Cookie規制によるシグナルロスの深刻化、CPA至上主義の限界。現代のデジタルマーケティングは、これまでになく大きな転換期を迎えています。このような状況下で、株式会社Algoageが提唱する「チャットマーケティング」が、新しい顧客理解と獲得のソリューションとして注目を集めています。顧客の「本音と建前」の間に隠されたインサイトをLINEを活用して引き出し、離脱寸前のユーザーを確実に顧客へと転換させる独自の仕組みとは。Algoageの執行役員成田穂高さんに、チャットマーケティングの概念と、それを実現する「DMMチャットブーストCV」のサービス内容、導入成果や今後の展望までを伺いました。
話し手
株式会社Algoage
執行役員 兼 チャットブースト事業部事業責任者
成田穂高さん
聞き手
アタラ株式会社
代表取締役CEO
杉原剛
目次
新しいマーケティング手法「チャットマーケティング」を展開するAlgoage
杉原:まずは自己紹介をお願いします。
成田:キャリアの始まりは、新卒で入社したソフトバンク株式会社の法人営業でした。入社して一年半たったタイミングで事業の旗振りをしてみたいという思いから、株式会社サイバーエージェントに転職し、AI事業本部でダイナミックリターゲティングのDSPを責任者として立ち上げました。
その後、Retty株式会社に転職し、サプライサイドを超えて、パブリッシャー側からの広告を使ったマネタイズに取り組みました。プログラマティック、アフィリエイト、純広告など「来訪していただいたユーザーをいかにして広告という手段を用いてマネタイズするか?」を徹底的に考えていました。
Algoageには3年前に入社しました。当時は正社員がまだ10人程度、事業が始まって半年ほどだったので、なんでもやっていたという状況でしたが、2024年3月に事業責任者と営業部門長に就任、9月に執行役員となりました。今はDMMチャットブーストCVという事業を統括しています。
杉原:御社についてもご紹介ください。
成田:当社はもともと、東京大学の人工知能研究で有名な松尾研究室の出身者2人が立ち上げた会社です。当初はAI受託事業を中心に行っていましたが、2021年からはSaaSプロダクトの開発に取り組み、現在の主力事業「DMMチャットブーストCV」が誕生しました。DMMチャットブーストCVは、チャットを活用した新しいマーケティング手法を実現するサービスです。その手法を私たちは「チャットマーケティング」と呼んでいます。
杉原:ちなみにDMMとはどのような関係になるのですか。
成田:DMM.comは「領域とわず、何でもやる」企業姿勢で「未来を感じるビジネスにはひとまず投資」をしています。当社もその出資を受けている100%子会社です。
チャットマーケティングの概念と価値
杉原:では、DMMチャットブーストCVについて教えてください。そもそもこのチャットマーケティングとは具体的にどういうものなのでしょうか。
成田:チャットマーケティングとは「顧客を理解し、顧客を創造し、顧客を育成する」、その3段階がある概念だと思っています。その中で、DMMチャットブーストCVは、主に「顧客を理解」した上で「創造(集客)」するところにコミットできるプロダクトです。
杉原:具体的に、DMMチャットブーストCVはどのようなサービスですか。
成田:LP(ランディングページ)に来た人の多くは離脱するという構造的な問題があります。業界やサービスによって差分はありますが、離脱率はおおよそ9割以上といわれています。そのLPを離脱するユーザーに対してポップアップを出してクリックしてもらい、LINEに遷移させ、LINE上でコミュニケーションして、またLPに戻ってもらうというサービスです。LINEの中のコミュニケーションを通して態度変容をさせ、LPへのリンクを押してもらう形なので、無理やりLPに戻すものではありません。
簡単にいうと、リターゲティングのようなことをLINE公式アカウントで実現しています。ビジネスモデルとしてはLINE経由のCV数に応じたCPA課金で、初期費用と月額費用は不要なサービスです。
杉原:離脱ユーザーにポップアップを表示してLINEに誘導した後、LINE上ではどのようなコミュニケーションをとっているのですか。
成田:LINEに誘導した後、2〜10問程度の「診断」と呼んでいるアンケートに回答してもらいます。型にはまった診断ではなく、顧客ごとにカスタマイズした診断を用意しています。何を聞き、回答をもとにどういうセグメントを作って、どういうオファーを出すとまずCV転換するのか、つまり、ユーザートリガーがどこにあるのかを探るためです。それ以外にも、LINEでユーザーのインサイトが分かると、ディスプレイの訴求軸の検討にも活用できると考えています。
杉原:今まで分からなかったことが、診断によって分かるようになる可能性は大きいですね。
成田:私たちとしては、これまでは構造上知ることができなかった、ランディングページから離脱しようとする「未顧客(離脱ユーザー)」が「そもそも誰なのか」という点を理解できることに価値があると考えています。個人情報を取れないからデプスインタビュー(調査対象者とインタビュアーが一対一で対面して聞き取りを行う定性調査の一つ)ができない。ただ、LINEに未顧客が来て、未顧客が診断を受けることによって、なぜ買ってくれなかったのか、何を不安に思っているのかが分かるようになります。つまり、未顧客のニーズとインサイトが分かるということです。
診断の運用はナレッジのある自社で実施し効果を後押し
杉原:この診断の運用はクライアントが行うのですか。
成田:いいえ、全てDMMチャットブーストCVの運用専属チームで行っています。
杉原:それは面白いですね。一般的なSaaSはクライアントが運用する必要がありますが、なかなか運用に乗せきれずにチャーンしてしまうという話もよく聞きます。なぜ自社で運用するという決断をされたのでしょうか。
成田:LINE系のSaaSはツール提供型が多いですが、ナレッジのあるのは提供者側である私たちのほうです。なので、私たちにお任せいただいたほうが効果を出しやすいというのが理由の一つです。
杉原:顧客の課題を聞き出し、それを診断の設問に落とし込むのは、顧客との対話力やビジネス理解力が必要ですよね。
成田:ビジネスとしてのスケーラビリティを考えると、社内の人材の育成が一番のハードルになります。ただ、オンボーディングプロセスを運用するチームは、半年間の育成プログラムを通して一人前になることができるようにしているので、質のブレもないように整備しています。
杉原:なるほど。そこは育成プログラムで担保されているのですね。効果はいかがでしょうか。
成田:ポップアップのクリック率は10〜20%です。LINEの友達に追加するかどうかも同じくらいの傾向です。つまり、100人に3〜5人くらいの転換率でLINEに入ってきます。LINEに入るとほぼ100%診断を開始して、約9割が診断完了してくれます。
杉原:その完了率はすごいですね。
成田:そこが私たちの腕の見せどころでもあると思っています。さらに、設問数が5問でも、10問でも、診断完了率は変わりません。意外に人は診断に真面目に答えてくれるんです。
杉原:なぜそんなに答えてくれるんだと思いますか。
成田:LINEに入ってくるときの期待値調整が大切だと思っています。そもそも、ポップアップからLINEに友だち追加するという動きが面倒ですよね。その面倒くささを上回る期待値を、ポップアップとLINEのホーム画面で作れている。その煩わしさに対してベネフィットが勝っている状態を作れている。さらに、LINEの中で疑問が解消されそうであり、診断に対する期待値で熱量を上げられている。これらがセットで実現できていると思っています。逆にこれが分断されていると、おそらくそこまで期待値が高くならないはずです。
杉原:なるほど、設問の先にある診断でどんな結果が得られるのかというところに、ベネフィットを感じられるのか、その設計が重要なんですね。
導入効果:幅広い業界でCV10%以上増加
杉原:どのようなクライアントが多いですか。
成田:規模・業種ともに幅広くお使いいただいています。具体的には、美容、ヘルスケア、人材、不動産、金融、教育、保険、フィットネスなど、非常に多くの業種で導入されており高い効果がでています。規模も社員数500名以上の大手企業が多いですが、D2C企業などを中心に比較的少人数で運用されているサービスにも導入しています。それは、私たちがリーチしている課題は「LPの離脱者をどうすればよいか」という普遍的なものだからだと思います。
杉原:導入効果はいかがでしょうか。
成田:導入効果としては、CV10%以上増加という成果が期待できる状況になっています。CV数の増加だけでなく、LINEでしっかりとナーチャリングをしてCVにつなげるため、CV後の歩留まりが他施策よりも高くなるという結果になることも多いです。
※より具体的な事例はDMMチャットブーストCVのホームページから確認できます
杉原:特に相性のよい業種はありますか。
成田:利用者の「本音と建前が違う」という部分があるサービスや商品は、特に相性のよさを感じます。例えば、コンプレックス商材であるAGAの商品であれば、建前としては「髪の毛を増やしたい」というのが購入利用です。ただ、実は「モテたいから髪の毛を増やしたい」というのが本音だったりしますよね。そういったインサイトを人に相談はできないものです。そこを、LINEの中で深掘りしていき、本音を引き出した上でのオファーを出すと、態度変容が可能になります。
人材も同様で、日本人は「給料を上げたいです」となかなかストレートに言えないものです。キャリアアドバイザーに対しては言えなくても、LINEに対しては「給料を上げたい」と回答できる。ならばこの転職サービスがおすすめですという訴求ができます。LINEが「人」ではないからインサイトを引き出せる側面があると思っています。
Cookieの有無や状況変化にも振り回されないマーケティングを実現するために
杉原:Cookieレスの時代においては、シグナルロスによってユーザーのインサイトが取りづらくなるという課題もありますよね。大がかりな手法が必要になると、特に中小企業にとってはインサイト不足が深刻になるだろうなと感じています。しかし、チャットマーケティングの活用であれば、その解決につながりそうですね。
成田:まさにおっしゃるとおりです。Cookieに関していうと、インターネット広告市場は、私と同世代といってもよいくらいの歴史の中で、3兆円というすごいスピードで成長してきました。その成長を2015年頃から後押ししてきたのは、間違いなくCookieだと思っています。
Cookieにはよいところも悪いところもあると思いますが、Cookieがあったが故に「How(どのように)偏重型」のマーケターが世の中に大量に増えてしまったのではないかと感じています。CPA至上主義の中で勝ち抜くためにそのHowを使い倒すこと自体は大切だと思うのですが、そのような構造が続く限り、Googleが右向けと言えば右を向き、Appleが左向けと言えば左を向く、といった特定のプラットフォーマーへの依存からは逃れられない状況が続いています。
この一辺倒なやり方には、非常に違和感があります。具体的に言うと、自分たちの事業が「誰の」「何を」解決するためにやっているのか、という本質的な問いに立ち返ったときに、クリアに答えられる人はどれくらいいるのでしょうか。つまり、Who What Howの「How」だけに注力してしまい「Who(誰に)」「What(何を)」をちゃんと見ていないのではないか、という問いです。
営業する中では、多くのプランニング担当者がWho Whatを見切れていない状況に、かなり課題を感じています。今後Cookie規制の流れが加速し廃止されたとしても、Who Whatをしっかり理解していれば、異なるHowでも柔軟に対応していける。そういう状態を作ることに、私たちは貢献したいと思っています。
杉原:一方で、CPA至上主義の中で獲得効率を追求しているマーケターにとって、LPに来たユーザーのCVRを10%も改善できるというのは、非常に大きな価値ですね。
成田:数年前までアドネットワークやDSPがどんどん出てきて追い風だったのが、今はSNSがMeta広告に集中するなど、かなり向かい風になっている状況です。その中で、DMMチャットブーストCVは新たな施策として導入でき、かつ運用を任せられてCVが10%増えるというバリューは大きいのではないかと思っています。実際、CPA至上主義の日本にアジャストしつつ、未顧客のWho Whatが分かる手段として存在する、二つの価値を作りながら事業展開をしているつもりではあります。
マーケターの本質的な課題により深く向き合い、付加価値を提供していきたい
杉原:最後に、今後の展望についてお聞かせください。
成田:私たちは、マーケターの本質的な課題により深く向き合い、付加価値を提供していきたいと考えています。単なるツールではなく、マーケターそして事業に向き合う人にとって本当に意味のある付加価値を創造することで、広告業界により深く貢献していきたいです。
具体的には、未顧客のインサイトを徹底的に理解し、マーケティングファネル全体で価値ある情報を収集することを目指しています。例えば、UTMパラメーターを引き継いで、どこから来た人が何を考えているのかを細分化してみていくことでより他の媒体の効率を上げていく。また、今のサービスでは選択肢を設けているため、回答を誘導してしまっている部分もあるかもしれません。そこから深掘りして聞くために、未顧客に対してデプスインタビューができるツールにもしていきたいと思っています。さらには、離脱する前のLPで未顧客は何を考えているのかを知るために、診断型LPのようなものが作れると、ファネルごとのインサイトが取れますよね。よりいろいろなファネルで、いろいろな深さで、未顧客のことを知っていくところに付加価値を最大化できると、マーケターにとって価値のあるサービスになるのではいかと思っています。
杉原:シグナルロスによってインサイト取得が難しくなっている今の時代において、気楽に顧客インサイトを取得できる手段として、改めて、御社のサービスは非常に時流に合っていると感じます。
成田:「CTRが上がりました。CPAが下がりました。なぜ?」というのは、シグナルがあっても分かりません。仮説ではなく「正解はこれです」とファクトベースで語れるようになるのが私たちの価値でもあります。データが取れたら終わりではなく、そのインサイトを次の施策や運用にどう生かせるかというブリッジができれば、PDCAの打率が上がり、さらに付加価値を高めることができると考えています。
杉原:本日はユーザー一人一人の迷いや検討の瞬間に、テクノロジーと運用力で寄り添う「DMMチャットブーストCV」の取り組みについて、大変興味深いお話を伺うことができました。データをもとに顧客理解を深め、“売る”のではなく“背中を押す”という形で顧客を創り育てる。そのアプローチには、本質的なマーケティングの要素が詰まっており、チャットマーケティングの可能性を強く感じました。ありがとうございました。
成田:こちらこそ、お話しする機会をいただきありがとうございました。マーケターの本質的な課題に向き合い、広告業界をよりよいものにしていくために、これからも挑戦を続けていきます。