個人情報保護規制の強化により、企業が保有するファーストパーティデータの重要性が高まっています。国内で広く利用される「LINE」は、コミュニケーションアプリとしてだけでなく、企業のCRMデータと連携させたマーケティング施策を実行するプラットフォームとしても注目されています。今回は、LINEヤフー株式会社とLINE公式アカウント運用支援のパートナーである株式会社クウゼンを迎え、ファーストパーティデータ活用の未来についての鼎談を実施。LINE公式アカウントとCRM連携による顧客体験の向上、継続的な顧客接点の確保、そして具体的な成功事例などについて伺いました。
語り手
LINEヤフー株式会社
コーポレートビジネスカンパニー BD統括本部
DXソリューション本部 DXディレクション部
奥亮介さん
株式会社クウゼン
執行役員 COO
中里航平さん
聞き手
アタラ株式会社
代表取締役CEO
杉原剛
目次
なぜファーストパーティデータの収集・活用は難しいのか
杉原:自己紹介をお願いします。
奥:LINEヤフー株式会社のDXディレクション部部長の奥と申します。大手法人向けに、LINEとヤフーのプロダクトを複合的に組み合わせたDX、CXに関わるソリューションの提案のサポートを、“営業の1.5列目”という形でやらせていただいています。
中里:株式会社クウゼンの執行役員 COOの中里です。クウゼンは主にLINE公式アカウントの活用を支援しているスタートアップで、対話デザインプラットフォーム「クウゼン(KUZEN)」によって、LINEを活用したマーケティング効果の最大化を支援させていただいております。私はビジネスチームにおいて、マーケティングや営業、カスタマーサクセスなど全体を統括しております。
杉原:まずファーストパーティデータを取り巻く環境がどうなっているのかについて確認したいと思います。ファーストパーティデータの収集や活用は、実際にはなかなか進んでいない状況があるのではないでしょうか。その理由を五つ挙げました。
1.データ取得のハードルが高い
そもそも企業がファーストパーティデータを十分に収集できる仕組みを持っていないケースが多いのではないかと思います。オフライン中心の企業だとデータ取得の手段が限られますし、顧客情報の取得が進んでいない感じがします。
手段を持っている企業でも、例えば会員登録率やログイン率が低い、POSデータが統合されていないなど、さまざまな課題があります。企業内で顧客データが分散していて統合されていないことも多いので、結果的に使えていないケースも多くあるのではないかと思っています。
2.活用できる人材・組織が不足している
データ活用の文化がない企業は相変わらずたくさんあります。活用できる人材も枯渇していますし、組織的にデータドリブンな意思決定ができていないのが多くの企業の現状だと思います。つまりデータ分析ができる人材の不足です。データサイエンティストのみならず、そういったことができるマーケターやエンジニアがいなかったり、連携ができていなかったり、あとはデータを使う部門がサイロ化していたりするケースも見られます。例えばIT部門だけがデータを管理していて、マーケティング部門が活用できていない、というのはよくある話です。
3.プライバシー規制・法律対応の壁
日本はファーストパーティデータの活用についてかなりセンシティブなので、個人情報保護法の規制対応が求められます。さらに、日本企業はコンプライアンスが怖いからと慎重になり過ぎる傾向があるように思われます。かつ、明確なガイドラインや社内ルールがないことで、データ活用が進みません。音頭を取る人がいると進むはずなのですが、そうした人材はなかなか出てこない。ユーザーの同意をどう得るか、オプトイン取得の難しさもあると思います。
4.データをビジネスに活かすストーリーが描けていない
データを集めても何に使うのかが明確ではなく、単に集めている、集めることが目的になっているケースも結構あります。実際のマーケティングに活かせていない、成功事例が少なく社内で納得感が得られないことがハードルになっている会社が多いと感じます。
5.テクノロジーの導入・運用が難しい
例えば、CDPを導入する企業も最近増えていますが、データを入れるだけに終わり、マーケティング施策と連携できておらず、宝の持ち腐れになっているケースです。広告などでどんどん使えばいいのに、そうしたアクティベーション施策まで落とし込んだ運用ができていないのが現状です。つまり導入したはいいものの、使いこなせていないのです。
これらの課題から考えると、消費者や生活者であるユーザーにとっても日々使い慣れた環境の中で、データそれぞれについて「これは許諾します」「許諾しません」というのを選べると、企業がオプトインを取得しやすくなるのではないかと思います。
企業にとっては、スモールスタートすることが、ファーストパーティデータ収集活用のキーポイントでしょう。データ、ITなどさまざまなリテラシーが必要なので、スモールスタートであれば、導入難易度が高くなく、データを使ってやるべきことが明確だからです。
お二人は、企業がファーストパーティデータを活用する際の課題について、どのようにお考えでしょうか。
奥:ファーストパーティデータ活用が難しい理由について、異論ありません。特に、データを集めることが目的になっていて、その後何に使うのかが明確でなく、迷走する企業が本当に多い印象です。
杉原:何に使うのか目的がはっきりしていないから、データを取っていてもデータの設計から間違っていることもありそうです。収集してから「さあどうしよう」という話になることが結構多いと思うんですよ。
中里:Google 広告で新規顧客を獲得する会社は、例えばGoogleが自社が持っているデータで機械学習を回して、勝手に高度なデータ活用をしてくれます。そういったプラットフォームの力を使えない状況でファーストパーティデータやゼロパーティデータを活用すべきシチュエーションになると、何をしてよいか分からなくなってしまうケースは多いと思います。
ネイティブアプリでの新規獲得の限界とLINE公式アカウントの可能性
杉原:新規顧客獲得という話が出ましたが、LINEヤフー 奥さんから新規顧客獲得に偏重するリスクと長期的な顧客関係性の重要性についてお話しいただけますか。
奥:もともとヤフーもLINEもメディアの文化で育っていった企業なので、メディアのユーザー規模を生かした新規獲得の広告メニューや大規模リーチに偏重していた時代もありました。しかし、最近ではLINE公式アカウントや各種広告・検索メニューを使っている企業は、顧客ナーチャリングであったり、属性に的した形でのパーソナルに近いコミュニケーション手段として活用しています。また、業界によっては、見込み顧客となった人たちが何カ月後、何年後かに購入してくれればよい、という形で中長期CRM施策としてLINEを使っていただけるようになってきました。
コロナ禍以降は日本にもDXの波が来まして、データを取得するためにLINE公式アカウントやLINEの施策をしたいという声が増えてきました。なぜなら、デジタルを活用した顧客接点の主軸と考えられているネイティブアプリがうまくいっていないからです。ネイティブアプリ以外に顧客との接点がないとなったときに「じゃあLINEでやろう」と。そこから取得したデータを使って、CRMシステムに回していくという取り組みをしてきました。そのため現在では、LINEヤフーの法人向けのソリューションの軸として、LINE公式アカウントが法人向けソリューションの中心にあります。
企業が持っているファーストパーティデータをLINE公式アカウントと組み合わせて、さらに高度なマーケティングの配信ができるようにするところを、クウゼンさんと一緒に進めています。
一度はネイティブアプリに本腰を入れたものの頭打ちになっているという企業から「あのとき提案してくれたLINEの施策をもう1回提案してくれないか」という相談もここ数年あります。当時はネイティブアプリに夢を持って、しっかり自分たちの城を構えてやっていこうとしたのはもちろん間違いではありません。願わくばわれわれに広告費をかけずに、オウンドメディアで回していただきたいし、自走していただくのがいいと思っているのですが、やはりそうもいかないというところもあります。まずはいったんLINE公式アカウントに人を集めて、そこからネイティブアプリをダウンロードするもよし、ECで買うもよし、クーポンで来店するもよしといった形で、1回ユーザーさんをためる場所をLINEにつくる提案がここ数年増えてきています。
なので、今では企業様に使っていただいており、認証済アカウントは40万以上あります。未認証アカウントも含めると、数百万規模のLINE公式アカウントが開設されています。それらを合わせると、ほとんどの企業と店舗でLINE公式アカウントを使っていただいます。まさに中長期的な顧客関係性に企業が注力されていると感じます。
杉原:ネイティブアプリという言葉自体も久しぶりに聞きましたが、断片化していて大変ですよね。探してもらうのも大変ですし、運用していくのも大変です。そういったケースで「LINEでもう一度」という話になるときは、ネイティブアプリは諦めるケースが多いのですか。
奥:多額の投資をされているので、諦めているわけではないことが多いです。ただ、一足飛ばしに新規顧客をネイティブアプリに連れてくるのは難しく、いたとしてもロイヤリティが既に高い顧客になると思います。そこで、ミドル・ライトカスタマーへのコミュニケーションを狙うためにも、いったんLINEの中にプールして、ここで醸成して最終的にネイティブアプリにも行ってほしいという形があります。
頂点はやはりネイティブアプリで、優良顧客、ロイヤル顧客向けです。それ以外のミドル・ライトカスタマー向けにはLINEの施策を置く形が、今最も多いLINE活用の型になっています。
LINE公式アカウントで会員登録増から売上アップまで 受注金額261%の例も
杉原:事例があれば教えていただけますか。
奥:株式会社ストライプインターナショナル様の事例を紹介したいと思います。3年ほど前まで、ストライプインターナショナル様をはじめ、自社のECサイトや会員制度をお持ちの企業は、LINEの施策にはほとんど注力されていませんでした。そして、お客さまへのリーチ、DMが届きにくくメルマガが効かなくなってきたという課題と、自社会員化が伸び悩んでいる、ネイティブアプリがうまくいっていないという課題を抱えていました。
販促CRMのデータ活用にも課題がありました。データをマーケティングに活用しようという目的は決まっていたのですが、そのデータがそもそもシームレスではありませんでした。その結果、データを切り刻んだり、フォルダに格納してみて、さらにそこから分析をかけながら配信する必要があったのですが、あまりに効率が悪く、データを持っていても使えていないという課題があったのです。
そこに対して、ストライプインターナショナル様では、LINE公式アカウントとLINEミニアプリ(ライフスタイルのさまざまなニーズに応えるサービスをLINE上で提供できるWebアプリケーション)という二つのサービスを使いました。ユーザーがネイティブアプリの会員証ではなく、店頭でLINEのミニアプリで会員証を開くと、まずはポイントがたまるという一つ目の段階、そしてそのポイントをECサイトで使うならネイティブアプリで使うという形で、二段構えにしました。店頭では「LINEをお持ちだったらQRコードを読み取るだけで会員証がすぐ開き、ポイントが今日からたまります」と案内していただきました。その結果、新規会員登録数が10倍になりました。
LINE公式アカウントの友だち数イコール仮会員証を開いた人、要は仮会員になった人、なのですが、この数字の結果が出ています。
以上のことから、LINEの施策はミドルユーザーがスムーズに仮会員化できる施策だとご理解いただけたかと思います。さらに、仮会員から最も大事な最終ゴールである本会員に登録した割合も37%に上り、圧倒的に成功した施策とご評価いただいています。
杉原:これはすごいですね。
奥:さらに、お客さまへのリーチがそもそもなかった、メルマガが届かなくなってきているというところに関しても、セッション数やLINE経由の受注、つまり彼らの売り上げも非常に伸びました。
奥:最終的なCRMのデータ活用についても成果が出ています。会員のデータとしてLINEのID情報も持っているので、ピンポイントで打ち返すことができます。そのため、1to1の配信に非常に相性がよいのです。店頭のみの利用でECを使ったことがない人にはもちろんですが、かご落ちや誕生日クーポン、購入履歴配信を送ったりという施策もできます。
杉原:いろいろな施策が打てるわけですね。
奥:こうしたファーストパーティデータを活用したCRMの取り組みを、クウゼンさんと一緒に進めています。
LINEのデータ活用は継続的な顧客接点の確保に最適 CRMとの連携における課題とは
杉原:クウゼン 中里さんに伺います。LINEでのデータ活用について、どのような課題があるとお考えでしょうか。また、課題に対してどのようなご支援を提供されていますか。
中里:大きく課題は二つあると思っています。奥さんのお話にもありましたが、お客さまと継続的な顧客接点を確保して、中長期的にナーチャリングしていくのに、LINEは日本において最も特徴的な顧客接点だと思います。LINEはほとんど全員のスマートフォンに入っていて、開かない日などないツールなのに、その特殊な顧客接点を使いこなせていない企業がすごく多い印象があるのです。これが課題の一つ目です。
理由の一つとして、ファーストパーティデータをLINE上での施策にどう活用するかというところで、技術的な課題がこれまではありました。カゴ落ちや誕生日クーポン配信に必要な情報は、基本的にCRMシステム側に入っているので、そのデータをいかに使うかというところの課題です。そのCRMシステムとデータを連携する際に、1日1回しかデータ連携できませんとなると、かご落ちの配信は無理なわけです。1日前にかごに入ってたものはもう購入されている可能性があるので、リアルタイムに連携できないとそういった施策はできないのです。
これはあまり知られていませんが、CRMシステムに入っているデータをLINE側に持ってきても、そのデータをそのまま拡張ツール上で技術的に活用することはできません。なぜかというと、例えばCRMシステムに入っている誕生日のデータを持ってきても、多くのツールでは日付のデータとして使えないのですよ。誕生日をテキストの情報として使ってしまうので、この日付が今日と同じかどうかを判別できないのです。
杉原:それはデータ型の問題ですか。
中里:そのとおりです。
杉原:そこは意外と盲点ですね。
中里:誕生日も最終購入日も日付として扱えないと、マーケティング利用はできません。数字もそうです。購入金額などの数字のデータもテキストに変換されてしまうと、何の意味もない数字の羅列になってしまう。その課題は大きかったと考えられますが「クウゼン(KUZEN)」は外から持ってきたさまざまなデータを活用することを前提に設計しているので、そこを評価していただいているのは大きいと思います。
杉原:日付や数字のデータをうまく活用されている事例はありますか。
中里:大手のEC販売をされている浄水器メーカー様の事例があります。浄水器はコピー機と同様、カートリッジをお客さまに購入していただくモデルなのですが、LINE上でカートリッジの再購入を促すご支援をしています。この事例では、日付のデータがポイントになります。前回いつカートリッジを購入されていて、何日たっているからリマインドするという施策なのですが、非常にうまくご活用いただいています。もともとLINE経由の売り上げがほとんどなく、月に1桁万円だったのですが、今は4桁万円になっています。売り上げに占める比率も当初1%もなかったものが、今では20%くらいになっています。
杉原:それはすごいですね。
中里:この顧客接点を活用できると、非常に強いインパクトが出てきます。
もう一つの課題は、冒頭のお話にもありましたが、データを使って何をするかという絵姿を描けていない点があります。われわれは、クウゼンというツールと同時に、伴走支援もご提供していて、基本的にはお客さまに入り込んで一緒に作っていきます。そもそもどういうデータをお持ちで、LINE上でどういうデータを追加でご提供いただいて、その組み合わせでどういう施策を打つのかという絵姿を描けないと、どんなにいいツールがあっても何も起こりません。だからこそ、そこまで入らせていただいています。
杉原:初期導入のときは特に、どのデータを使うかという部分やCRMシステムとの連携のところでスタックしがちだからこそ、そのご支援を厚くされていると思うのですが、その後の日々のキャンペーンをどう回していくのかといったカスタマーサクセス的な支援もされているのですか。
中里:はい、導入後に関しては、大きく二つの理由でご支援をしています。
一つは、こうした施策は最初に全部つくりきることができないという点です。先ほどのストライプインターナショナル様の事例でもあったように、まず本会員を増やして、そこから施策を実施して…と段階的に進化していくものです。なので、1回できたのであとはよろしくお願いします、というわけにはいかないタイプの施策だというのが一つですね。
もう一つは、施策を回しながら学んでいく必要があるという点です。PDCAが必要になるということや、どういうメッセージをお客さまに送ればよいのか、どういうタイミングでコミュニケーションを取ればよいのか、というところまで含めてご支援しています。
杉原:業種ごとに施策の進め方も違うでしょうしね。意外とこの辺りは検索しても出てこないのですよね。キャンペーンをどう張ってどう効果測定してPDCAを回していけばいいかについては、分からないことが多いと思います。
中里:そうですね。企業、業種ごとに個別の要素も大きくなってくるので。
杉原:アタラにも運用型広告レポート作成をご支援する「glu」というツール事業がありますが、ツールの機能で一番ご評価いただくのはカスタマーサポートです。そこが差別化ポイントだと言っていただいているので、やはり大事だと思っています。
LINE、Web、外部システムからのあらゆるデータがマーケティング施策に活用できる
杉原:僕、飲んだり食べたりがすごく好きなのですが、最近はLINEでまず登録というのがすごく多いですね。
中里:増えていますよね。
奥:オペレーションが簡略化されたという声をいただいています。例えば会員証を例にあげますと「今、期間限定で公式アプリをダウンロードしていただいたら500円クーポンがもらえます」「では登録します!」「まずはGoogle Playで検索して…、このアプリです!」「これをダウンロードすればいいんですね」というやりとりで何分もレジを滞留させていました。それが今では「LINEお持ちであれば、QRコードで読み取っていただくだけでポイントがたまります」という一言だけで済むので、圧倒的にレジ前の混雑が軽減されたといいます。
中里:なお、クウゼンでは、LINE内外で収集したデータを基にセグメントを生成し、それぞれに設定したコミュニケーションを取ることができます。特にLINEでこれまで購入したことがあるか、何歳ですかといったアンケートを取り、その情報を使うケースが多いです。
二つ目が、先ほどもありましたが、LINEからWebサイトに遷移するというユーザー行動があります。重要なシグナルなので、Web側に弊社の計測タグを埋めていただいて、LINEから誰が来たのか、どのページに遷移したのかという情報をクウゼン側に返して活用することもできます。
こうした使い方をされないケース、もしやっていても特定の1ページにタグを埋めて、このページに来たか来ていないかという情報しか使えないというケースがほとんどなのです。われわれはこのページからこのページに遷移したとか、最終的に購買完了ページまでいっていないといった情報を使えるようになっているので、レベルとしては1段高いのかなと思います。
最後が、CRMをはじめとした外部のシステムと、基本的にはAPIで連携をして中に入っているデータを使うというものです。
杉原:連携するシステムはSalesforceなどということですか。
中里:Salesforce、kintoneなどが多いですかね。あと各社でつくられているケースもあって、そういったシステムと連携することもあります。EC企業ですとEC特有のカートシステムがあるので、そこと連携することが多いですね。
杉原:これがさっきおっしゃっていた、例えば日付、購入日であるとか、購入金額であるとか、そういったデータを自由に持ってくることができるという部分ですか。
中里:できます。
杉原:制限はあるのですか。
中里:ありません。
杉原:すごいですね。もうアイデア次第ですね。
中里:こういった機能を活用して、どういったマーケティング効果を生み出すために全体として施策を設計し、どのような順番で進めていくか。その両輪があって初めて事業として価値のある取り組みになるのかなと思います。
杉原:導入には平均でどのくらいの時間がかかるのですか。
中里:1〜3カ月程度です。ご契約いただいたらマーケティング施策全体の中でLINEをどのように位置付けて、どういうものをつくっていきましょうかという話から始め、早ければ1カ月くらいでお客さまに公開します。
杉原:どのような業種が多いのですか。
中里:BtoCを幅広くやらせていただいています。お客さまとの継続的なタッチポイントが重要であればあるほど価値が生まれやすいので、LTVが高めとか、リードタイムが長いといった業種が比較的多いです。お客さまとのコミュニケーションが複雑になりがちでかつ長期間続くことの多い、不動産や人材紹介、人材派遣、EC小売り、サブスクリプションのビジネスも多いです。
杉原:クウゼンさんと一緒にやってみたいと思った企業は、何を準備しておけばよいのでしょうか。
中里:やる気、ですかね(笑)。
奥:確かにそれは大事ですね。
中里:導入のハードルは低いのです。ネイティブアプリをつくろうとすると一定の投資が必要になりますし、詳細まで仕様を設計する必要もあります。しかも社内にエンジニアリソースがゼロだと厳しいということになりますが、その辺りのハードルがとても低いので、手ぶらの状態で来ていただいて大丈夫かなと思います。
杉原:スモールスタートも可能なのですか。
中里:可能です。外部システムとの連携を見据えながら、まずはLINE上で取得するデータだけでも一定の意味あるセグメントがつくれます。そこでお客さまとのコミュニケーションを始めることに価値があるんです。なので、実際スモールにスタートする企業はたくさんいらっしゃいますし、有効な始め方だと思います。
LINE活用を進めるソリューションは将来的な拡張性も見据えて選ぶべき
杉原:クウゼンさんはLINEのパートナーになられて長いのですか。
奥:クウゼンさんは大変多くの審査基準をクリアしたTechnology Partner(「LINE公式アカウント」「LINE広告」「Yahoo!広告」「LINEで応募」「LINEミニアプリ」を中心としたマーケティングソリューションとAPI関連サービスの導入において、技術支援を行うパートナー)であり、2024年5月に、その中でも特に優秀なパートナーであるAdvancedとなっていただいています。私たちがお付き合いしているベンダーさんの中でも、さまざまな外部システムとシームレスにつながりやすいのが大きい特徴なのではないかなと考えています。
クウゼン自体が、AIやチャットボットの活用などで、仕組みバージョンをどんどん上げています。これから始めようとしている企業さんがクウゼンと他のパッケージとを比較されるならば、外部のシステム連携などの拡張性を考慮する場合は、クウゼンを選ばれるといいと思います。
杉原:両方とも大事なポイントですよね。冒頭から言っている、取り組みやすさ、使いやすさの点で、システム間が連携されていないとマニュアルが入ってしまいますよね。データをエクスポートしてインポートして、となると運用が途端に止まってしまうので。
奥:拡張性を持たせたほうがよいかどうか分からずに、拡張性のないパッケージを選んでしまうと、あとで困るというのもよくあることです。
中里:ありますね。初めに選んだツールで限界が来てしまうという話は実際によく伺うので、その場合データ移行を行います。ただ、正直、大変な作業ですね。
杉原:そうですよね。あとは、AIをはじめ、テクノロジーもどんどん変わっていきますから、きちんと対応してくれるというのはユーザー企業からしてもとても安心だと思います。他ツールからの移行の事例はありますか。
中里:ライフサービスプラットフォーム事業を展開されている株式会社じげん様は、数多くのサービスを運営されていますが、そのうちの一つにクウゼンを利用いただいています。リフォームをしたい方とリフォーム会社のマッチングサイトです。リフォームをしたいと考えている方にLINE公式アカウントの友だち追加をしていただいた後、まずは見積もり依頼を促すメッセージを配信し(1段階目)、それに反応する形でお客さまに見積もり依頼を出していただきます(2段階目)。最後にじげん様のカウンセラーが詳細なヒアリングを行いご希望に応じたリフォーム会社をご紹介する(3段階目)という3段階のプロセスになっています。
もともと他社のプラットフォームを利用されていましたが、技術的に1段階目まで対応できていませんでした。クウゼンを導入していただいてから、今、2段階目まではLINEで完結するようになっています。情報提供に関しても、LINEのトークルーム内で必要な情報を送ると、その情報がSalesforceとリアルタイムで自動で連携されます。その後のより詳細なヒアリングは基本的に電話でされているのですが、一部をLINE上でオペレーターと1to1でチャットができるクウゼンの機能を活用し、置き換えを始めています。
この1段階目しか実現できていなかったところを、2段階目、3段階目と広げることで、クウゼンを導入して早々申込数が20%アップしました。いかに下流のほうまで同じ顧客接点でコミュニケーションをとり、お客さまがあちこちに行かないようにしていくという点で効果が出た事例だと思います。
今後はLINE公式アカウントとLINEミニアプリの二軸で顧客との接点を強化
杉原:最後に今後の展望についても教えていただけますか。
中里:LINE公式アカウントでのやりとりは、自動での応答と、人を介した1to1のやりとりを両立できます。これも他の顧客接点だと難しい部分です。その両立をより効率良くできるよう支援していきたいと思っています。
その一つが、生成AIを使ったメッセージの校正・改善機能の開発です。いかにコミュニケーションをよりスムーズにするか、よりよいものにするかという部分での生成AI活用を進めていきたいと考えています。
もう一つはLINEミニアプリへの対応です。公式アカウントに加えて、より複雑で高度なことをLINEという顧客接点でやろうとすると、ミニアプリが必要な場面が出てきます。そちらにも対応していく予定です。
杉原:LINEヤフーさんはいかがですか。
奥:今まさにおっしゃっていただいたLINEミニアプリを、LINE公式アカウントと同時に導入する企業も増えています。LINEミニアプリでは、LINEのユーザーがQRコードやNFCで読み取ると、すぐに設定してあるWebサイトが立ち上がり、同時に、ID情報を取得できます。先ほど、ID情報とひも付けてメッセージを送るという話をしましたが、例えばモバイルオーダーや順番待ちの整理券、デジタルカタログなど、Webサイトで作れるもので作ってさえいただければ、そこから顧客データが取得でき、メッセージが送れるという二段構えがよりスムーズにできるようになります。われわれの会社としても、LINEミニアプリを強くおすすめしています。なので、クウゼンさんに対応していただけるのはすごくありがたいですね。
杉原:事例が出てきたら、ぜひご紹介いただきたいですね。本日はありがとうございました。
中里・奥:ありがとうございました。
※本記事の内容、所属、肩書きは公開当時(2025年7月)のものです。