広告運用のインハウス化(自社運用)は、多くの企業にとっての悲願でありながら、同時に「挫折の歴史」でもあります。属人化、ナレッジの消失、そしてリソース不足。数々の壁を前に、理想と現実のギャップに悩む現場は少なくありません。
今回、インハウス支援の先駆者であるアタラ株式会社の杉原氏、小湾氏を迎え、株式会社イルグルムの廣がモデレーターとなり、次世代の組織OS「MCM(Marketing Cloud Management)」とAIエージェントが、いかにしてインハウス化の景色を変えるのかを語り合いました。
※本記事は株式会社イルグルムのAD EBiS Campaign ManagerのWebサイトで公開された記事を転載したものです。
慶應義塾大学 法学部法律学科卒業後、KDDI、インテルを経て、オーバーチュア(現Yahoo!検索広告)、Google 日本法人で広告営業戦略を担当。2009年にマーケティングのコンサルティングサービスやツールを提供するアタラを創業。プラットフォーム広告、リテールメディアなどの最新情報を発信する、日本では数少ないプラットフォームビジネスアナリストでもある。「プラットフォームの思考回路」チャンネルをX、LinkedIn、Voicyで運営。
10年以上に渡りSEM、DSPのプランニング・コンサルティングに従事。担当業界は通信、証券会社、エンターテイメント業界、通販と幅広く担当。某大手エンターテイメント企業のプロジェクトにおいて、Google社との共同で「エリアコーザルインパクト」プロジェクトを推進。オンライン・オフラインの購買アップに貢献したことでWeb広告の購買インパクトを証明し業界でも注目される。その他、マス広告連動と最先端のアドテクノロジーを駆使したコンサルティングとアクティベーションを提供。
2016年、株式会社イルグルムに入社後、アドエビスのコンサルティングセールスに従事。事業主・広告代理店問わず、200社以上のアドエビス導入支援、活用支援を担当。2021年にアドエビス事業部の副本部長に着任し、サービスの成長を牽引。現在は執行役員として、マーケティングAI事業のマーケティング、セールス、サクセス、サポート部門を管掌。
アタラがパートナー参画を決めた理由
廣:本日はよろしくお願いします。先日、アタラさんに弊社の「アドエビス・キャンペーンマネージャー」のパートナープログラムへご参画いただきました。まずは、運用型広告の黎明期から業界を牽引してこられた杉原さんが、なぜ今このアドエビス・キャンペーン・マネージャーというサービスに可能性を感じていただけたのか、その背景から伺えますか。
杉原:私は個人的にもアタラを設立する前から、2002年くらいですかね……検索連動型広告の立ち上がりの時からやっているので、もう23年くらいこの業界を見ていることになります。
最初はYahoo!とGoogleのほぼ2社で始まった世界ですが、今は媒体が何百と増え、運用型広告が主流になりました。この20年の歴史を振り返ると、とにかく「運用型広告の種類が増え、一つひとつが本当に複雑になっていった歴史」だったと思うんです。運用者さんの手作業から始まり、我々のような支援会社が出てきて、自動化やシステム化も進みましたが、やはりどうしても限界がありました。
そんな中、2025年の2月にアメリカのカンファレンスへ行った際、マーケティング特化型の「AIエージェント」を初めて目にしたんです。プロンプト画面に色々と聞くと、分析をしてくれるだけでなくて「じゃあこれを選びますね」と選択すれば、Google 広告やMeta広告の指示まで実行してくれる。それを見た時、「あ、もうこうなるな」という直感がありました。
ただ、これを日本で実装しようとすると、データをつなげるのが本当に大変なんです。GoogleとMetaだけでも共通部分はありますが、中身は全然違う。そこの「列合わせ」をまずやって、さらに過去にどんな施策をやってきたかという背景を覚えさせないと、まともな分析は出てこない。エンジニアのリソースも膨大に必要で、また限界を感じていたところで、イルグルムさんがアドエビス・キャンペーン・マネージャーを出された。素晴らしい精度でデータが繋がっているのを見て、「これだ」と確信してお声がけさせていただきました。
廣:小湾さんは、コンサルタントとして日々お客様と向き合っていらっしゃいますが、現場の視点ではアドエビス・キャンペーン・マネージャーにどのような期待を持たれていますか。
小湾:インハウス支援で日々感じるのは、「続けることの難しさ」という非常に大きな壁です。これには「人の問題」と「ノウハウの蓄積の問題」の2つがあります。
人の問題でいえば、担当者の異動や退職で組織自体が維持できなくなる。ノウハウの問題でいえば、どうしても属人化してしまい、一人の担当者の中で施策が溜まっていくだけで全社に展開されない。結局、引き継ぎがうまくいかずに「やっぱり内製化は無理だ」と代理店さんに戻してしまう。そんな場面を何度も目の当たりにしてきました。
我々のコンサルティングでもそこを打破しようとしてきましたが、今回、MCMやアドエビス・キャンペーン・マネージャーの考え方に触れて、「これならみんな内製化を続けられるな」と直感したんです。お客様がこれまで必要以上に欠けていたリソースを削減し、より本質的なマーケティング全体の事業成長に貢献できる。そう確信して、一刻も早くお客様に提供したいという思いで取り組んでいます。
「インハウス化の壁」の正体
廣:代理店依存から抜け出そうとするお客様がぶつかる「壁」について、もう少し深掘りさせてください。2009年の設立以来、インハウスの先駆者として支援されてきた杉原さんは、どう分析されていますか。
杉原:2009年当時も「インハウス」という言葉はありましたが、実態としては一部の限られた企業しか取り組めていませんでした。そこからどんどん複雑化し、代理店にお任せする中で「これで本当にいいんだっけ?」という疑問がお客様に湧いてきた。代理店ともパートナーシップを強化してコミュニケーションを計りたいと思っているが、ノウハウもスキルもない。そこでお声がけをいただくことが多かったんです。
私がいつもお話しするのは、インハウスの本質は「自分ごと化」だということです。運用を丸投げするだけでなく、戦略も、そしてデータも自分のものとして持っておく。でも、ここで多くの会社が「人を当てられるか」という問題にぶつかります。
スキルのある人は雇いづらいし、雇えても定期的な人事異動がある。さらに転職が当たり前の世界ですから、辞めてしまうと蓄積したナレッジが消えてしまう。1からやり直し……ということが、もう20年間ずっと続いている。この「自分ごと化」したくても、人が入れ替わると構造的にナレッジが消えてしまう脆さ。これが最大の壁ですね。
小湾:現場の視点で見ると、さらに生々しい苦労があります。現場の担当者さんは、そもそも「困っているけれど、どう相談していいか分からない」「悩みをどう解消していいか分からない」という状態に陥りやすいんです。
インハウス化って、組織の戦略としては大きなプロジェクトに見えますけど、現場レベルで見ると「1日に1時間かけられるかどうか」というリソース配分だったりする。リソースがただ単に乗っかっているだけなので、前向きに取り組める方が実は多くない。
そうなると、管理画面を開いて施策を打とう、レポートを分析しようという余裕がそもそも生まれません。一方で、分析が「好きな人」はどんどん自分でノウハウを溜めていくんですが、その人のPCの中で作業が完結してしまい、社内に共有する場さえない。
結局「できる人とできない人」が二極化していき、インハウスを始めたのに担当者が疲弊するか、担当者が勝手に成長して転職してしまいナレッジが流出する。この「担当者の疲弊」と「スキルの属人化」が、現場で起きている一番の課題です。

属人化を避けるために、何を組織に残すべきか
廣:お二人がおっしゃった「属人化」や「リソース不足」、そして「ナレッジが消える」という課題は、まさに私たちがアドエビス・キャンペーン・マネージャーを通じて解決したい核心です。
私たちが提唱している「MCM」という考え方は、個人の頭の中にしかないノウハウやプロセスを、組織の共通資産として整え、実行していくことを目的としています。
AIエージェントの価値は、まさにここにあります。業務をプロセス化し、そのプロセスに則って自動的に回す。媒体の管理画面からデータを自動で取得し、そこから先ほどお話しした「考察」や「課題のピックアップ」を、人間がやるべき仕事としてではなく、システムとして自動で行う。これによって、人は人にしかできない「判断」や「意思決定」に集中できるようになります。これがAIエージェントとマーケティング業務の非常に相性がいい部分だと思っています。
実際、管理画面や機能をご覧になって、杉原さんはどのような感想を持たれましたか?
杉原:まずはデータの接続ですね。先ほども触れましたが、必要なデータがプリセットされていて、余計な「列合わせ」を人間がしなくていい。これだけでも大きな価値ですが、やはり本質は廣さんがおっしゃった「再現性」です。誰が担当しても同じレベルで運用ができるというのは、実は本当に難しいことですから。
例えばですけど、Google 広告のレポートタイプって、取ろうと思ったら50種類くらいあるんですよね。到底、人間がそれを全部取ることも難しいですし、取ったところで、じゃあ人間がそのすべてを毎日解析していくのって……やっぱり実質的に無理なんですよ。 本当は、もっと色々な考察をして、それを次のキャンペーンに活かせるレベルまで深掘りしたい。けれど、実際にはなかなかそこまで辿り着かない。
だからこそ、これからのAIエージェントの時代に思うのは、人間がやるべき考察と、AIに任せるべき領域を分ける「ハイブリッド」の重要性です。 人間が考察しなきゃいけない部分は、どうしてもあります。でも、人間が絶対に見落としがちな微細な傾向やトレンド、そういったデータ上の変化は、もうAIエージェントに任せればいいと思っているんですよね。
AIエージェントが、24時間体制でキャッチしてくれて、人間に「ここが動いていますよ」と教えてくれる。その体制でいかないと、今の複雑な運用では必ず見落としが出てきてしまいます。その「見落としを防ぎ、ベースラインを底上げする」という点で、AIエージェントを搭載しているアドエビス・キャンペーン・マネージャーは、ものすごいメリットがあるなと感じています。
小湾:私も、アドエビス・キャンペーン・マネージャーを初めて見た時に「これこそインハウス向けのツールだ」と直感しました。 誰が見ても同じような高度なアウトプットが出せる。自分で1からレポートを作るために頭を悩ませる膨大なリソースをかけずに、毎朝これを見れば「新しいインサイト」があり、「今日何をすべきか」が分かる。
リソースがない現場の担当者さんにとって、この「朝一番の気づき」を自動でくれる機能は、本当に救いになるはずです。自分一人の頭で悩まない環境が、このツールによって手に入るわけですから。
杉原:あともう一点、私が「これは素晴らしい」と唸ったのが「施策記録機能」です。
過去に何の施策を打って、その結果がどうだったか。この記録がちゃんと残っている会社って、事業会社さんも代理店さんも含めて、驚くほど少ないんですよ。担当者が辞めれば、過去の成功も失敗も全部リセットされてしまう。 アドエビス・キャンペーン・マネージャーなら標準化されたフォーマットで、施策と結果を一元管理できる。人が入れ替わっても「過去に何をやったんだっけ?」と振り返れるし、AIがそれを記憶して次のキャンペーンに活かすこともできる。この「ナレッジの資産化」こそが、インハウス化を「一過性のブーム」で終わらせないための鍵になるんじゃないでしょうか。

アタラ・イルグルムが実現する「自律型組織」
廣:最後に、インハウス化を検討されている、あるいは壁にぶつかっている読者の方々へメッセージをお願いします。
小湾:インハウスは「始めてからが本当のスタート」です。非常にハードルは高いですが、今はアドエビス・キャンペーン・マネージャーのようなツールも出てきていますし、徐々に始めることができます。

小湾:私たちが定義するインハウスは、単なる外注費削減ではなく「変化し続ける市場環境や顧客ニーズに適応する組織能力を持つこと」です。戦略から運用まで全て自社でやる「ヘビー」な形だけでなく、パートナーと共創する「ミドル」や「ライト」な形があってもいい。
「何を自社でやり、どこを誰と共創するのか」を決める。その上で、AIエージェントも含めて1人で悩まない環境を作っていく。それが自律的な組織を作る第一歩です。
杉原:AI活用はもう「不可逆」な流れです。これから絶対に使っていかなきゃいけない。でも、なかなか「使いこなす側」に立てない人が多い中で、アドエビス・キャンペーン・マネージャーのようなツールは、さりげなくAIを使いこなす側に回れる素晴らしい環境だと思います。
AIを恐れる必要はありません。今まで調査や分析、検証に膨大にかけていた時間をAIに任せて、マーケティングに携わる人は「作業者」を卒業すべきです。本来の役割である「戦略を作る人」「判断する人」に立ち戻る。アドエビス・キャンペーン・マネージャーはそれを強力にバックアップしてくれるツールになると確信しています。