SES(Search Engine Strategies)に参加するためサンフランシスコに一週間訪問した。

サンフランシスコは例年夏でも涼しいのだが、今年は異常気象らしく日中10度ちょっとの日も多かった。夕方や夜には確実に長袖が必要になる。日本との温度差に苦しみながら3日間のカンファレンスに参加し、色々なものに触れてきた。

セッションの内容などについては業界誌、業界ニュースサイトへの寄稿を今回もさせていただいたので、そちらを読んでほしいが、それ以外に思ったことをここでは書き留めておきたいと思う。

今年は米国における業界のスピード感を今まで以上に感じてしまった年となった。米国はアドエクスチェンジを中心に位置づけたネット広告のエコシステムがものすごいスピードで構築されている。色々な役割や機能を担う新進のプレーヤーが、我こそはと、市場に参入し、しのぎを削っている。このエコシステムは日々ものすごいデータ量が飛び交い、瞬時のうちに取引され、広告が知らないうちにどこかで露出し、クリックされる。ディスプレイ広告、サーチ、ソーシャルまで、あらゆる施策が同時に実施され、それぞれの貢献度合いが重み付けされ、全体最適された上でキャンペーンが繰り広げられる。

私が決定的なスピード感を感じたのは、アドエクスチェンジを中心としたエコシステム形成のスピードもあるが、それ以上に、限りなくデータドリブンになり始めている米国市場と、それを取り巻く業界の人々のメンタリティにある。様々な過去の実績データや行動履歴が活用され、最適なターゲティング、最適なタイミング、最適な入札金額が瞬時に割り出され、広告配信が行われている。アトリビューションは、複数の施策をまたがって、ユーザーの行動軌跡を測定し、各施策の貢献度合いを解析し、最適化を行う。

これだけでも充分大変だ。

ものすごい量のデータを分析しなければ、本当の最適化などはできないと思う。しかもデータだけに頼ればいいかというと、人間の行動パターンの解析はあまくなく、最終的には経験、スキル、ノウハウ、洞察力に裏付けられた人間の勘的なものがモノをいう。データは言うなれば、人間の勘を補完するための参考情報とも言えるかもしれない。

支援するツールは出てきたが、さすがの米国でも、これを支える人はまだ多くはない。ただ、所詮、現在の最適化プロセスはいかに「今」の状態をベストにするかが中心である。米国の一部の広告主やテクノロジーベンダーは、この先を行き始めている。アトリビューションの次のフェーズは「予測」とされている。「今」ではなく、「将来」を予測して、競合の先を行くという取り組みである。実際、predictive analyticsを取り入れているテクノロジーベンダーも出始めている。IT業界ではpredictive analyticsは別に新しいことではなく、以前から行われている。IBMがここ数年のうちに、解析ソフトウェア大手のSPSS、アクセス解析大手のCoremetrics、Unicaを次々に買収しているのは、ウェブマーケティング業界への参入の取っ掛かりとしているのと、一大市場になると予想されているpredictive businessの中で、ウェブマーケティングというパズルの一つを埋めるためと思われる。ウェブを中心としたビジネスがこれだけ増えている状況の中で、ウェブマーケティングは従来のプレーヤーだけのものかというと、そんなことは決してない。将来有望な分野であり、他の様々な業界が参入してきてもおかしくない

人の部分については、SESでも「データ分析のためのシステムと人に今のうちから積極的に投資せよ」とあちこちのセッションで話されていた。米国はこのデータドリブンな状況に反することなく、淡々と来るべき時期に備え、今から試行錯誤をしておこうという。表現が難しいが、「もう進化は加速してしまっているから、遅れないためにもやっておかなきゃね」というような、ある種前向きなあきらめ的な感覚に近いものを感じる。SESのようなカンファレンスに参加する人の態度も極めて真面目で懸命だ。何かを吸収してやろうという意気込みがすごいと毎回感じる。来るべきデータ時代に備え、しかるべき準備や投資はしているだろうか?競争はグローバルであり、米国の事情だからという言い訳はもはや通用しない。この流れに反することなく、日本の業界もうまく乗っていかないと数年もすると、「今」と「将来」のどちらを見ているかで歴然と差が出てしまうような気持ちになるのは果たして自分だけだろうか。

杉原剛

2010.08.31