マルチタッチアトリビューションとは:adjust佐々直紀さんに聞く

マルチタッチアトリビューションとは:adjust佐々直紀さんに聞く

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※本記事は、adjust株式会社カントリーマネージャーの佐々直紀さんよりご寄稿頂きました。

 

マルチチャネルで展開するモバイルマーケティングを総合的に理解するための手法の1つとして、マルチタッチアトリビューションに注目が集まっています。商品を購入するまでに様々な経路をたどる消費者の行動を理解するには、ラストクリックだけではなく、商品の情報に接触した複数の「タッチポイント」も把握して、1件のコンバージョンに与えるキャンペーンの全体的な貢献度をより詳しく知ることが重要です。

 

そこで今回は、マーケティングの効果測定の1つであるマルチタッチについて解説いたします。

 


 

マルチタッチと一般的なアトリビューションモデルの定義

近年、企業の多くは一般的なアトリビューションモデルを利用していますが、複雑なキャンペーンを実施するために、独自の計測システムを作成している企業もあります。最も一般的なモデルは、起点アトリビューションと終点アトリビューションです。マルチタッチを理解するために、まずはこのふたつのアトリビューションタイプについて見ていきましょう。

 

起点アトリビューションモデル(First touch)

このモデルでは、コンバージョンに至った最初のインプレッションが、100%貢献したと判断します。

 

終点アトリビューションモデル(Last touch)

終点アトリビューションは、Adjustを含むアトリビューションプロバイダーで最も多く使用されている、コンバージョンをトラッキングするための手法です。ここでは、インストールに至った最後のキャンペーン(またはインプレッション)が、コンバージョンに貢献したとみなされます。例えば、ユーザーが、Google 広告キャンペーン→Apple Search Ads→Facebook広告という順番で複数の広告や情報に接触した場合、一番最後のFacebook広告が100%貢献したとカウントされます。

 
 

マルチタッチアトリビューションの異なる点は?

マルチタッチアトリビューションは、すべてのタッチポイントを考慮して、インストールの貢献度を測定します。例えば、ユーザーが3つの流入元による3種類の異なる広告を閲覧してからアプリをインストールした場合(Google検索、Facebook広告、Apple Search Adsなど)、これらのパブリッシャー全てがインストールに貢献したものとしてカウントされます。

 

貢献度の重み付けは広告主が使用するモデルによって異なります。詳しくはこの記事の後半で解説します。

 

なぜマルチタッチアトリビューションが重要なのか?

マルチタッチアトリビューションを用いると、ユーザーがコンバージョンに至った全体像と詳細データが得られるため、アプリのインストールにつながった要因をより正確に判断することができます。

 

1度の接触がインストールにつながるのではなく、ユーザーは「ダウンロード」をクリックする前に複数の広告を閲覧しています。よって、ユーザーがどの広告を見てコンバージョンに貢献したか(あるいは貢献しなかったか)を把握することは、マーケティングの効果を上げるためにとても重要です。

 

Wooga社のユーザー獲得(UA)マネージャーであるユーリイ・ボロトキン氏(Yury Bolotkin)はこのように語っています。

 

マーケティングの全体像がわかると、マーケティング戦略が改善され、予算配分をより合理的に行うことができます。一般的に最後のタッチポイントが重要視されすぎる傾向がありますが、これはマーケターにとって、ユーザーが顧客へと転換する前のプロセス全体をすべて無視しなければならないことを意味します。

 

私は、ユーザーがコンバージョンポイントに至るまでの行動を理解する上で、マルチタッチアトリビューションモデルがとても重要な鍵を握っていると考えています。

 

また、Gazeus Games社のCMOであるポーラ・ネヴィス氏(Paula Neves)は次のように述べています。

 

マルチタッチアトリビューションは、キャンペーンにおける実際のCPIと、ROIやROASなどの収益データを把握するのに役立つ手法です。

 

マルチタッチを採用すると、あるパートナーは思っていたほど多くのインストールに貢献しておらず、一方で、予想以上に貢献しているパートナーも存在することがわかります。これにより、複数のマーケティングチャネルのうちどこにどれだけ投資して、どのパートナーを起用するなどを細かく決定できるので、マーケティング戦略を一変させる可能性があります。

 

マルチタッチアトリビューションモデル

マルチタッチアトリビューションの種類は1つだけではありません。この名称は複数ある手法、もしくはモデルのバリエーションの総称を指しています。

 

マーケターは、業界や課金の方法などによって貢献度の重み付けを個々に行う必要があります。したがって、アトリビューションモデルの貢献度の設定は均一ではなく、企業のニーズに応じて測定するモデルが開発されてきました。それでは代表的な5つのモデルをそれぞれ見ていきましょう。

 

1.線形アトリビューションモデル

線形は、最もシンプルなマルチタッチアトリビューションの計測方法です。このモデルでは、コンバージョンに至るまでの各接点に対し貢献度が平等に割り振られます。割り振る重み付けは変えず、全体の価値を購入に至る経路のすべてのタッチポイントの数で割った値です。

 

線形アトリビューションモデルを選択する理由

単純な理由としては、タッチポイントの貢献度の重み付けが必要ない場合に、線形アトリビューションモデルが有効です。しかし、このモデルでは単純すぎると考える人もいます。例えば、この線形マルチタッチアトリビューションでは、他のインプレッションより重要だとされている最初と最後のタッチポイントの貢献度の違いは考慮されていません。

 
 

2.減衰アトリビューションモデル

このモデルでは、コンバージョンから時間的により近く発生したタッチポイントに対して、コンバージョンの貢献度が高く割り振られます。

 

減衰アトリビューションモデルを選択する理由

コンバージョンまでに長い時間がかかった場合は、初期で発生したタッチポイントはあまり貢献しなかったとみなされます。ユーザーがマーケティングのパイプラインに入った後、ファネル下部にあるコンバージョンへとユーザーを導くには、時間を要するからです。

 

このモデルのデメリットは、マーケティングサイクルの全体を包括的に見ることはできても、鍵となったタッチポイントにより多くの貢献度を割り振ることができないことです。それを可能とするのは、U型マルチタッチアトリビューションモデルです。

 
 

3.U型アトリビューションモデル

このタイプは鍵となる2つのタッチポイントを重要視しつつ、その間にある中間点のタッチポイントも考慮するモデルです。40%の貢献度が、最初のタッチポイントと最後のタッチポイントにそれぞれ割り振られ、残りの20%は、中間点のタッチポイントに割り振られます。

 

ネヴィス氏によると、このようなモデルを使うと以下の点で役立つとのこと。

どのパートナーが商品の認知の拡大に貢献し(ファネルの上部)、どのパートナーがインストール獲得に強いのか(ファネルの最下部)を分析することができます。このような精密な情報は、弊社でユーザー獲得施策を展開する上でとても役立ちます。

 

U型アトリビューションモデルを選択する理由

U 型アトリビューションモデルは、入口と出口ポイントが最も貢献度が大きいと考える場合に有効なモデルです。ネヴィス氏はこの手法を取り入れるマーケターの1人で、以下のように述べています。

 

Eコマースに携わっていた頃は、U型アトリビューションモデルを使用するだけで十分でした。しかし、流入経路の中間点を完全に無視するものではありません。ユーザーのアプリの認知に貢献した最初の流入元と、インストールしてもらった時のタッチポイントをより重要視するということです。

 

ただし他のマーケターにとっては、逆のことが当てはまる場合もあるかもしれません。もし中間点のタッチポイントの貢献度が最初と最後のタッチポイントと同様に高いとみなすなら、意図したものより少ない貢献度が割り振られてしまうことになります。W型アトリビューションモデルは、この問題に対応します。

 
 

4.W型アトリビューションモデル

 

W型マルチタッチアトリビューションモデルはU型モデルと似ていますが、さらに追加したタッチポイントも均一に貢献度を割り振り、残りは中間地点にあるタッチポイントに分散します。最初と最後のタッチポイントに加えて、リードを作ったタッチポイントや機会を創出したタッチポイントなどに90%の貢献度を割り当て(各30%)、残りの10%を中間地点のタッチポイントに分散させます。

 

W型アトリビューションモデルを選択する理由

ユーザーライフサイクルが長く、且つ追加したマーケティングチャネルが全体に大きな影響を与えている場合、そのタッチポイントに重点を置いて、残りの貢献度は均等に割り振るのが有効だと考えられます。また、最初と最後のタッチポイントの貢献度をそれぞれ25%と35%に重み付けするなどの変更をすることもできます。しかしながらネヴィス氏は、W型アトリビューションモデルの問題点をこう指摘します。

 

中間点が重要でないというわけではありません。ただ私の経験から言えることは、アトリビューションモデルが複雑になるほど、エラーも発生しやすくなります。ビジネスのニーズに合い、かつ複雑過ぎないモデルを模索している状況です。

 

このアトリビューションモデルの問題は、必ずしも貢献度の配分にあるのではなく、レポートに誤りが生じやすい点にあります。

 

最後に、カスタムアトリビューションモデルの説明に移ります。

 
 

5.カスタム型アトリビューションモデル

すでに広範囲なタッチポイントトラッキングを実施している場合、アトリビューションモデルを個々のレポートのニーズに合わせて重み付けを調整することができます。カスタム型モデルでは、下記のように各タッチポイントにそれぞれ異なる貢献度を設定します。

 

カスタム型アトリビューションモデルを選択する理由

全く同じ企業は存在しません。それぞれのビジネスモデルや業界、マネタイズ戦略のために、独自のアトリビューションモデルを作成したほうがいいのは明白です。

 

ただしそのモデルが複雑になってしまうと、結果として誤りが増えてしまう可能性があります。さらにこのようなモデルは、新しいデータを入手する度に広範囲にわたる最適化が必要となります。アトリビューションモデルをカスタマイズするには、多くの企業では確保できない膨大な作業時間と資金が必要になります。

 

適切なアトリビューションモデルを選択するには、企業のニーズをしっかり検討し、それに取り組む人材やリソースとの間に適切なバランスが必要となります。

 
 

分析を成功させるための6つのポイント

マルチタッチアトリビューション分析を始める場合、確認しておきたいポイントがいくつかあります。データに関する問題やプロジェクトの管理体制など、以下のチェック事項をご確認ください。

 

1.考え方を変える

マルチタッチアトリビューションは、従来のパフォーマンスデータと非常に異なります。データの分析方法を見直し、結果をそれぞれ独立したものとしてみることが多いと、あるチャネルが別のチャネルに及ぼす影響を過小評価してしまう傾向があります。

 

チャネルは切り離して考えてはいけないことを、マーケティングに携わる担当者全員が周知することがとても重要です。

 

2.マルチタッチの理解を深めてもらう

導入を確実に成功させるための最初のステップは、関係者全員がマルチタッチアトリビューションについての正しい情報を得て、企業にとってそれがどんな意味を持つか、どうして導入されるのか、そしてどんな効果が得られるかを理解してもらうことです。

 

3.新しい共通のKPIを作成する

いくつかのKPIを採用し明確に目標を設定しておくことが大切です。マルチタッチは非常に範囲が広いため、多くのターゲットをまとめて把握することができますが、それと同時に共通のKPIを定めておく必要があります。これにより、マーケティングパフォーマンスを総合的に判断することができます。

 

4.データの取り扱いとアトリビューションモデルを計画する

データは複数のキャンペーンやタッチポイントに及ぶことになるため、より多くの設定項目を必要とします。データの種類、流入元、広告の種類、タッチポイントの多さなどをあらかじめ想定しておくと作業内容の把握や初期の分析をスムーズに進めることができます。

 

5.小さく始める

まずは小規模なキャンペーンで繰り返しテストして、徐々に本格的な施策を行うことが重要です。最初からマルチタッチに頼るべきではなく、段階的にキャンペーンやテストを実施して、適切に導入がされてあるかを確認します。

 

すべての作業が完了したら社内でケーススタディを実施し、マルチタッチアトリビューションに懐疑的なチームメンバーとデータを共有することをおすすめします。

 

6.最適化しましょう

マルチタッチの本質は、パフォーマンスを推進する多くのタッチポイントを理解することです。つまり、各タッチポイントを微調整してコンバージョンファネルを細かいレベルで改善する余地は、数多く存在します。広告サイズからコピー内容、クリエイティブに至るまで、おそらくこれまで見過ごされてきたキャンペーンを構成する各要素を、細かく改善していくきっかけとなります。この小さな調整の繰り返しが、大きな効果をもたらすこともあるのです。

 
 

事業・目的別のおすすめモデル

Webの世界では、マルチタッチアトリビューションは、広告の貢献度を評価するための確立された手法です。Google 広告に見られるような「ラストクリック」を過大評価せず、貢献度をバランス良く割り当てることができます。

 

しかし、モバイルにおいて計測プロバイダーの多くは、ごく一部のインプレッションしか見ていないという問題があります。例えば、アドネットワークの中には、第三者である計測プロバイダーに対して最後のエンゲージメント情報しか共有しなかったり、あるいは、大量のクリックデータを送信している場合もあります。スプーフィングされたなりすましのエンゲージメントが含まれている可能性もありますが、クリックを認証するシステムは、ごく最近まで存在しませんでした。

 

言い換えると、インプレッションからコンバージョンに至るすべての広告配信プロセスが目に見えるWebと違い、モバイルには不完全で歪んだデータサンプルしかないということです。これでは信頼できるデータを得ることはできません。

 

ちなみにAdjustの「クリック認証」は、マルチタッチの可能性を大きく広げるものです。クリック前のインプレッションを確認することにより、そのエンゲージメントが同じ端末に由来するものかをどうかを認証します。アトリビューションの正確性は高まり、スプーフィングされたエンゲージメントに対して無駄に使っていた広告費も削減されます。Adjustが提唱するこの新しい基準を、業界の全てのマーケターに導入いただけることを期待しています。

 
 

モバイルだからこそのマルチタッチアトリビューョンの傾向や注意点

現在モバイル計測に用いられている「アシストインストール」(すなわち、ユーザーのファイナルクリックまでの全てのタッチポイント)は、施策に有益なデータをほとんど提供してくれません。そのためモバイル業界では、今でも完璧なマルチタッチモデルを模索している段階です。難しい課題ではありますが、長い目で見ればそれを乗り越えるだけの価値はあるでしょう。


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