそもの出発点を分かりやすく把握できるようにする、という意味合いにおいてもとても大切なSTEPです。

プロセスの確認は、自社の事業内容を数式に置き換えて整理することで、スムーズに行うことができます。「プロセスの確認=モデル化」とも言い換えられるかもしれません。

KPIマネジメント プロセスの確認=モデル化

たとえばKGIが「利益」であれば、
利益=売上ー費用
となります。

ここまでは簡単ですね。ではさらに深堀していきます。

今回は売上と費用のうち、売上に絞って整理を進めてみます。

ここからは個々のビジネスモデルによって様々と思いますが、例えば人材マッチングでは、
売上=契約数×案件単価
という掛け算の形式に整理できます。

さらにもう一段階分解すると、
契約数=案件紹介数×CVR
と表すことができます。

ここまでの分解を整理すると、
売上=案件紹介数×CVR×案件単価
となり、

● 利益を増やすには、売上を増やすことが必要
● 売上を増やすには、「案件紹介数」「CVR」「案件単価」のいずれか(または、いずれも)を増やすことが必要

という構造になっていることを、まずは確認することができました。

 

STEP4:CSFの絞り込み

STEP3までで、KGIの数字をつくる構造を分解することができました。

次のSTEP4では、分解した各要素のうち、どれを有効なターゲット(=CSF)とするか、の絞り込みを行います。

売上を増やすには「案件紹介数」「CVR」「案件単価」のいずれかを増やすことが必要、となった場合に、どこを特に注力して伸ばしていくかを設定するということです。

この絞り込みのプロセスは、さらに3段階に分けて行うことが有効です。

KPIマネジメント CSFの絞り込み

 

変数と定数に分け、定数はCSFから除外する

まず分解した各要素を、変数と定数に分類します。
ここでいう変数とは「変動が起こるもの、コントロール可能なもの」、定数は「固定されており、コントロールがきかないもの」のことを指しています。

● 紹介案件数、CVRは担当者の施策や努力によって動かすことができるもの:変数
● 案件単価は料金テーブルが決まっており、基本的には変更ができないもの:定数

というようなイメージです。

前回の記事で、「CSFはコントロール可能であることが大事」と書いていた通り、CSFとして選択するのは変数であるべきです。

「案件単価を上げるのは実現が不可能なため、KGIには確かに繋がるものではあるが、目標として追いかけるべきものではない」というとイメージがしやすいと思います。

 

変数の中からCSFを選択する

残ったコントロール可能な要素:変数の中から、注力すべき項目を決定します。

ここでも、「コントロールがより可能なものであるか、現実的であるか」が基準になってきます。

紹介案件数の増やすには、営業力の強化・営業の人員増加 などが考えられますが、予算の兼ね合いや教育にかかる期間などを考えると、難易度が高いかもしれません。

であれば、最もコントロールが可能で優先的に取り組むべきなのはCVRである、と自ずと導かれていきます。

 

アクションの取りやすい段階までCSFの解像度を上げる

「CVRが注力すべき点だ! さあこれを伸ばしていこう!」となっても、具体的にどうすれば良いかがわからないままだと、そこで歩みが止まってしまいます。

ですので、さらにCSFを深堀して解像度を上げておくこと、つまり「CVRを良くするにはどうしたらよいか」をリストアップして考えてみることが必要です。

この段階まで来たら、過去の実績データの分析や、実際に現場の業務にあたっている方へヒアリングするなど、より実際の動きを理解しながら考えていくとよいかもしれません。

CVRを向上させる取り組み内容を「認知向上のためのPR施策を打つ」「利用しやすいようにUIを改善する」「紹介時に複数案件を同時に紹介する」などの、具体的な行動レベルにまで落とし込んでリストアップし、その中から最重要CSFを選定していくという流れです。

 

STEP5:具体的な目標値の設定

CSFとして具体的な行動・施策の絞り込みができたら、あとはそれを数字に置き換えることで、いよいよKPIの設定が完了します。

KPIマネジメント 具体的な目標値の設定

例えば、STEP4で上げたCVR向上のための取り組みのうち、「紹介時に複数案件を同時に紹介する」をCSFとして選択したとすれば、
「月間に●件の案件の同時紹介を●人に行う」がKPIの形式になります。

それぞれの●に入る数値の設定は、KGI達成に必要な量を実績データから逆算して定めていくことが有効です。

例えば過去の実績から、
● 同時の複数案件の紹介は、多すぎても少なすぎてもダメで、「同時に3件紹介」が最も狙い目である
● 同時に3件紹介した場合の過去の平均CVRは33%である

という傾向があったとします。

その上で、仮に目標売上金額が1000万円で、平均の案件単価が10万円だったとすると、

CVR33%からの割り算で、
1000万÷10万÷0.33=303.0303…
必要な紹介人数は303人と算出でき、
KPIは「3案件同時紹介の月間実施人数:303人」と定めることができます。

「CVRを33%まで上げることを目指す」よりも、「303人に3件紹介する」のほうが、とるべきアクションが明確で、取り組みやすいKPIであることがわかると思います。

 

STEP6:運用性の確認

ここまでのSTEPでKPIが算出できましたが、この段階ではまだ仮設定の段階です。

STEP6として、この指標をKPIとして本当に良いのか?を念のため確認しておきます。

ここでの確認の基準は「整合性」「安定性」「単純性」の3点です。

KPIマネジメント 運用性の確認

 

整合性

整合性の確認とは、「そのKPIを達成すると、本当にKGI達成に繋がるか」の確認のことです。

計算ミスをしていて、実際には303人ではなく400人必要だった、と後から判明すると大きくモチベーションが低下してしまいます。こうしたことを防ぐために、念のために再確認をしておきます。

また、「3件を同時紹介すると手間が増えるので、これまでの紹介ペースを維持できない」など、新たな取り組みをすることで出る影響の程度を想定しておくことも、見通しができる範囲で行っておきたいところです。

 

安定性

安定性の確認とは、「その数値データを安定して取ることが可能か」の確認のことです。

「同時に紹介している案件数を記録していない」「データ集計に時間がかかり、月に一度しか実績確認ができない」などがあれば、記録の仕方や集計方法を見直す必要があります。

また場合によっては、確認できないのでKPIとしてNGとしなければならないケースもあります。

KPIを設定してみたものの、到達度合や進捗の確認ができないと、評価が行えません。安定して確認が行えるかは、必ず押さえておくべきポイントです。

 

単純性

単純性の確認とは、KPIの設定ロジックと、KPIそのものが単純であるかの確認のことで、一言でいうと「関係するメンバー全員が理解できるほど、シンプルか」です。

「3案件紹介を303人に行う」ことについて、実は「男性で、●歳以下の人で、××の特徴のある人」と更にターゲットを絞り込んだ方が高いCVRが狙える、という実績があったとします。

これをもとにしたKPIでは、あまりに条件が細かくなり確認やアクションが面倒になってしまい、長期的な運用には向きません。

また「月間で303人」についても、メンバー全員が日々意識しやすい目標にするには、「キリ良く300人!」としてしまってもよいかもしれません。

「KPIを追いかけるメンバー全員が納得・記憶し、意識を高めることができるか」を軸に、確定前に確認しておくべきポイントです。

 

おわりに

このようなSTEPを通じて、より良いKPIの設定に近づけることができるはずです。

ですが最後にお伝えしたいのは、

KPIは、必ずしも「一度定めたら達成するまで目指し続けるべきもの」ではないということです。

事業の初期段階では量を、安定してきたら効率性を、というように、定めたKPIを定期的に振り返り、事業のフェーズや状況に合わせて軌道修正をしていくことも重要です。

今回の細かなステップを、最初からスムーズに進めることは難しいかもしれません。ですが、KPIの再設定を何度も繰り返していくうちに、自然と取り入れながら進めることができるようになると思います。

KPIの数値算出がうまくできない、またKPIの設定をしてはいるもののなかなか成果に繋がらない、と悩まれている方は、ぜひ今回の記事の内容をご自身の業務に重ねて、実践してみていただければと思います。

 

※当記事の内容、所属、肩書きなどは、記事公開時点のものです。

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