Google 広告、ショッピング広告のリバースエンジニアリング:SMX Advanced 2017イベントレポート

Google広告、ショッピング広告のリバースエンジニアリング:SMX Advanced 2017イベントレポート

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検索エンジンマーケティングをテーマにした大規模イベント「SMX(Search Marketing Expo)」の上級者向けカンファレンスである「SMX Advanced」が2017年6月13・14日の2日間にわたり、米国西海岸のシアトル市で開催されました。

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会場はBell Harbor International Conference Center。ダウンタウン中心地に近い、プージェット湾が一望できるこの会場で、SEO、検索連動型広告に関する最新情報を求めて世界中からSEM 従事者が集まってきます。

会場のエントランス

初日のSEOキーノートセッションの様子

今回、筆者は本カンファレンスに初めて参加しました。2日間にわたって数多くのセッションが行われていましたが、その中でも特に興味深かったのが、”The Mad Scientists Of Paid Search”(検索連動型広告のマッドサイエンティストたち)です。本カンファレンスの中でも毎年人気のセッションのようで、公式サイトでは以下のように紹介されています。

While most of us spend our days toiling away in the deepest details of paid search campaigns, the Mad Scientists of paid search are running experiments, testing regression models and analyzing larger trends to unlock the fundamental secrets of paid search auctions, attribution, economics and search behaviors.In this perennially popular session, you’ll hear directly from distinguished marketing scientists as they present their latest discoveries, insights and knowledge you can test out for yourself.

私たちのほとんどが検索連動型広告キャンペーンの奥深い世界に苦心している一方、マッドサイエンティストたちは、オークションや、アトリビューション、その世界の経済や振る舞いといった重要な秘密を解き明かすために実験を繰り返し、回帰モデルをテストし、大きなトレンドの分析をしています。長く人気のある本セッションでは、洗練されたマーケティングサイエンティストたちから、参加者も実際に試すことができる彼らが最近発見したこと、得たインサイトや知識を直接聞くことができるでしょう。

 

今回は3名がマッドサイエンティストとして登壇しましたが、Crealytics のCEO であるAndreas Reiffen(以下Andreas) の “Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested”(Google ショッピング広告のリバースエンジニアリング – 10の仮説を検証) は非常にエキサイティングな内容で、個人的には本カンファレンスのハイライトとなりました。以下では本セッションの内容の一部を紹介していきたいと思います。

3名のマッドサイエンティストたち(写真一番右がAndreas)

※本セッションの記事化にあたり、Andreas Reiffen から内容の引用について承諾を頂いてます。This article quotes contents from the session “Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested”, and we have permission to quote from Andreas Reiffen, Founder & CEO of Crealytics.

10の仮説を検証

Crealytics はドイツに本社を構える検索連動型広告ならびにGoogle ショッピング広告(以下ショッピング広告)の最適化ソフトウェアを提供するベンダーならびにエージェンシーで、グローバルで事業を展開しています。

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Crealytics のクライアントのショッピング広告への年間投資額は総額で約1億ドルとのことですので、ショッピング広告に関する膨大なデータが集まってくることが伺えます。クライアントのショッピング広告への投資額が年々増えていることからその重要性を察知し特に力を入れているようですが、テキスト広告と比較してオークションのメカニズムはブラックボックスな部分が多いと感じており、今回の検証を実施したとのことです。

Andreas は以下10の仮説を検証し、本セッションではそのうち7までの検証結果を紹介していました。

1. A very granular account structure harms performance
2. SKU Price mainly influences CTR, but not impression volume
3. Product price determines an ad’s position
4. Bids are the most important factor for generating more traffic
5. Titles are the most important feed element
6. Changing titles leads to a loss of history and therefore a loss of traffic
7. ECPC uses audience information to predict conversion probability
8. Raising bids in Shopping increases share of less relevant Search Terms
9. Matching between query and product is purely based on text match
10. Out of stock products should remain in feed or history is lost

特に1~4の検証結果は非常に興味深かったので、以下でご紹介いたします。

アカウント構成の粒度はパフォーマンスに影響しない

まず最初の仮説は “A very granular account structure harms performance”(非常に細かいアカウント構成はパフォーマンスを低下させる)です。以下のAdWords ヘルプページでは、効果的なショッピングキャンペーンの作成と最適化のティップスのひとつとして、最初は大まかなグループで分け、その結果を受けて必要に応じて細分化することが紹介されており、Andreas はこのことを指しているのでしょう。

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本仮設を検証するために、1)すべての商品をひとつの商品グループに纏める(All in one)、2)商品ごとに商品グループを分ける(All their own)、3)5クリック以上獲得した商品とそうでない商品を別々の商品グループに分ける (From 5 clicks)、という3パターンで、インプレッションした商品点数ならびにインプレッション数の合計を比較、その結果が下記となります。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested

3)5クリック以上獲得している商品とそうでない商品を商品グループに分けた場合が、インプレッションした商品点数ならびにインプレッション数の合計が最も多かったものの、他のパターンとの差異はほとんどなく、アカウント構成はパフォーマンス(インプレッション数)にほとんど影響しないと結論づけていました。

一方で、拡張CPCや目標広告費用対効果(ROAS)のAdWords スマート自動入札を適用する場合は、最適化を進めるにあたって1 つの商品グループが週に 200 件以上のクリックを獲得するように構成することが推奨されているため、別途検証が必要であることも補足していました。(このことから、本検証においては個別クリック単価を使用していたことが伺えます。)

参考:

価格の5%値上げによりクリック数が60%減少

2つめの仮説は “SKU Price mainly influences CTR, but not impression volume”(SKU の価格は主にCTR に影響するがインプレッションボリュームには影響しない)です。Andreas は下記asics の事例をあげ、Google 商品カテゴリでスニーカーに分類されるある商品の価格を5%値上げしたところ、値上げ前と比較してクリック数が60%減少するという現象がみられたことから、本仮設を検証したといいます。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested

具体的には、1つのEC サイトが取り扱う商品を、1)市場平均より5%以上価格の高い2,000の商品グループ(以下expensive products)と、2)市場平均より5%以上価格の安い2,000商品のグループ(以下cheap products)で分け、それぞれの商品グループのパフォーマンスを比較して検証、その結果が下記となります。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested

CTR はexpensive products とcheap products でほとんど変わりませんが、インプレッション数(Imps)に関してはcheap products がexpensive products と比較して134%も多く、非常に大きな差がみられたとのことです。

すなわち、”SKU Price mainly influences CTR, but not impression volume”(SKU の価格は主にCTR に影響するがインプレッションボリュームには影響しない)という仮説は証明されず、実際は “SKU Price mainly influences impression volume, but not CTR”(SKU の価格は主にインプレッションボリュームに影響するがCTR には影響しない)という結果が出たということになります。

CTR はほとんど変わらないことから、インプレッション数の差異≒トラフィックの差異となりますので、価格の安い商品の方が価格の高い製品と比較してトラフィックを獲得しやすいことになります。

インプレッション数の差は広告の掲載順位によるもの

仮説2の検証により、価格の安い商品は高い商品と比較してインプレッションボリュームが大きい傾向にあるということがわかりました。では、CTR(≒品質スコア)がほとんど変わらないにも関わらず商品の価格によってこのような差が出るのはなぜでしょうか?その仮説をAndreas は “Product price determines an ad’s position”(商品価格は広告の掲載順位を決定する)と設定し、実際に検証したとのことです。

具体的には、仮説2の検証の際に使用した2つの商品グループの検索クエリ合計4,000件を入力し、各クエリごとに表示されたショッピング広告の中で最も安い商品の掲載順位を商品グループごとに検証するというものです。その結果、下記のように最も安い価格を表示した広告が両商品グループ(Set 1とSet 2)においても60%以上掲載順位が1位(Pos 1)との結果が出たとのことです。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested

商品価格以外で広告の掲載順位に影響を与える大きな要素として、Andreas は販売者評価(Seller Rating)の有無をあげています。下記の例では、最も商品価格の安い “Surfdome DE” の掲載順位は7位となっていますが、この理由として販売者評価が表示されていないことが考えられるといいます。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested
 

入札単価を上げるのではなく商品価格を下げる

ここまでの検証で、商品価格が安い方が広告の掲載順位が1位になりやすく、結果としてインプレッションボリュームが価格が高い商品と比較して大きくなることが明らかになりました。では、入札単価はインプレッションボリュームにどれほど影響するのでしょうか。

価格の安い商品グループと高い商品グループに同様の入札単価を設定し、徐々に入札単価をあげていくことで “Bids are the most important factor for generating more traffic”(入札単価はトラフィックを獲得するのに最も重要な要素である)という仮説を検証した結果が以下となります。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested

縦軸左が1商品ごとのインプレッション数、縦軸右が入札単価(上限CPC)となります。上記の通り、入札単価を段階的に引き上げていったところ、価格の高い商品のインプレッション数と入札単価には相関関係がみられたものの、価格の安い商品に関しては入札単価が0.8ドルあたりからインプレッション数が高止まりしています。

また、価格の安い商品は最初の段階から価格の高い商品と比較して非常におおきなインプレッションボリュームがあります。このため、入札単価を1.2ドルまで引き上げてもインプレッションボリュームは逆転していません。

入札単価を引き上げることにより、インプレッションボリュームに多少の増加はみられました。では、入札単価を変えずに商品価格のみ変更した場合、インプレッションボリュームにどれぐらいの影響が出るのでしょうか。それを検証した結果が下記となります。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested

具体的には、最も安い商品の価格を同カテゴリーの最も高い商品の価格まで引き上げ、価格変更前後でのインプレッションボリュームをみるというものです。上記の通り、価格を値上げしたTest グループはインプレッション数が59%減少、価格の変更をしていないContorl グループを含むアカウント全体のインプレッション数は同期間に12%増加していることから、価格の変更はインプレッションボリュームに非常に大きなインパクトを与えたことがわかります。

Andreas は上記の検証結果をもとにさらに議論を展開させ、入札単価を引き上げてショッピング広告への投資額を増やす(下記の1 “Primarily invest in Google budget”)よりも、入札単価はそのままで商品価格自体を下げる(下記の2 “CPCs, cheaper products”)方がより多くのトラフィックの獲得につながり、結果として同じ利益で売上を拡大することができる(下記 “Resulting revenue”の2)ケースがあるといいます。

Image source: Reverse Engineering Google Shopping – 10 Hypotheses Tested
 

商品価格にメスを入れるという斬新な着眼点

以上、特に興味深かった4つの仮説の検証結果をご紹介してきました。時間の関係でセッションでは仮説8~10の検証結果は紹介されませんでしたが、その他の仮説についても以下SlideShare で資料が公開されておりますので、興味のある方はぜひダウンロードしてみてください。

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もちろん、仮説の検証においては突っ込みどころもあります。例えば仮説2の検証では、価格の高い商品も低い商品と同じ入札単価が設定されている場合、競合が価格の高い商品に対してより高い入札単価を設定していれば、広告ランクによるインプレッション機会の損失が発生する可能性があります。結果として、価格の高い商品が安い商品のインプレッション数を大きく下回るのは十分想定できます。

しかしながら、入札単価や商品フィードの最適化といった広告運用者側で調節できる項目ではなく、広告主の商品価格を最適化の要素として組み込んでしまうという考え方は初めて聴くもので非常に斬新でした。引き続きテストは必要とのことでしたが、将来的には商品価格も含めてショッピング広告を設計・運用するという時代がくるかもしれません。

海外カンファレンスへ積極的な参加を

筆者は本セッション以外にもSEM 関連のセッションを中心に参加してきましたが、除外設定も含めたターゲティングの具体的手法や、検索連動型広告とソーシャルキャンペーンの併用、顧客ペルソナの構築やパフォーマンス分析の考え方等、戦略から戦術に関する内容が非常に幅広くかつバランス良くカバーされていた印象を受けました。

もちろん既知のものも多く、日本にいても入手できる情報があったのは事実ではありますが、本場の米国でのトレンドを肌で感じることはできましたし、なかば非日常の環境の中で、普段使う言語とは違う言語で情報に触れることで、これまでとは違った視点で広告運用、マーケティングに関して考えることができた良い機会でした。

日々の業務でなかなか海外カンファレンスに参加する時間を取れないという方もいらっしゃると思いますが、参加できる環境があるのであれば、ぜひ一度参加することをおすすめいたします。筆者も今後定期的かつ積極的に海外カンファレンスに参加していきたいと思います!(以下記事では2017年下半期に開催される海外デジタルマーケティングイベントを纏めておりますので参考にしてみてください。)

参考:

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