炎天下の土曜日、カフェで数時間かけて1冊の本を読了しました。

 

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ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用
出版社:ダイヤモンド社
著者:リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ
監訳:篠田 真貴子
翻訳:倉田 幸信
発売日: 2015/7/10

 

ビジネス書はそこそこ読むほうです。著者の一人であるLinkedin創業者のリード・ホフマンは自分の中では「安定的な実績のある」アントレプレナーとして尊敬しています。彼の場合、PaypalやLinkedinでの成功がハイライトされることは多いですが、雇用や組織運営に対してこういった考え方の元で実践してきた人だという認識は正直なところありませんでした。

 

実際のところ、読むきっかけになったのは監訳を担当した篠田真貴子氏が慶應義塾大学時代の友人で、書籍が発売になることを1週間前に知ったからです。篠田という人は大学時代から飛び抜けて優秀で、「この人は自分がどうやってもたぶん一生かなわないな」と思った何人かの一人です。今もその思いはあります。その彼女、大学卒業後の経歴を見てもらえれば輝かしいキャリアを歩んできていますが、大学卒業後、最初に勤めた大手銀行の破綻、留学、結婚・出産、大手コンサルティング会社やグローバル製薬会社での転職を経て、働き方、組織のあり方に関してはずっと内なる思いがあったのだろうと勝手に思っています。今は東京糸井重里事務所のCFOとして、多くのメディアにも登場する同社の「顔」ですが、ちょうどこの仕事に就いた直後にグーグルに遊びにきてくれたときのことを憶えています。まだ変革を起こす前の、嵐の前の静けさとでも言いますか。あ、この人なんかやるんだろうな(笑)、と思わせるひとときでした。その後の活躍はウェブ検索してもらえればいくつも出てきますが、以下のインタビューが彼女の略歴をカバーしているかと思います。

東京糸井重里事務所取締役CFO 篠田真貴子氏(上)〜夫婦で私費MBA留学 互いにクラスメート支えに乗り切る
東京糸井重里事務所取締役CFO 篠田真貴子氏(下)〜クリエーター集団を本物の会社にする手応え 大企業にはない面白さ

 

まあ、最近は年に1度位しか会えませんが、その際もさまざまなビジネス話、キャリア話で盛り上がるので、その篠田が初の監訳仕事に選んだ本はどんなものよ?!という興味があって手にとった次第です。

 

篠田が書いた前書きにもある通り、本書は、たった数年で転職していったとしても、会社と働く人が「終身信頼」関係を築けることが、豊富な実例とともに論じられています。会社と個人の間に、フラットで互恵的な信頼に基づく「パートナーシップ」の関係を築こうよ、という主張をしています。それが本のタイトルになっている「アライアンス」という考え方です。

 

その具体的な手法の一つとして、「コミットコメント期間」を双方で儲けることを推奨しています。コミットメント期間は、簡単に言うと、双方の話し合いの中で、仕事の内容と期間を具体的に定めて遂行するという取り組みです。会社は優秀な社員を雇用でき、長期的利益につながる結果を得られ、社員は先々のキャリア目標に向けた会社からの信頼と支援を得ることができることになります。コミットメント期間が終われば、社内での別のコミットメント期間を設定することもできれば、社外に機会を見出すこともできます。特に双方で契約を交わすわけでもなく、あくまでも信頼・道義に基づいた取り組みの形です。よって、コミットメント期間は、特定のミッションに対する会社と社員の道義的責任を具現化したもの、と述べています。

 

これは実際アタラでも実践している部分があります。人材採用において面接する際に私が自分に与えている唯一の仕事は、会社と個人の目標・方向性がまったく違う方向性に向いていないかを確認することです。スキルセットのチェックなどは、より現場寄りのメンバーに任せています。会社のミッション・ビジョンをお互いに確認した上で、将来どういうスキルを持ったビジネスパーソンを目指しているかを聞きます。募集職種において、それを実現可能なのか、または、会社として何か支援できることがあるのかは厳密に話し合います。本書でも、そのことが書いていますが、双方の目標が完璧に一致されることが目的ではなく、ある期間、一定の条件のもとでのみ、自然な形で両者を揃える「整合性」を目指すことが必要であると。社員が生涯に渡って会社のミッション・ビジョンに向かうケースもあれば、そうでないケースもあるわけなので、それが極めて自然な形だと思います。

 

結局のところ、社員個人として得られるものがない組織にはなかなか定着しないということです。成長できない組織にいても不安ばかりが醸成されるだけです。実際、いざというときにそれで強く生き延びていけるかというと、それほど甘くはないということも感覚的に理解している人も多いと思います。であれば、双方の利益のために、きちんと話し合って目標をある程度合わせ、それに向かいながら社員は会社の利益に貢献できるようパフォーマンスをフルに発揮し、会社は社員が将来に渡って活躍できるためのしかるべき支援をする、というのは双方にとってメリットのあるやり方だと思います。

 

私自身、社員には口癖のように「何年アタラで一緒に働けるかわからないけど、もし外に出ることがあっても、アタラ卒業生として恥ずかしくない仕事ができるような仕事、環境、教えを提供する」と。いい仕事をして、いい報酬を得るのは基本中の基本。国内外のカンファレンスやセミナー参加、書籍やソフトウェアの全額負担など、学びのための投資は惜しみません。社内勉強会「赤坂塾」「アタラ道場」も活発です。もちろん今後アタラを卒業する人も出てくるでしょう。でも、会社と個人の関係性はそんなものだと本心で思います。一緒に仕事をする間はきちんとコミットし、卒業してからもいい関係でいたほうがお互いにとっていいと思います(オーバーチュアやグーグルの国内外の現役・卒業生には随分と助けられています)。最初から信頼をベースにしたほうが、お互いにとってうまくいくという感覚は持ち合わせていると思います。

 

それ以外でも「社員にネットワーク情報収集力を求める」、「会社は卒業生ネットワークを作ろう」なども納得のいく内容ばかりでした。特に外資系企業で実践している会社は多いです。卒業生ネットワーク(Alumni Network)はインテルでもグーグルでも組織的な運営がされていて、参加者のインタラクションも活発だと思います。メリットを享受できている人も多いはずですし、盛り上がれば盛り上がるほど、会社にも恩恵が戻ってきます。

 

本書は全体的に、単なる概念を説くだけでなくすぐに取り組むことができる実例やアプローチを含んだ実践的な内容になっています。「アライアンスの合意書」見本もついていて、サンプルとして活用することも可能です。

 

本書を読んで、これまでもアタラで実践してきたことへの自信が深まり、これから実践したくなるようなtipsが多く含まれていました。実際、読んでいて引き込まれましたし、翻訳も上手く、特にわかりづらいと思うような部分は全くありませんでした。
よい書籍に導いてくれた篠田に改めて感謝!

2015.07.11